恋愛経験
素っ頓狂な声を上げてしまった。きた。来たよアレ発言。緊張したり、切羽詰ったりしての告白ではなく、柔らかい表情のまま穏やかに言うから、空耳かと思いましたよ。



「付き合うって・・・僕男ですけど」
「そんなこと、分かってるさ。この学校じゃ普通だろ」

この学校の○モ率の高さって半端ない。どうして同性相手にそんなことが平気で言えるんだろう。頭が壊れているんじゃないだろうか。

「でも、普通付き合わないですよ。男だし」
「男でも朝川はかわいいよ。口説いてみたくなる」

ぐっ!!僕は顔を引きつらせた。そんな僕の表情に気を悪くすることもなく先輩は相変わらず笑みを崩さない。

「恋愛に性別は関係ない。俺は朝川の事を大事に思っているから、だから付き合いたい」

先輩の目は穏やかで語る口調も柔らかい。大事にって言葉は、鷹耶の言った言葉に似ている。大切にすると言ったあの言葉に。

「その、男に大事にとか言われても・・・だいたいそれって具体的にどういうことですか?」

自分は女の子じゃないから守るような言葉をかけられても嬉しいとは思わない。なぜそんな言葉を言うのかそれのほうが不思議で聞きたくなる。



「朝川は恋愛をしたことがあるか?あと、付き合ったことは」

恋愛。恋愛ですか・・・・・ない。付き合ったことも・・・もちろんない。眉根を寄せて考えると、フッと先輩は軽く鼻から息を出す。

「経験がないからそんな言葉にも戸惑う。俺と付き合ってみたらいろいろ分かることがあるぞ」

「そんな理由で付き合うんですか?」


恋愛経験がないから理解できないんだと。だからと言ってこんなノリで付き合おうと考えるなんて。この人は軽い考えでものを言う人なんだろうか。

「好きでもないのに・・・・そんなことしませんよ」
「そうか?付き合ってみて好きになることもあるぞ」
「それって、いい加減な気持ちで付き合うのと同じじゃないですか?」
「初めは友だちからってのが多いんだぞ」

あ〜〜〜〜・・・それはよく聞く。いやいや乗せられてはいけない。



「朝川って真面目なんだな」

?。そうなのかな。恋愛に関してはとにかく経験値が低すぎる。だってゼロだもん。石橋をたたいて渡るよそりゃあ。

「真面目ってことはないですけど・・・・・男相手にそんなことを言う人の気持ちが分からないだけです」
「だから誘ってるんだが。初めは友だちからでかまわないから」

なんでこの人はこんなに粘るんだろう。そんな気持ち分からないって言ってるのに。

「無理ですってば」
「試してもいないのに?」
「試したとしてもです!」
「食わず嫌いか?朝川好き嫌い多いだろう」
「そ・・」

そうだけど・・・この人調子狂うなあ。



「じゃ、友達になろう。これは問題ないだろう」
「はい?」

「友達もだめなのか」
「・・・そんなことは、ないんですけど・・まあ、それなら」

先輩なのに友達って変じゃないか?首をかしげて思い悩んでいると先輩はとんでもないことを口走った。

「よし、じゃあまず友達からな」
「???“まず”って何ですか!」

「うん、約束な。まずは友達からで、その後はまあぼちぼち気持ちを確かめ合って」
「違います!!その後とかないです。そういうつもりの友達じゃなくて。本当にただの友達って意味で・・・」

自分でも言っている意味が分からなくなった。あわてて訂正する僕を「かわいいなあ朝川は、これからが楽しみだ」と言い、頭の上をポンポンと叩かれた。





ガラガラと勢いよく教室の扉が開く音がした。



振返ると、息せき切った川上が袋を持ってドアの向こうに立っていた。そしてズカズカと大股で入ってこちらに近づいて来る。



「こんなところにいやがって」

手に持っていた着替えの入った袋を僕に押しつけたかと思うと、先輩との間に割って入ってきた。そしてその目は僕の前にいる園田先輩に向かっていた。

「早く着替えろ、もうHL始まるぞ。悪いんですけど着替えるんで出て行ってもらえます」

3年に向かっても強気で言い放つ川上の目は、園田先輩を睨みすえている。
保健室に行ったが静の姿は見当たらず、近くの教室や中庭、教室、もう一度グラウンドに戻りとうとう校舎中を探すことになった。北校舎の一番奥の教室にいたので探すのに時間がかかった。



「ああ、朝川のナイト君ね」


園田先輩は川上を一瞥すると椅子から立ち上がり、川上の背に隠れていた僕の横に回り込んできて、手を伸ばしたかと思うとそっと頬に指で触れた。

[←][→]

3/48ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!