それぞれの退屈
ドアが閉まったとたん、西脇はこらえていた笑いを思いっきり噴き出した。



「お、おい、・・・見たか今の、あれ絶対俺に会わせたくねえんだぜ。ったく、箱入り子猫ちゃんかよ」



西脇の会話を完全に無視していたように見える鷹耶だが、要は静に会いたいのだ。自分だけ。西脇なんぞには会わせるつもりは毛頭ないのだ。

「会っていただかないと、精神衛生上よくありません。不機嫌をぶつけられるこっちのことも考えていただきたいものです」

自分の手中に収めているのに、会えば文句しか言わない静の怒りを納めるために、距離を置いたのはいいが、静がそこにいるのに会えない辛さが、鷹耶をいらつかせその私憤のとばっちりを受ける自分達。



「あー、退屈だ。上に行きてー」

面白いものがきっと見れるはずだと、どうせ追い出されるのは分かっているが、入口まで付いていけばよかったと西脇は後悔する。

「いいじゃないですか。あなたはこの間面白い場面に居合わせたんでしょう」

いつものデリバリーを注文している近くのホテルに昼食を急ぎ届けるように連絡した後、瀬名は西脇の前に座り、首を回しながらくつろぐ。

「私なんて、空港以来子猫ちゃんと会ってませんよ」
「そりゃあ、多分お前を見たら、子猫ちゃんが怯えるからだろ」

その言葉に西脇を眼鏡の下からギッと睨む。

「ほら、その顔、こえ〜」
「あなたは一言多いんですよ。口は災いのもとそのうち痛い目に遭いますよ」
「はいはい先輩。以後気をつけますよ」

数年だけ自分より年上の瀬名を敬う素振りを見せているが、これはからかっているだけにしか見えない。




「じゃ、私は社長の所に行ってきますね」

いきなりの秋月の言葉に、2人は驚き、

「えっ、上って、子猫ちゃんとこに行くの秋月さん」
「はい」

ニッコリ優しい笑みを浮かべた見た目温和な秋月は、机の中から重たそうな紙袋を取り出した。

「これを社長に買ってくるように頼まれていたのですが、さっき渡しそびれてしまったものですから」

中身は参考書らしい。部屋にいる間勉強をしろと言ったら、宿題は既に全部終わらせたと静が言うので、新しい教材を揃えるようにと言いつかっていたそうだ。
さっきは鷹耶が急に仕事を切り上げて出て行ってしまったので、渡すことができなかったのだ。


「げ、いいな〜秋月さんだけ。俺の方が時間があるんだから俺に言えばいいのに、鷹耶の奴」
「あなたに参考書の類が適切に選べるかどうか、そこが不安だったんでしょうね」
「先輩さん、てめぇ」
「何かな西脇後輩君」

この二人も大概ストレスがたまっているように思われる。
そんな言い合いの最中、13階にいる鷹耶に電話で入室の許可を得た秋月が、では行ってきますと、紙袋を持つ。

「入っていいって?」
「はい。今許可を頂きました」
「じゃあ、俺たちも」
「あ、それは・・・私一人で来るようにと」

ニッコリ嬉しそうに笑い、2人には申し訳ないけど・・・と言って断りを入れる。


「なんで秋月さんはよくて俺たちはだめなんだ?」


それは、自分でも分かっているだろうに・・・

お調子者で、静に何を吹き込むか分からないいいかげんな西脇と、仕事中は酷薄な表情を崩さない静を怯えさせるだけの瀬名なんて絶対近寄らせたくはないだろう。
この3人の中では秋月が一番普通なのだ。今のところは特に害がない。



「まあ、年の甲と言うやつですよ、きっと。では」

出ていく秋月をうらやましそうに見ながら、面白い情報を持って帰るようにお願いした西脇だった。





そして部屋を訪れた秋月は・・・


3日ぶりの逢瀬のはずなのに、ブスッとして一言もしゃべらず鷹耶に背中を向けたままテレビの前に座り込む静と、そんな静を横目で見ながら、ソファーに座りコーヒーを飲む鷹耶を目にすることとなった。



ああ・・・一戦交えた後だったか・・・・・おしい。見損ねたな。



プライベートルームに缶詰になって1週間。2人の関係はよくなるどころか険悪になっていく一方だった。

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