回想
障子が薄らと明るくなってくる。



心は沈んだ闇色だが、それとは関係なく今日も朝日が昇る。鷹耶の事を思いながら目を閉じて朝が訪れるのを待った。


海藤家に来て2日目、昼近くに汗をかいた体を家政婦さんに拭いてもらって、着替えると、病院の先生が往診に来た。右手はかさぶたができ始め、こぶしを強く握り締めたりしなかったら切れて出血することもない。どうしてもお風呂に入りたければ濡らしても構わないが再度消毒をするように言われた。まだ熱も下がっていないので風呂は入ったとしても明日以降と指示された。

左手は酷かった。
テープで接合して治りかけていたところは、また裂けてしまい、皮もめくれて自分で直視するのが怖い状態になっていた。
おととい病院で「痕は残るが縫わなければまた出血すると」言われ、麻酔をして9針も縫った。今日も患部を消毒して、包帯を巻きなおす。抗生物質の入った薬を出されたが、まだ食事がのどを通らないと言うと胃薬も一緒に出してくれた。

修爺ちゃんは昨日からゴルフ旅行に出かけ、本当は同行するはずだった九鬼さんは、僕が心配だとお爺ちゃんに残るように言われて世話をしてくれる。




「ねえ、九鬼さん」

昼になってやっとおもゆを飲んだ僕は、布団から起き上がって九鬼さんと話をしていた。


「鷹兄って、高校生の時どんなだった?」

「若の高校時代ですか」

九鬼は眉をしかめて、顎の下に手を添えてしばらく黙っていた。



「そうですね。どこまで話していいものやら」

言えないことなのかな?話したら怒られるのかな?首をかしげて僕までも悩んでしまう。



「ちょうど、高校生になったころに静さんと若は出会ったんですよね」

「うん。でも僕小さい頃のことあんまり覚えていないんだ。屋敷森で会ったことは何となく覚えているんだけど」
「そうですか・・・」

穏やかに笑いながら九鬼はさし障りのない程度に昔の鷹耶の事を教えてくれた。



「若は小さい時から何でもお出来になりましたよ。勉強も、スポーツも。目立つことは進んでしませんでしたが、周りが放っておかなかったので中学の時は生徒会役員もしましたね」

「へ〜そうなんだ」

大好きな鷹耶が褒められると、まるで自分もいい気分になってしまう。



「高校生の時は・・・いろいろありましたね〜まあ、誰にでも反抗期はありますから(私に対しては未だに反抗期全開ですけどね)・・・」

「そうなの?でも鷹兄ちっともそんな感じしなかったけど」

出会った頃の鷹耶は完璧な優しいお兄ちゃんだった。反抗期でひねくれてた?とか想像もつかない。でも鷹兄は確かに怖い。そんな時期があったとしたらさぞ怖かっただろうな。



「静さんと居るときは、特別なんですよ。」

特大の猫を被っていますからね。そんなことは口が裂けても言うわけにはいかないが。あまりしゃべるとまた嫌われる材料を増やすことになるので、話はこのあたりで打ち切り、また静を床に就かせた。


「九鬼さん」

「はい?」

「僕・・・いつ帰れるのかな」
「そうですね、熱が完全に下がって、せめて右手の自由がきくようになるまでですかね。医者が言うにはあと2、3日は、誰かの世話がいるだろうと言っていましたから」

「そうですか・・・」

表情が暗くなる静に、九鬼は心配になって顔を覗き込む。


「帰りたいのですか?ここは落ち着きませんか」
「そうじゃないけど・・・」

言い詰まって静は小さな声でボソリとつぶやいた。






「鷹兄に・・・ちゃんと、謝りたくて」




鷹耶に対して反抗期を迎えている静が、恥ずかしそうに話す様子を見て、九鬼は穏やかに微笑んだ。

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