そして、どこに行っても攻防(1)
侵入を拒んだ手が震えている。気がつけば怪我をした手も抵抗するために添えられていた。睨んではいても、そのおびえる小鹿のように震える様子に、これ以上の無理強いは怖がらせるだけかと、高ぶる気持ちを抑えて手を引くことにする。



(「今日はここまでだな」)



フッっと笑って、手を引くと静はスポンジを取り上げ鷹耶に投げつけた。

「た、、鷹兄のバカ!すけべぇ!!出てけ!!」

シャツの胸にスポンジの泡がはじけ飛ぶ。投げつけた静は顔を真っ赤にして鷹耶に怒りの声を浴びせた。

「昔は洗って〜って、自分から言ってくれていたのにな。あの頃は良よかった・・・」

「いつの話だよ!それに何が良かっただよ!早く出てって」

「はいはい・・・」

シャワーのコックをひねって手足の泡を落とすと、ガラス戸を開けて出て行こうとして立ち止まる。

「ああ、出たら呼べ。拭いてやる」

「・・・・・・・・・・(誰が呼ぶもんか)」

無言のまま怒りに震える拳を握り、足元に落ちていたスポンジを掴みもう一度投げつけてやったが、鷹耶はサッとドアを閉めてスポンジは目標には届かず、ドアに当たった後タイルに落下した。

(「もう・・・もう・・・ほんとに信じらんない。鷹兄なんて・・・鷹兄なんて・・・やっぱり大っきらい!!」)




もう来ないよね・・・そう思い腰に巻いたタオルを外し洗い終えた後、お湯の温度を少し上げて、また頭からシャワーを浴びた。

熱い湯が頭のてっぺんから足元まで流れ落ちるのを結構長い間感じていた。鏡に映る自分の全身。肌はお湯で少し赤みを帯びていたが、もう少し健康的な色になるといいのになと思っている。細身の体にも、同級生達みたいな筋肉が付けばいいのに。足立とまでいかなくてもなぁ・・・小さい時から体は鍛えていたのになんで筋肉付かないんだろう。やっぱり食べないからか。もっとお肉とか食べたほうがいいのかな。そしたら体重も増えるのかな。そうえば丸2日食べてない。

へこんだおなかをさすると、久しぶりの空腹感が訪れた。上がったらご飯って言ってたっけ。
シャワーを止めて濡れたタオルをできるだけ絞ってから、そっとドアを開ける。脱衣所に鷹兄の姿は無い。
よかった。待っていたらどうしようかと思った。でも油断ならない。早く服着よう。




音がしないようにそっと上がり、バスタオルで体をパッと拭く。横長の椅子の上に着替えが用意されていたので下着を身に付けた。片手でパンツをはくのってけっこう手間取る。腰まで引き上げて今度はチノパンを履こうと椅子に腰かけて足にズボンを通したとき、ドアが急に開いた。

「ま、まだ着替え・・」
「何度言ったらわかる、呼べと言っただろうが」

片足だけズボンを引っかけた情けない恰好で文句を言ってもきまらない。
せっかくの履きかけのズボンを引っ張って脱がされて、まだ濡れているから立てと言われた。
パンツ一丁で立てって・・・あーもう。
バスタオルを持ったまま、立ちあがるとそのタオルを奪い取られ、後ろを向けと言うのでその通りにする。

「背中びしょぬれだぞ。昨日まで熱を出していたというのに、お前はどうしてそう」

お説教しながら、首筋から背中、膝の裏までふきあげる。脇を触った時はまた笑いそうになったけど。

「腕、後ろに出せ」
「後ろ?」

頭だけ振り向いてみせると、7分袖くらいのシャツを広げていた。怪我をした方の腕から入れてもらいボタンまで止めてくれる。自分で・・・と言いかけるたびに

「今日くらいは俺を使え」

と、鷹耶が言う。使えって言うけど・・・・・・使いたくない。あっちに行っててほしい。それが希望なんだけど。

チノパンを履かせてもらい、手のビニールも外し、これで終わりかと思うと最後に髪を乾かすからここに座れと長椅子を指さした。




さっきも思ったけど、髪の毛あたってもらうのってやっぱり気持ちいいな。ゴシゴシと水気を拭き取ってもらいながら、これだけなら毎日してもらってもいい。鷹兄うまいし。でも、これだけって訳にはいかないだろう。今日だってしっかり洗われちゃったし、嫌がらせするし、あんなとこも・・・・・洗おうとるすし・・・
あんなことしたがるなんて・・・変態さんだよ・・・
でも・・・兄弟とかだったら、父子とかだったら、もしかして普通にするのかな。洗いっことか?小さい頃は鷹兄と洗いっこした記憶があるような、ないような。こんど川上達に聞いてみよう。もしこれって普通にするのなら、嫌がったりしたら悪いかもしれないし。でも・・・するかな〜?しないと思うんだけどな〜

いろいろ考えているうちに、ドライヤーの熱風が髪に当たり、鷹兄が手ぐしで乾かし始めた。大きくて長い指。どこもかしこも男らしい。僕もいつかこんなふうになれるのかな。

「伸びたな」

「ん?」

乾いた髪をくしで整えながら、柔らかい毛先を指でくるくるカールさせ弄んでいる。

「明日、切りに行くか。予約しておこう」

「髪?」

そう言えばしばらく切っていなかった。前髪もサイドも後ろも結構長くなってる。新学期も始まるし、今のうちに切っておくのもいいかと思いそれには賛成した。




そのあと・・・

もういいっていうのに、靴下まで履かせたがった鷹兄に呆れて、もう今日は着せ替え人形でいいや・・・と言いなりになって好きなようにさせた。

こんなので機嫌が良くなるならま、いっか。

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あきゅろす。
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