若の激高
携帯電話を手に取り、何度鳴らしたか分からない番号をまた呼び出す。



(おかけになった番号は電波が届かない場所にあるか、電源が・・・)


OFFボタンを押し、相変わらず繋がらない電話に苛立ち、舌打ちをする。
鷹耶は一睡もせず、社長室で夜を明かした。





静は夜の間、何処に居たのだろうか。


ちゃんと寝ただろうか・・・




どこで?


まさか





また自分以外の人間と夜を過ごしているのか









俺以外の男と




そんなことは     許さん








お前は俺だけのものだ   








どす黒い感情が腹の底から湧き上がり、怒りに満ちた残忍な視線は、どこの誰とも知れぬ、静を脅かす者へと向けられる。


目の前にある物全てを破壊し尽くして、このやり場のない怒りを吐き出したい。もし今、静がこの場に居たら、自分の元から逃げ出した静に何をしてしまうか分からない。


獰猛な生き物と化した俺を見て、恐れを抱くであろう静に、優しくしてやれるような余裕は自分に残されてはいない。愛するものの前では隠してある自分の残虐性が頭をもたげて、見つけたとたん、大事にしてきた者を非情にも傷付けてしまうだろう・・・・ 鷹耶には己の激情を抑え込む自信が無かった。




たった一日。
1人の少年の不在が、傲慢で何事にも動じない海藤鷹耶の心を、こんなにも震撼させることをいったい誰が想像しただろう。





夜を徹して行われた捜索は何の進展もなく、何処に隠れているのか、出てくるまでは探しようのない状況だった。
幹部も社長室や情報局を行き来して、些細な事でも静の情報を得るために必死だった。










社長室の静寂を破り、鷹耶の携帯が突然鳴った。



30分毎の連絡は、瀬名の携帯に入るようになっている。そのほかの情報も全て瀬名に集中するので、社長の携帯が鳴ったということは、仕事関係か組関係の相手である。



午前8時過ぎ。

個人的にかける電話にしては、早い時間帯なので、何か急ぎの用件がある人物からの電話だろう、幹部達は察する。


携帯が鳴ってすぐに画面を見た社長の目が一瞬きつく細められた。どうやら、電話の相手は好意的な人物では無いようだ。不機嫌な表情が一層増す。
だが、社長は着信を切ることなく、通話ボタンを押した。







「何だ」

暗く、地を這うような獰猛な声で。今にも通話を切りそうな怒気をはらんだ言い方に、相手の人物は何事かと戸惑っているに違いないと、瀬名は思う。






「お久しぶりです、若」





冷静な声の主は、鷹耶の怒気にひるむことなく、穏やかに挨拶をし、朝早くから申し訳ありませんと、無礼を詫びる。



「用件は何だ」


お前に構っている時間はない、さっさと用件を言えと、いつも以上の冷やかさで対応する。








「若は、今・・・・・・・・何か、お困りなのではないかと、思いまして・・・・」




「・・・貴様、何を知っている」




その言葉に全員の視線が鷹耶に注がれた。





「言え」

「・・・・・・」

言わなければ命は無いと言うような不遜な態度で命令し、相手に逃げ道を与えない。



「実は先ほど、静さんから連絡を頂きま・・」

「何だと!」

何故貴様に・・・自分の元から逃げて、何故あいつと連絡を取り合っているのか。その事実だけでこの電話の相手に殺意が芽生える。



「落ちついてください、若。私はこれから静さんをお迎えに行きます」

「居所を知っているなら言え。俺が行く」

貴様などに静は渡さない。

当然鷹耶はそう言うだろうと、電話の相手は分かっていたが、それをさせるわけにはいかなかった。
激高した鷹耶と憔悴している静をこのまま会わせるわけにはいかない。
それこそ今よりも大変な、最悪な状況を作り出してしまうかもしれない。それは避けなければならない。

自分を頼ってくれた静のためにも、力になってやりたかった。







「若・・・・静さんは、どうして私に電話をしたんでしょうね」



激高する鷹耶に、わざと質問を投げかけるような言い方をして、それが更に鷹耶を苛立たせる。


「俺に説教でもするつもりか、しゃべるつもりがないのならいい。首を洗って待っておけ」



殺してやる・・・・とでも?・・・・



「若・・・静さんが帰りたくない理由が何となく分かる気がします」


電話の向こうで困ったようなため息が聞こえ、それがまた鷹耶の神経を逆なでする。相手に感情的になるなど、普段の鷹耶ではありえないことだが、静が関っていることと、余程電話の相手が嫌いなのか電話の声が大きくなっていることに気づいていない。




「正午までには、会社に伺います。それまでに少し怒りを治めてください、でないと静さんがまた泣きます」




「泣く・・・だと」



電話の向こうで、泣いていたと・・・・・・・・・・・泣かせたのは誰だ・・・・・         ・・・・    俺なのか・・・・・・・・






通話を終え机の上に乱暴に置いた携帯を、忌々しげに睨みつけている。




「捜索は打ち切りだ」




自分を注視する幹部に投げ捨てるように言い放った鷹耶は、険しい表情で椅子に腰を下ろした。



「見つかったのですか」


電話の内容から、それは察していたが、それにしては社長の様子がおかしい。殺気立って話をしていたのに今は困惑しているようにも見える。








「九鬼が来たら、ここへ呼べ」


それだけ言って鷹耶は幹部に背を向け、口を閉ざした。


「はい、社長」




電話の相手は、・・・・・・九鬼。



瀬名も西脇も秋月も、「九鬼」と言う名前で思い当たる人物は1人しかいない。





九鬼清春(くき きよはる)




鷹耶の祖父である東雲会会長、海藤修造の側近。


そして、大学を卒業するまで、鷹耶の目付役でもあった海藤本家の懐刀、それが--------------------九鬼清春だ。

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