まず、出入り口付近での攻防
なし崩しにキスに持ち込まれ、執拗な唇がようやく離れたときには、すぐにソファーから体を起こす事ができず、力も入らなかった。静の顔はゆでダコみたいだと鷹兄から笑われ、さらにおでこや頬にもキスをされた。



鷹兄はキスの後も何食わぬ顔で平然としている。
でも、僕は・・・
こんなの、絶対慣れる日なんて来ない!
それに、鷹兄とキスとかしちゃいけないと思う。
なんとか分かってもらわないと・・・何で口開けちゃったんだろう。僕っておバカ・・・



寝なおすかと聞かれたけど、さっきまで車の中で寝てたから眠気は全然なくて、本当なら朝ごはんにおかゆ食べて、シャワーに入って、それからお医者さんが消毒に来るはずだったことを告げた。


「風呂に入っていいのか?」
「うん、熱も下がったし、シャーワーの方がいいって。右手はもう濡らしてもいいけど、左手はビニール巻いてって」
「そうか、じゃあまずシャワーだな。食事は出てから食べられるように手配しておこう。そのあと病院だ」
「ビニールとか、輪ゴムとかある?」

キッチンから必要なものを準備して、左手が濡れないように防護してくれた。ゴムでぴっちり、あまり締め付けない程度にビニールに巻きつけてくれた。

「痛くないか」
「うん、大丈夫」

具合を確かめて、浴室に向かうとなぜか鷹兄も一緒に入ってくる。

「なに?」
「ボタン、外せないだろう」

なるほど。右手だけじゃ、パジャマのボタンをはずすのはちょっと手間がかかりそうだ。鷹兄はささっと、ボタンをはずし、上着を脱がせてくれた。

「腕、ばんざいして」
「え!」
「ほら、早くしろ」

言われるままに万歳すると、肌着もするっと引っぺがされる。僕は上半身裸になったので、なんだか恥ずかしくなって鷹兄にクルリと背中を向けた。

「どうした」
「あ、あとは自分でできるから」
「遠慮するな」
「遠慮とかじゃなくてさ・・・」
「一緒に風呂に入っていたのに、何をいまさら恥ずかしがる」
「それって、小学生の時のことでしょう!」

確かに鷹兄とは、小学校6年生まで一緒にお風呂に入っていた。本家にお泊りしたときにね。広いお風呂はプールみたいでお風呂に入るというより、水の掛け合いとか泳いだりとかして、遊んでいた感じだったけど。


もう高校生だし、僕もお年頃になっちゃったんだよ。


「そんなに恥ずかしいのか?」
「と、当然でしょう。子供じゃないんだから」
「ふ〜ん。静もそういう年になったということか」
「そうだよ」
「分かった。じゃあ」

鷹兄はそう言うと、棚からフェイスタオルを一枚取り僕に渡す。

「それ巻いとけ」
「は?」
「見られたくないのなら」

見られるのが恥ずかしければ腰にタオルを巻けと・・・この人一緒に入ってくるつもりなのか?

「いや、だから、僕1人で・・」
「片手だけで洗うのは大変だぞ。手伝ってやるから、言うことを聞け」

「できるって」
「できるできないの問題じゃない。お前は怪我人何だからおとなしく言うことを聞け」
「いやだってば」
「言うことが聞けないなら、ここでズボンも脱がすぞ」
「な・・!」


やるといったら、やる人だ。

僕がなかなかうんと言わないから、だんだん眼くじらが上がってきている。
手伝ってやるって、何をどこまでやるつもりなんだろうか?

「わ、分かったから」

怒らせると後が面倒なので、仕方なくタオルを巻くことにする。

「あのさ、入ったら呼ぶから、それまで出ててくんないかな」

この年で、人前ですっぽんぽんは、別に鷹兄じゃなくたって、誰にだって見られたくない。

「直ぐに呼べ。いいな」



やっと脱衣所から追い出せた。はあ・・・もう、なんなんだよ。



本当に入って来ないだろうな・・・と、警戒しながらズボンと下着を脱ぎ、洗濯機へ入れる。腰にタオルを巻くが、思っていたよりタオルがうまく結べない。仕方がないのでタオルの端を結ぶのではなくしっかり挟みこんで、ずり落ちないようにしてみた。





浴室は広い。さすがマンションのフロア全体を借り上げているだけあって、部屋もキッチンも風呂もどこも広い。この分だとトイレも広いのかなと思った。あとで覗いてみよう。
ドアを閉めると浴室の内側に鍵がついてある。あるものは使ってみたくなる。しかも鍵をかければ洗っている最中は入れないんだからあきらめてくれるかもしれない。



カチン。



鍵のロックを下げる。

「よし!」

コックをひねると直ぐに温かいお湯が出て来た。
3日ぶりのお風呂だ。体は拭いてもらってたけど、やっぱり直にお湯に当たると気持ちがいい。椅子に座って頭から勢いよく強めのシャワーを浴びていると、ガラスをドンドンと叩く音が聞こえた。


「開けろ、静」


もう・・・ロックかかってるんだから、さっしてよね。
ガラスの向こうに黒い影が仁王立ちで立っている。顔を見なくても声だけで分かる。不機嫌だと。

「えー何?聞こえないよー」

本当は聞こえているけど、聞こえないふりで済ませよう。シャワーのお湯を出したまま、ポンプを押して髪を洗う。3日洗ってないと、なかなか泡立たないので、一度流してまたシャンプーをつけた。今度はモシャモシャと泡が立つ。右手だけでも結構洗えるものだ。心配なんていらないのに。


「聞こえないふりとはいい度胸だな」
「・・・・     何?何か言った?」

「そうか、聞こえないなら仕方がない」
「・・・・」
「下がっていろ、静。今からドアを割る」
「えええ==っちょ・・」

なにやんのこの人!!!うそでしょう。

「・・・ああ、これがいい」

鷹兄はガラスを割るのに手頃な何かを見つけたようだ。ドアのガラスに映る鷹兄の影は確かに何かを掴んで見える。怒っているはずなのに、抑揚のない声でしゃべるのが不気味だ。

「ロックの近くを割るからな、傍によるなよ」


本気?・・・


「ちょっと、待って、たか、・・・・開けるから割らないで!」

ロックをかけたことは怒られるだろう・・・でもそれでもまだ自分でロックを開けた方がちょっとはマシかもしれない。無理やりこじ開けられてそれから怒られるのと比べれば幾分かは・・・マシなはず。なんで、割ろうとか考えるんだろう。信じらんないよ。


あきらめて、腰に巻いたタオルが落ちないようにもう一度挟みこんだところをギュッと押しこんで、仕方なくロックを外した。



ガラガラとドアが開く。鷹兄が割ろうとして手に持っていたものは・・・タオル。だまされた・・・・
鷹兄はシャツとスラックスの姿で浴室に入りドアを閉めた。僕は顔を合わせたくないので、椅子に座り直し背を向けて片手で髪をごしごしする。


「呼べと言っただろう」
「・・・・・・・忘れてた」

「ロックかけるか普通」
「・・・普通だったら割って入ろうなんて考えないよ」

「お前が聞こえないふりなどするからだ」
「・・・だって・・・」
「俺は嘘も言い訳もすきじゃない」



そう言って、鷹兄は僕の背後に立つ。



背中からささる視線が・・・・・痛かった。


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あきゅろす。
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