新たな誤解
地表を舞う砂埃、湧き上がる歓声、信号器のピストルの音。
秋の体育祭は男子校らしく、怒号と雄叫びが入り交じる激しい熱戦が繰り広げられていた。



誰が選んだか知らないがド派手な音響は戦意を高め、異常なほどに盛り上がっている。まだ午前中なのにこの勢いで午後まで持つのかと思えるほどだ。

「見て見て〜静ちゅわ〜ん!!100と200で1位取っちゃった」

短距離走で3位までに与えられるリボンを2つも胸に付け見せびらかしにやってきたのは、2学期の楽しみは体育祭で終わりだと言い切った足立だ。

「あれ?足立って短距離の選手だったっけ?」
「ノー!俺は綱引きと、騎馬戦とクラスと部活の対抗リレーさ!」

チッチッチッと指を振り、燦然と1位の赤いリボンを見せつける。足立は体調不良で走れなくなったクラスメイトの代わりに、急遽選手を交代したらしい。それで1位をとるんだからすごいと素直に誉めた。

「もっと誉めて===」

抱きついてくる足立は汗くさいは蒸し暑いは、うっとおしいことこの上ない。



『400メートルリレーに出場する人は、入場門前に集まってください。繰り返します・・・』 

そのアナウンスを聞くと抱きついていた体がパッと離れ、「勝利が俺を呼んでいる」と遠くを見みつめてきざっぽく格好を付けた後、入場門に走っていった。「あいつ、400メートルリレーも出るのか?」底知れぬ足立の体力に感心するやらあきれるやら・・・あれ?足立が戻ってくる。

「静ちゃ〜ん。俺がリレーから戻ってくるまで、ここにいてね」
「何で?」
「それとも係の仕事入ってるの?」
「いや、次は綱引きのピストル撃つからまだ出番は先」
「そっか、じゃここから応援してね。静ちゃんが応援してくれないと力が出ないよ〜」
「ア○パンマンか?」
「そう!足立マンは静ちゃんのために勝利を誓おう。わっははははは」
「ねえ・・・呼ばれてるよ」
「おお!!いかんいかん。さらばだ」

全速力で入場門に戻っていく。そこで走ったら本番疲れるだろうに。いや、足立なら大丈夫か。100に200に400・・・自分だったら絶対無理だな。足は早いほうだけど、体力が持たない。いいな〜足立、その無駄な体力半分、いや、1/3でいいから分けて欲しい。


男臭い集団の中で首や腕、胴回りなどをそれとなく見ると、人と比べて自分はなんと細く華奢なことだろう。ケンカには少しは自信があるが、体力勝負では全く歯が立たない。野球選手がよく肉体改造とか言うけど、それやったら少しは筋肉質な体になるのかな。今度鷹兄に相談してみよう。スポーツジムとか詳しいかな?





「朝川」

園田先輩がポンと肩に手を置いた。昨日のキスの事もあるので顔を見てすぐに目線をそらすと、「警戒するなって。もういきなりキスなんてしないさ」と耳元でささやかれた。その吐息が耳に当たるくらい近かったので、自ずと身を引き一歩下がる。

「テントの中は蒸し暑いな・・・後ろの木陰に行かないか。涼しいぞ」

競技が終わった選手が何人か、校舎裏の木陰で涼んでいる姿が見える。あそこは確かに涼しそうだけど。昨日川上や井上にいらぬ心配を掛けたので先輩にくっついてあっちこっち行っていいものかどうか。現に昨日から川上は口も聞いてくれない。また怒られるのは目に見えている。

「友達がですね、今から400に出るんです。ここで応援しろって言われたから」
「そうか。誰を応援するんだ」
「足立って・・・知ってますか?」
「バスケ部のホープの・・・」
「そうです、よく知ってますね」
「目立つ奴らはな。生徒会の情報にも上がってくる」
「先輩生徒会なんですか?」
「おいおい、お前、そんなことも知らないで俺と付き合ってたのか」

その言葉に周りが振り返る。最近よくあるパターンだ。この誤解を早く解かなければ・・・

「付き合ってないって言ってるでしょう。先輩がそんなだから周りが誤解するんです」

『付き合ってない』を強調して言ってみた。周りに認識させるためにだ。



「朝川はね、でも俺は朝川を好きな気持ちは変わらないぞ。友達以上には昨日なったしな」



ザワ・・・



周りが先輩の言葉に過剰反応して聞きたくもない言葉がささやかれる。「2人の間には何かが起こった」と。
ああ・・・また妙な噂がレベルアップしてまき散らされた。

「と・・・友達ですから・・・何度も言いますけど。それに何も無いでしょ・・・」
「何もって昨日俺とキ・・」
「せ=====んぱい。木陰に行きましょう!!あっち涼しいから、ね、行きましょうよ!!」


それ以上しゃべらせるとしゃれにならない。キスした事実がばれたらもうどうにもならない。


静はあわてて園田の背中を押して校舎裏の木陰を目指した。

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