仲間でしょ
昼は定食を食べにくるサラリーマンでにぎわうはま路。



僕が高校生で、夏休み中だと知った大女将は、夕御飯も食べていけと勧めてくれた。
3時を過ぎるとお客も減り、店内はまた静けさを取り戻す。大女将は必要ないって言うけど、ご飯のお礼はしたかったので、できることを手伝うことにした。
切れかかっている電灯の交換、瓶ビールをきれいに拭きあげて冷蔵庫へ入れたり、畳や床を掃いたりなどお手伝いを張りきった。

夕方6時、お客さんが増える前に夕御飯を食べて、また来るねと約束をして店を出る。
来たときのように眼鏡をかけて、顔が見えないように深くパーカーのフードをかぶり直してはま路を後にした。

久しぶりの穏やかな時間に、もやもやしていた気持ちが少し軽くなり、僕の心は元気をとり戻した。






「あ、しず姫」

この名前を呼ばれるとロクな事がない。ドキッとして頭を覆ったフードからチラリとのぞき見ると、そこには以前見知った顔が。この人確か・・・

「俺、ケンタです。覚えてますよね」
「あ、うん。集会のときの」
「そう、あの時は助けてくれて、感謝してるんっすよ」
僕の方が年下だから普通にしゃべってほしい。

「しず姫、1人っすか」
「うん。今から遊びに行こうかなと思ってたとこ」

メンバーが居そうなところを覗きに行こうと、店を出てすぐにケンタと偶然出会ったのだ。

「もし暇だったら、ビリヤードに行きません?ダチと待ち合わせしてて、しず姫が一緒ならあいつらも無茶苦茶喜ぶと思うんで」

静を連れて自慢したいケンタは、目をキラキラさせて勧誘する。ビリヤードなんてやったことがないし興味もない。小難しそうな大人の遊びに思えた。ケンタだって自分と少ししか変わらない癖になんかおじさん臭いなと思う。
でもどうせ行くあても決まっていないし、したいこともないしな・・・・ケンタはエンペラーのメンバーで警戒する必要もないと思い、

「いいよ、でも後で天馬先輩とこ行くから」
と答えた。

了承を得たケンタは飛び上がって喜び、ビリヤードの後、幹部の所まで送りますからと張りきっていた。

店に着くと、ケンタから2人のエンペラーの仲間を紹介された。
僕は生意気と思われるかもしれなかったが、フードを深くかぶったまま挨拶をした。しかし彼らは特に気分を害さずに、本当に太ブチ眼鏡だとか、今日は帽子じゃなくてフードなんだとか、しず姫スタイルの確認をして納得している。
噂でしか聞いたことがないしず姫を目の前にした彼らは、顔を紅潮させて喜んだり、ガッツポーズしたりして、何でもしますからこき使ってくださいとまとわりついて来た。


初めはそんな彼らがうざったかったけど、始めて触るキューの持ち方を懇切丁寧に教えてくれたり、キューがボールに当たるだけでも初心者の僕はうれしかった。ショットの仕方だけでもたくさんあって、角度や擦り方でボールが進む方向が全く違うのが見ていて不思議だった。
ケンタさんの友達はポピュラーなナインボールと言うゲームを教えてくれた。もちろん初めてだからボールは当たらないは、変な方向に転がるわで勝負にもならないんだけどそれがまた面白くて、次こそ当てるぞという気持ちになる。

休憩をはさみながら、2人組交代でゲームを続けていると時計の針はもう10時過ぎ。あっという間に時間が経った気がして、ビリヤードは思っていたより楽しかった。
大人の遊び?のせいでちょっと自分も大人になったようないい気分にも浸れてたから機嫌もいい。また来てもいいな、来てよかったとハッピーな気分になっていたが、そんな気分を台無しにする輩が、僕達に近づいてきた。




「なあ、あんたらエンペラーだよな」

ガラの悪い男達が、帰ろうとした僕達に声をかけてきた。

「だったら何だってんだよ。お前らこそ何もんだ」

ケンタ達は僕の前に出て威勢よく聞き返すが、相手の次の言葉に眉根を寄せた。


「俺たちはナイトヘッドだ。知ってるよなぁ」

下卑た笑いで、さも自分たちが強そうにふるまう彼らに、そこをどけと意気込むケンタ達。

「ちょっと顔かせや。何、すぐにすむさ」
既に僕たちは男たちに囲まれていて、店内にいる客も興味ありげに視線を送ってくるので、僕たちは押し出されるように店の外に出た。

