保険だと思って
「あ==−−その手の趣味はないけど、、、、静ちゃんは特別かも」
だって、こんなにかわいいから〜と子供のようにじゃれついてきた。
「や、めてください・・・・てん・・あきらさん!」
するとあきらはパット手を離し、その場でホールドアップするみたいに手を挙げた。
はいはい、抱擁タイム終了ーー!もうしないから安心して〜と間延びしたしゃべり方で、お茶らけた。
「全く、どこまでふざけているのか、相変わらず分かんない奴、この遊び人が!!」
ベーっと舌を出して、由美さんは、天は遊び馴れているから、変な事されないように気をつけなさいよと僕に忠告した。
天さんって・・・遊び人なの?
プー太郎ですか。
働かない人今のご時世多いもんな〜
だから今日も、あんなとこフラフラ遊び歩いてたのか。納得!
由美さんにかくまってもらったお礼を言って、僕たちはタクシーを拾った。
電車で帰るという僕に、念のためにと、タクシーに乗せられた。
後で食べるはずだったチュロスをどこかに落としてしまったことを知ったあきらさんは、夕飯がパンなんて信じられないと、行先を変更してはま路で夕御飯を食べることになった。
ーーーーーーーーーーーー
暖簾をくぐると女将さんが、あれ以来姿を見かけ無いから心配していたのと、温かく僕を出迎えてくれた。
「てん!!!!!お前!!!!」
あきらさんと僕を見つけるなり、大女将はあきらさんに詰め寄り、
「あんた、うちの静に変な事したんじゃあないだろうね」
と、怒鳴りつけた。
あ、、、僕、、あきらさんのスーツ羽織ったままでした。
「違うんです、これ、ちょっと借りていたんです」
もう必要ないと思ってあわてて脱ぐ。
「もう脱ぐのか?もったいない、かわいかったのに」
と、受け取ったスーツを椅子に引っかけた。
「また、あとで着てね〜」
にっこり笑顔でお願いされるが、それはもう勘弁してほしい。
追いかけられていたトラブルの話は、心配させるので内緒にして、あきらさんはここに来た理由を女将さんに話すと、案の定まだパン食ってんのかい!!と、大女将から叱られ、栄養たっぷりのご飯をおなかいっぱい食べさせられた。
今日のご飯も懐かしい味がして、とてもおいしかった。
帰りに今日はさすがに代金を支払おうとポケットからお財布を出すと、静からは貰う気はないって言ったろと、大女将に前回と同じことを言われ、しぶしぶ財布をしまった。
「気にすることないさ、その分天からもらえばいいんじゃからな」
がはは、と豪快に大女将が笑う。
「ぼったくりですか。大女将」
仕方ないな〜と財布から万札を出して女将に渡す。
「ま、いいですよ。かわいい彼女の食いぶちくらいは、払うのが男ってもんだし」
フフンと上機嫌のあきらさんに大女将は今むきかけのジャガイモを投げつけた。
ひえ======!!!大女将なんてデンジャラスな!
げ、と言いながら、パシッとジャガイモを顔の前で受け取るあきらさんもすごい。
「てん!あんた静を変な目で見るんじゃないよ。このクサレ遊び人が!!」
「大女将、じゃがいもも立派な凶器ですって」
「包丁じゃあなかっただけ、ありがたいと思いな!!」
はいはいすんません。ジャガイモを女将に渡し、見送られて、僕はまたスーツを羽織らされて店を後にした。
一騒動あったが、はま路で過ごした時間は楽しかった。
家までタクシーで送ると言われたが、さっきのタクシー代も払ってくれたあきらさんに申し訳ないので電車で帰ると言うと、心配だから家まで送ると言ってきかない。
それこそ世話になりすぎるので、本当に大丈夫だからと、お互い押し問答をして、なんとかあきらめてもらった。
その変わり、携帯の番号とアドレスの交換をして、何かあったらすぐに連絡するようにと電車で帰る条件を付けられた。
駅までの道のりを、スーツを着た僕の肩を軽く抱いたあきらさんと寄り添って歩く。
女の子にスーツを羽織らせているように見えるんでしょうね・・・道行く人の視線が痛いです。
すれ違う女の人たちは、あきらさんを見てかっこいいとか言ってるし。
あきらさんはなんか上機嫌だし。
「ねえ、あきらさん」
「ん?」
「この手って必要かなあ」
肩に置かれた手を指刺して示す。
「気にしない、気にしない、ほら、保険だと思って!今日は特別〜」
また茶化す。この人って、、、ほんと、遊び人って言葉がピッタリだよ。
駅に着き、スーツを返して改札口をくぐる。
何度か振り返ると、まだあきらさんは僕を見てくれていた。ほんと、心配性。
見えなくなってから、携帯の番号を確認する。
早く覚えて削除しなくっちゃ。いいごろ合わせが無いかあきらの番号をぶつぶつ唱える。
電車に乗り込み、今日の出来事を思い出しながら、あきらの事を考えた。
スーツを着た、、遊び人?
派手じゃない、落ち着いた感じの仕立ての良さそうな生地だった。
夏使用のテレビで宣伝している、クールビズタイプの軽い・・・
夏にスーツ?何で?
あ、もしかして就職活動の帰りとか?面接の帰りとか?
遊び人だからホストとか想像していたんだけど。
んーーーー今度聞いてみよう。
電車から降りて、家まで10分程度の道のりを、電話番号を唱えながら、静は歩いた。
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