心の内
話してみると、園田先輩は気さくな兄ちゃんタイプの人だった。



3年生で、下級生にはかなり人気があるらしい。男が歩くとキャーキャー黄色い声が上がるうちの高校は多少おかしいのだけど、園田先輩もそういう連中の憧れの的だ。甘いマスクで話し上手、気が利くしやさしい、何でもできる人だから取り巻きも増える。でもだからって男だよ?普通好きになるか?僕はかわいい女の子の方が断然いいよ。


あれから園田先輩と係りの仕事で毎日顔を合わせている。話術が巧みで話していて全然退屈しない。いつも笑わせられて、僕自身も先輩と話すことが楽しくなった。

「朝川は笑うとかわいいな。普段あまり表情を変えないから、もったいないぞ」

それは井上たちに初めて出会ったとき言われた一言と同じだった。自分ではそんなつもりはないのだが普段は無表情でボーっと一点を見ているらしい。喜怒哀楽も激しい方ではないので、お高くとまった美人に見えたと言われたこともあり憤慨したことを思い出した。




係りの仕事を終え先輩が途中まで一緒に帰ろうというので、断る理由もなく“はい”と返事しようとすると後ろから声をかけられた。

「終わったなら帰るぞ」

振り向くとそこには川上がいた。

「あれ?川上も係りの仕事があったの?」
「・・・ああ」

そして川上は「行くぞ」と言うと、有無を言わさず僕の腕を掴んで教室に向かって歩き出した。

「ちょっと、川上〜・・・先輩ごめんね」

せっかくさそってくれた先輩に謝りながら、僕は川上に引きずられるようにその場を離れた。



(ずっと見張ってやがったな。邪魔だな、あいつは・・・)


暮れ行くグラウンドに立ち尽くす園田は、静を連れ出す川上の背を見て目を細めた。




「ちょっと・・・なに」
「簡単にひっかかってんじゃねえよ、何またノコノコ付いて行こうとしてんだ」

先輩と帰ることを言っているんだろうけど、責めるような言い方が気に入らない。

「いいじゃん。一緒に帰るくらい」

頬をプクッと膨らませ、しかられた子どものようにそっぽを向く、

簡単に懐柔されやがって・・・静の軽い答えに怒りが込み上げてくる。
川上はあれ以来ずっと静から目を離さないようにしていた。特に係活動のある放課後は園田の動きを監視し不用意に接触しないようにずっと見張っていたのだ。
初めは告白されて困ったと言っていたのに、甘やかされるとすぐに相手を信用してしまうのが静のわるい癖だ。人はもっと疑えと常日頃から言って聞かせてあるのに、静は穏やかに優しくすりよる園田に警戒心のほとんどを解いてしまい、笑顔全開で楽しそうに談笑し、一緒に下校しようとまでしていた。園田は絶対に何かある。あの優しそうな顔で下心を持って静に近づいている。そう川上は直感していた。
静は簡単にだませても俺はそうはいかない。体育祭など早く終わってしまえばいい。そうしたらあいつとの接点はなくなる。完全隔離してやる。






体育祭目前。


3年の園田が朝川に告白し、現在2人は付き合っている。そんなうわさが立ち始めた。
係りが一緒と言うこともあり、放課後親しげに話す2人を見てにわかに回りが騒ぎ立て始めたのだ。そして北校舎の空き教室で2人きりで話していたところを誰かに目撃され、一気にうわさは本当なのではないかと広まっていた。
しかも園田本人が「朝川に告白した。まず“友達”から付き合いを始めている」と認めたこともあり、それを聞いた静は頭を抱えて机に突っ伏した。



「嘘だよーーーそんなの。何で僕が男と付き合うの!!きもちわるい〜」
「じゃあ、本当にあの園田って先輩とは何もないわけ?」
「あたりまえでしょーーー井上もうわさ信じてんの」
「だってすごいよ、もうお互い公認で付き合ってるって、みんな浮き足立ってるよ」

僕と井上の会話に、クラスの皆が聞き耳を立てている。僕が付き合っていないと怒鳴ると、「なんだよ、やっぱりただのうわさか」と小声で話すのが聞こえた。クソ〜みんな変なうわさ信じちゃって。誰だこんなうわさ流したの。恥ずかしくって穴があったら入りたいよ。

「でも、告白されたのはほんとなんでしょう。なんでいつもみたいに断らなかったの」
「それは・・・」

川上にもそのあたりのことはしっかり責められた。うまく口車に乗せられた自分が悪い。でもスパンと断らなかったのは・・・

「付き合ったことがないから、気持ちが分からないとか言われて・・・」

下を向いて口を尖らせてグチグチ言う僕に井上は、

「付き合ってみればアレ発言をする奴の気持ちが分かるとか思ったの?」
「付き合おうなんて思ってなかったよ」
「じゃあいつもみたいに撃退しなかったのはどうして。園田は特別なの?」
「先輩が特別とかじゃなくて・・・」



そう聞かれて自分の中のモヤモヤをこっそり井上に話してみた。

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あきゅろす。
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