体育祭
秋と言うにはまだ早い、残暑が残る9月。



左手に痛々しく包帯を巻いて登校した静かは「なんかね、切っちゃった」と適当な発言をして周囲をざわつかせていた。たいしたことないのに世話を焼きたがるクラスメイトが少々うざったい。困ることはないかと聞かれたので、机に突っ伏して寝るとき右手だけしか枕にならないのが困ると言ったら、みんな口元をゆるめて笑った。



「じゃあ、各自参加する個人競技を2つ選ぶこと。多数のときはジャンケンで決めてください」

今月行われる体育祭に向けての競技決め。1〜3年が縦割りで別れ競い合うクラス対抗戦だ。今日の昼休み1−3には、2−3と3−3の体育委員が優勝を目指し気合を入れろと発破をかけに来た。男ばかりの男子校。初めはだるいとか言ってたくせにいつの間にか対抗意識を燃やし始め、がぜんやる気になっている。要は皆お祭り騒ぎが好きなのだ。あちらこちらでジャンケンが始まり、勝者と敗者の叫び声が上がる。

「次に、クラス対抗リレーは・・・」

どんどん出場競技が決まって黒板に名前が書かれていく。
川上は、二人三脚と200メートル走か。
井上は・・・借り物の走と玉入れね。
足立は、騎馬戦、綱引き、クラス代表リレー、部活対抗リレー・・・やる気満々だ。



「ねえ、静ちゃんさあ、なんであの競技に出たいわけ?」

僕の競技は二人三脚と障害物だ。黒板に書かれた僕の出場競技を見た足立と井上がいぶかしんで話しかけてきた。

「だって、二人三脚はさ、おもしろそうだし。あ川上、二人三脚一緒に組もうね」

川上に向かってヒラヒラ手を振って呼びかけると、OKと指で返してくれる。

「障害物は平均台、網くぐり、跳び箱だよ。大丈夫なの?」
「うん、おととい抜糸したし、本番には良くなってるよ」
「そんなに出たいか?障害物」
「うん!一番出たい」

障害物のどこにそこまで惹かれるのか、いまひとつ理由がつかめないが、本人がうれしそうな顔をしているのでまあいいだろう。
今度は係り決めのジャンケンが始まり、静はゴールテープを持ちたい一心で審判係りのジャンケンに挑んだが・・・惜しくも負け、仕方なくまだ人数に空きがある出発係りになった。

「あ〜あ・・・テープ持ちたかったのにな」
「負けちゃったの?残念だね」

机にひじを突いて口を尖らせて愚痴る静の隣で、井上と係りの話をする。

「でも、いいじゃない。出発も面白そうだよ」
「どこが?」
「スターター・ピストル撃てるよ」

信号器(ピストル)が撃てることを知ると、静の目はキラキラと輝いた。

「ほ、ほんと!アレ撃てるの」

落ち込んでいた気持ちなど一気に吹き飛び、黒光りするピストルを想像しワクワクした様子だ。小学生じゃあるまいし、そんなことで喜ぶ静がなんともかわいらしいと周りの面々は思った。





1週間前にもなると体育や特活以外に朝練も始まる。朝練の内容は学年団体競技の棒引きだ。僕たちのチームは足が速い奴がいて相手チームより早く棒を取ることができるが、陣地に戻るまでに相手のチームに棒をとられてしまう。力が弱いのだ。僕自身もまだそんなに力を入れて引っ張れるわけじゃない。左手を気にしながら、でもチームの足を引っ張らないようにしていた。


「朝川」


呼ばれて振返ると、そこには3年の・・・誰だっけ?確か・・・

「はい・・・えっと」

僕が名前に迷っていると柔らかい表情でクスッと笑って、「園田だよ」と教えてくれた。

「あ、すいません。園田・・・先輩」

この学校で先輩と敬称をつけて名を呼ぶのは初めてで、なんだか緊張する。何の用だろう。先輩の後ろを見ると3年生が団体競技のムカデ走の練習をしているのが目に入った。そうか、3年生も朝練か。

「ちょっといいかい。係りの仕事のことで話がある」
「あ、はい」
「手・・・」
「はい?」
「もう汚れてる」

両手を見て何のことだろうと思ったら、手の甲を指差されてみて見ると、包帯が砂や土で汚れていた。棒引っ張ったからな・・・

「おいで、包帯替えてあげよう」
「そんな、いいです。別にこれくらい」
「いいから、話のついでだ」

そこまで言ってくれるのなら、断るのもなんだなと思い、チームの仲間に一言言って園田先輩の後について行った。そんな僕を見送る視線が2つ・・・



「あれ、誰だ?」

川上は離れて行く静に視線を合わせたまま井上に聞いた。その視線の先には長身の男を捕らえていた。

「3年だね。確か・・・園田・・・生徒会役員ですよ」

井上の記憶力と情報網はすごい。少しでも目立つ人間はインプット済みだ。


「安全?」
「うーん・・・・・・・・危険度90%超えかな」



その言葉を聞いた川上は、校舎に消えた静のあとを追いかけた。

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