そしてデンジャラス
「あれは、どこだ」




その問いに場の空気が固まる。


出迎えの中に自分が待ち望んでいた人物がいないことに、鷹耶の纏う冷めた空気が揺れる。

問われた出迎えの部下は、鷹耶の前に出て説明をする。




迎えに行かせた社員が話すところによれば・・・

時間通りに迎えに行ったが、所在がつかめず、連絡がついたのは時間を過ぎてからであったと。朝川様は空港に電車で向われたました、間に合うかどうか分からない、こんなことになってしまって申し訳ありません・・・・・との連絡を1時間前に受けたと、目の前にいる部下が頭を下げながら説明した。




間違いなく温度が下がった。ピキーンと張りつめたこの空間に部下達は恐怖を感じて生唾をゴクリと飲み込む。

鷹耶の目は据わり、脳なしの部下はいらないとでも言うように、踵を返しロビーの待合室を目指して歩き出した。
愕然とする部下達。

瀬名、秋月も社長に続き部下たちに声もかけない。


「お前ら先に車に行っとけ」
西脇に命令された部下たちは、青ざめた顔のまま一礼してその場を後にした。


人一人くらいなんで連れて来れないかね〜あいつの不機嫌ズラ見たか?帰ってすぐにこれかよ。
チッと舌打ちして、西脇自身も鷹耶の元へと続く。






ーーーーーー似合わない



人が混み合う待合室の椅子に、長い足を組み座る鷹耶。

男らしい精悍な美貌に、周りの女性達は目を輝かし、頬を赤らめ、羨望のまなざしを向けている。
上背のある体躯にスーツを優雅に着こなし、どこか影のある研ぎ澄まされた表情は、男の野性味を感じさせると共に高貴な雰囲気も漂わせる。

鷹耶がエグゼクティブルームに向かわず、こんな場所に座っているのはひとえにあの子を見つけるためだろう。




だからって・・・似合わねぇ。なんだ、何だよこの異様な雰囲気は。


さらに不機嫌な鷹耶からまき散らされる威圧的で憮然としたオーラによって、行きかう人は目を伏せてそそくさとその場を立ち去ろうとする。

一般人に危害を及ぼすなよな。これだから自覚がない人間ってのは。あの不機嫌極悪顔を鏡で見せてやりたいよ。

鷹耶の前に立って俺は、怒りがどんどん増していく社長様を呆れて見下ろした。

何食わぬ顔でその後ろに座る秋月。
今後の社長のスケジュールをどうずらすべきかを手帳を見ながら考えている瀬名。

違うことをしながらも全員考えていることは同じだろう。


そう、幹部たちは心の底から思っていた。






子猫ちゃんにも困ったものだとーーーーーー






海外出張で一週間が過ぎたころ、いつも通り不機嫌だった社長が、電話が終わったとたんあり得ない微笑を浮かべ仕事に戻っていくのを見た瀬名は、朝川君マジックか!と心の中でつぶやいた。

その後、静が空港まで来るから、会社の者にアパートまで迎えに行かせろと、社長から指示を受け本社の者を手配した。

”お迎え”という新たなオプションに刺激された社長はそれはもう意欲的に仕事をこなし、自分からしない握手まで相手に施し、驚くべきスピードで契約を成立させて行った。


そして予定より3日も早まった帰国。

到着ゲートをくぐるまで、うちの社長様はそれはそれは今世紀まれに見るほどの上機嫌さだった。




しかしそれはあっけなくも崩れ去る。

ゲートをくぐったとたん、無能な部下による思いもよらなかったアクシデントで、社長様の周りはブリザードが吹き荒れていた。


いい意味でも悪い意味でも、鷹耶がここまで感情をあらわにできる相手はあの子しかいないだろう。


だから、早く・・・


あいつがマジでキレる前に来てくれよな、子猫ちゃん・・・このデンジャラスな状態をなんとかしてくれ。

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