怒り
「やはりあの時、お前をどんなことをしても手元に置いておくべきだったな」
自分だったら、絶対に静に危険なことはさせない。手元に置いて、真綿で優しくくるんで、世の中から隔絶したきれいな世界で、静を育てただろう。
あの女に渡したばかりに、自分の目の届かない所で静は今回のような危険な事をしでかしてしまう。
僕を抱き寄せた鷹耶さんは、僕の髪の毛に顔を落とし、愛しそうに頬を擦り寄せてきた。
この世間知らずで、かわいらしい俺の静は・・・これから先が思いやられる。
それにしても連絡が繋がらないのが一番心配だったと、だから携帯はいつでも繋がるようにしておけと言われて、
「あー・・・携帯寝る前に切ってて、気が付いたら時間過ぎてて。ゲームしてたから。あ、このリュック」
と、かわいいゴマちゃんのふわふわリュックを指差して言った。
「これ先輩がUFOキャッチャーで取ってくれて。だから本当に熱中してて」
こんな物で、静の気を引こうとする奴までいるのか。後で捨ててやる・・・
ぬいぐるみまで憎らしい目で見てしまい、どんどん許容範囲が狭くなる自分はこんなにも静のことを思っているのに、本人には全く気持ちが伝わっていないことにどす黒いものが心を満たす。
「それで、電車で来たと言うわけか」
ううん。と否定する静にそれから後の話を聞いた鷹耶は、また青筋を一本増やすことになる。
男のバイクでタンデム・・・、ぶっ飛ばして来たと・・・
「お、お前は、、 どうしてそういう危険な事ばかりするんだ。事故にでも遭ったらどうする!」
間横に座っているんだから、そんなに怒鳴らなくても聞こえるよ。ああ、耳が痛いったら。
ごめんなさいと、小さい声で謝るが、鷹耶さんの機嫌は下降の一途をたどる。
門限を破り、夜間徘徊に、無断宿泊、ゲームセンターなどふさわしくない場所への出入り、バイクに乗った事そして、この怪我と初めについた嘘。
他に余罪はないかと散々怒られながら追及され、過去最高の恐怖を味わった僕に、今回は許さないと不穏な言葉を投げかけられた。
ああ、何かとてつもなく嫌な予感がする。
手はズキズキ痛むし、大体鷹耶さんが、傷口の周りを刺激するからだよ。こんな風に脅すみたいな方法ってなんか、こっちも許せない、腹が立ってきた。意地悪すぎる!!
何が許さない!だよ。それはこっちの台詞だよ。
約束をすっかり忘れて、ほっつき歩いていた自分のことは完全に棚に上げ、静は不条理なやり方で無理やり言わせた鷹耶に不満の目を向けた。
車は会社近くの総合病院に到着し、鷹耶に付き添われて治療を受けた。
これはまた、きれいにスパット切れてますねと、医者は傷口の切れ方を見て変に感心していた。
先生は縫ったら早く治りますよ、と言ったが縫うのは怖くて、オロオロしていると、
「絶対に傷を残すな。元通りにしろ」
と、背後から鷹耶さんが偉そうに言う。ほんと、鷹耶さんってどこでも偉そうな態度だよね。
お医者さん相手なんだからここはお願いしようよ。
手の甲は縫うと後が残りやすいので、テープで皮膚を引っ張って寄せてくっつけるという、やたら治療に時間がかかる方法に決まった。
「っう。痛っ・・て・・・」
テープを張るのに寄せた傷口が痛すぎる。
痛がる僕の肩を後ろから優しく支えてくれる鷹耶さん。
うん、これはいつもの鷹耶さんだ。さっきの、あの怖い鷹耶さんじゃない。
そのことにホッとして、なるべく怒らせないようにしようと思ったけど、自分はまだ真実を全て話してはいないからいつばれるか気が気ではない。
嘘ついたから、あんなに怒ったんだし。
絶対、バレないように気を付けよう。
だってほんとに、怖かったから。
冷然とした表情で、僕の傷をなぞろうとしていた鷹耶さんは、僕の知らない無機質な目をした人だったから。
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