店の外には他にもナイトヘッドが数人いて、僕達はピリヤードの店と隣の建物の間を抜け、袋小路になった駐車場に連れ込まれた。



15対4・・・か。よくまあこれだけ集めたものだ。
おそらくナイトヘッドの連中は、ビリヤード場にいたエンペラーらしき4人組を見つけて、それから仲間を集めたのだろう。
じゃないとこの大人数でビリヤードに来ましたとかあり得ない。

駐車場は袋小路で逃げ道は入って来た道だけ。要するにこいつらを倒さない限り逃げられない。



「さて、お楽しみの時間だ」
ニヤついて僕たちをとり囲み、ジリジリと近づいて来る。中にはパイプ棒なんか持っている奴もいる。

「しず姫、俺たちが相手するから、隙を見て逃げてください」
ケンタはこんなことになってしまってすいませんと静にあやまり、ここから逃げてメンバーに知らせるよう、仲間だけに聞こえるくらいの声でそっと知らせる。

「こんなにたくさんいるのに、3人だけで無理だよ。武器を持ってる奴もいるのに」
「だめです。しず姫に何かあったら、今度こそマジで幹部達にボコられますから」
「何言ってんの、僕は自分だけ逃げるとかやだよ。僕達仲間でしょ。ボコられるときはみんな一緒だよ」


3人は僕の言葉に振り返り、目を丸くしている。
「仲間・・・っすか」
「俺たちのこと、仲間って」
「しず姫〜〜〜」

下っ端の自分たちの事を、仲間と言ってもらえたのがうれしい!
3人は敵に気後れしていた情けない表情を一転させ、相手に向き直り目の前の敵を睨み返した。





ーーーーーーーーーーー

もう22時を過ぎた。

30分毎の定時連絡は、午前中に電車を利用して以来、その姿はとだえ確認できていない。


静・・・・どこにいる・・・


こんな時間になってもアパートには戻っていない。
学校付近、確認できている友人宅、よく利用する店など、行きそうなところは全て調べたが、静は何処にもいなかった。
宇都宮が移動手段を徹底して捜索しているので、電車に乗って新たに移動したとは考えられない。裏部隊は空港へ迎えに来た日、静が遊んでいた渋谷を中心にがームセンターや飲食店など、若者が好む場所は全て捜索している。
外を歩き回っていたらすでに捜索網に引っかかっているはずだ。ならば、どこかに隠れているのか。そうなると出てくるまでこちらは動きようがない。

実際静は駅から出た後訪れたはま路から一歩も出ていない。ビリヤードに行く間もフードのせいか運よく見つかっていない。
偶然にもはま路に行ったことと、ケンタに会ったことが、鷹耶の捜索の目からうまくこの身を隠せる事になった。


「どの若者たちと付き合っていたのか、調べておくべきでしたね」

この時間になってもミサカの社長室には社長と幹部がそろい、明々と電気に照らされているのに反し、暗澹とした空気が漂っている。

瀬名はこんなに時間がかかるとは思っていなかった。

裏部隊と宇都宮の捜索で数時間もすれば捕獲できると考えていたので、この予想外の展開に自分も案外甘かったなと、心の中で自分を叱咤する。社長室の椅子に座って窓の外に見えるビル街を睨み据える社長は、いつ飛び出してもおかしくないくらいに憤慨していた。

「人員を増加して、捜索に当たらせますので、社長は少し体をお休めになってください」

静が消えたという連絡以降、鷹耶は30分毎の報告を全て受け、自分が知りうる全ての場所を徹底的に調べさせ、自ら捜索の指揮に当たっていた。
夕方には、完全に仕事をシャットアウトし、自分も捜索に加わると言いだしたので、幹部たちは必死に止めた。それこそ殴り倒されるのではないかと思い、西脇を呼び戻し今は横に張り付かせている。

「いざ見つかった時は、ここに連れてくるんだから。その時お前がいなかったら意味無いだろ」

怒った鷹耶を相手にしたら、止められたとしても自分も無傷ではいられないだろうから、何とか言葉で押しとどめる。



「チッ・・・」

鷹耶の舌打ちが室内にまた暗い気を落とす。



そしてもう22時。
静が消えてから半日が経とうとしていた。

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