ライブの帰りに流血沙汰
「先輩、1人でも、勝てる、とは、思う、けど」
僕は相手の攻撃をよけながら先輩に言葉を返す。
「面白ぇのが半減する。全部よこせ」
相手の拳をギリギリで交わし、男の背中を天馬先輩目がけて軽く蹴る。
「んじゃ、パス!」
男は僕に蹴られた勢いで先輩の正面に出てしまい、
「ナーイス、彼女!!おりゃぁーーー」
先輩は相手の腹に思いっきり拳をメリ込ませた。あの人内臓大丈夫かな。
背後から忍び寄る気配を感じ振り返り構えたとき、夜の闇に銀色の閃光がシュッと走った。
その刹那、急に手が熱を持ったように熱くなる。
構えた手を見ると、左手の甲に赤い線が一本。
えっ?と思った時は血がポタポタと地面に垂れ落ちていた。
正面に立つ男の震える手には、銀色に光る小型ナイフが握られていた。
「静!!」
天馬はナイフを持ち震えて動けない男を蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。
ナイフを持つ拳にかかとを振り下ろして、メキメキと音を立てた。
「うぎゃあーーー−」
男は痛みに顔をゆがめた絶叫した。拳が砕けたのかもしれない。
情け容赦の無い天馬の攻撃に残りの2人は倒れる仲間を置きざリにして、その場から逃げ去った。
「大丈夫か、静。くっそ、あいつら」
「うん、大丈夫・・・かな。ちょっとびっくりした。まさかナイフ持ってるなんて思わなかった」
怪我をした僕の手にハンカチをあて、天馬先輩は携帯で友成さんと連絡を取り始めた。
逃げた連中が仲間を呼んで戻ってくる可能性もあったので、僕達はメンバーが溜まり場にしている店に行くことになった。
手に結んだ白いハンカチが、だんだんと赤く染まっていった。
店には友成さんが救急箱を準備して待っていてくれた。
調子に乗ってケンカするから静がこういう目に遭ったと、友成さんは無茶苦茶天馬先輩を怒鳴りあ上げていた。
「僕が勝手に出て行ったから、切られちゃったわけで・・・」
僕の左の手の甲には斜めにスパッと傷が入っていた。切られた時は熱さしか感じなかったけど、消毒してガーゼと包帯で処置してもらい安心したせいか、今はジグジグ痛む。
「あいつら、エンペラーらしい奴らを見つけたら、仲間集めてすぐに襲ってきやがった」
「やっぱり、いい方向には向かっていないみたいだね」
「ちょこちょこ襲ってくるのが気に入らねえ」
「ドカーンとやってくれたら、こちらも反撃しやすいんだけどね」
幹部2人はこれからの対応を思案し、1人で行動しないように再度念を押した。
時計はもう1時を過ぎ、最終電車に乗れないことは無かったのだが、他のメンバーも店に集まり出し、僕は怪我のこともあるので、奥の部屋で休むように言われ席を立った。
ソファーに腰を下ろして眼鏡とニット帽を脱ぐ。
刃物で怪我をするのは初めてだったので、白い包帯を診て今更ながら、怖くなる。
銀色のナイフで切られた瞬間を思い出す。
手じゃなくて、体に刺さっていたら・・・
ゾッとした。
ケンカ慣れしていると、大丈夫だと思っていたけど、ナイフ一つかわせなかった。
始めから武器を所持していると分かれば油断はしなかったのだけど。
「・・・どんなときも油断したら負けっておじいちゃん言ってたな」
この怪我は自業自得。高い授業料だと思おう。
痛む手を右手でそっとそっとかばうようにしてソファーに体を倒した。
眠くは無いけど、こうしていたら眠れるかもしれない。
朝までだいぶ時間があるから寝てしまおう。
あれ?
でも何か、忘れているような・・・
何だっけ?
思い出そうとしたが、トロトロと眠気が訪れて、静は朝まで目を覚ますことなく、ソファーで安眠したのだった。
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