つぎに、浴室での攻防(1)
頭全体を包み込むように、鷹兄の大きな手が泡立った髪に触れる。



指が髪の中に滑り込み、指の腹でマッサージをするみたいに頭皮を洗う。カットサロンもそうだけど、人に頭を洗ってもらうってかなり気持ちがいい。なんでだろう。自分でするのと全然違う。


「静の髪は柔らかい、一本一本が細くてとても艶やかだ」


ああ・・・そうですか・・・



髪の感触を確かめながら、僕の髪質について何やら楽しそうに語る。さっきまで不機嫌だったのに何がそんなに楽しいのか。

「色、抜いたりするなよ。お前は黒が映える、肌が白いからな。絹のような白さだ。漆黒の艶やかな髪が更に美しさを増す。相乗効果だな」
「あのですねえ、感想はいいから黙ってさっと洗ってくんないですか」

口に乗せるのが恥ずかしいようなことを、平然と言葉にして、チマチマいろいろと確かめながら、このペースで洗われたら、何時まで経ってもこの恥ずかしい状況は終わらない。同じ洗うならさっさとして!しかもその感想なんか・・・・Hくて嫌い。
訴えが受け入れられたのか、鷹兄はそれから黙って頭をモシャモシャ洗っていたが・・・
今度は勢いよくお湯で泡を流され、泡が目に入りそうだったからあわてて下を向く。


「ちょっと、お湯掛けるなら掛けるって言ってよ。目に泡が入ったじゃん!」
「黙れと言ったり、言えと言ったり・・・どっちがいいんだ?」
「・・・・・・」

面白がってるし。

どうしてこう、意地悪なんだろう。すぐに言ったことの上げ足を取る。

トリートメントして、髪を何度もすいて、耳の横とか、うなじのあたりとか・・・必要以上に時間かけてないか。うなじに触れられるとゾクッとする。僕はかなりのくすぐったがりなんだ。そのあたりのポイントは触られると・・・笑いが止まらなくなる。

「もう、充分だから、流して」
「はいはい、お姫様」
「そういう言い方やめて」
「目と口閉じてろ、流すぞ」

全てが楽しくてたまらないみたいに、ふざけた口調でしゃべる鷹兄。こんな鷹兄も珍しい。
ボディーソープとスポンジを手に取り泡立てている。シャンプーもそうだったけど、鷹兄が使うものはあんまり臭いがしない。無香料タイプ?僕は倫子さんと共用だったから、どこかの美容室御用達のものだった。朝川はいいにおいがするって、友達によく言われてたっけ。



泡立ててもらったスポンジを右手で受取り、首や胸、腹のあたりをゴシゴシ洗う。3日ぶりだからしっかり洗いたいけど、見られていると気になってゆっくり洗えないでいた。

「そんなにこするな、肌に傷がつく」
「平気だよそんなの」

そのまま背中を洗おうと思って腕を背にまわすと鷹耶にスポンジを取られた。

「え?」
「届かないだろう」

そう言って僕の背後に回った鷹兄は、もううなじから洗い始めている。いきなり触れられてビクッとする。首を引っ込めて肩が上がる。スポンジ越しでもくすぐったさからくるゾクゾク感は変わらない。

「じゃあ、背中だけ、お願いするということで・・・」



正面の鏡に僕と、後ろにいる鷹兄が映っている。僕は裸なのに鷹兄は服を着ている。それはものすごく妙な心地がして鏡を見ているのが恥ずかしくなった。猫みたいに背中を丸めて、頭を下げて見ないようにする。

鷹兄が僕の肩に手を添えた。その手は大きくてとても・・・熱い。僕を軽々と抱き上げてしまうほど力強い手。それが今は優しく壊れ物でも扱うように労りながら触れている。

丸く円を描きながら、うなじ、肩、背中とタオルを巻いてあるところまで丁寧にこするけど・・・

「う、、うはっ、、そこ・・そこ・・無し、ひやははっ・・」

脇は・・・な、無し!そこ、触らないでほしい!

脇の部分にスポンジが回った時、恥ずかしさなんて頭から吹き飛んで下げていた顔を上げた。く・・・くすぐったい。ゾワゾワする。僕がくすぐったがりなの知ってるくせに、わざとやっているに違いないと思えるほど、指に力を入れて肌を触っている。更に猫背にして、膝を抱き抱え、脇に手を入れられないように腕で脇をしめた。

「も、く・・くすぐったい。触んないで、鷹兄・・」

「鷹耶さん・・だろ」

このくすぐったいときに、まだ、そこにこだわるの?僕それどころじゃないんだけど。

「はは・・ひゃ・・鷹耶・・・・さ、ん。も、いいから。自分です・・るから。う、ひゃ・・さわ、る・・な!」

笑う口を必死に手で押さえてこらえようとするけど、そうするほどに敏感なところに意識が集中してしまい、血管が切れそうなくらいヒーヒー悶えて笑う。

スポンジを持つ手だけじゃなくて、反対の手までもが脇腹の部分をまざくり始めた。両脇を指でツーとなぞり指が上下する。肌の感触を確かめるように指がうごめき、僕の反応を確かめるように触られて、我慢しすぎてどこかつりそう。笑いすぎて喉も痛い。

「暴れるな、洗いづらい」
「とにかくもうそこは・・・・やめて!ほか、他のとこ・・・」

「わかった」



もう、洗ってるんだか、ふざけているんだか、ただ単に触りまくっているのか、どうでもいいから、体の側面から離れてほしくて、そこ以外ならどこでもいい!と鷹兄のいいように答えてしまった。

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