箱入り子猫
こんなの不当だよ!
なんで僕がこんな目に合わないといけないの!!


病院に連れて行かれた次の日から、僕は鷹耶さんの統制下に置かれることとなった。


門限破り、夜遊び、頻繁に外泊、ゲームセンター、刃物による怪我、嘘・・・
余罪が明らかになった僕は、この夏休み自由を奪われることになった。

会社の近くの病院に行った時点で、気づくべきだった。わざわざ自分の会社の近くの病院を選んだのは、自分の手元に置いておくためだった。

朝、9時に鷹耶さんの会社の人が迎えに来る。そして病院で消毒を済ませ、ミサカクリエイトに連れて行かれる。社長室の上、13階にある鷹耶さんのプライベートルームに押し込まれ、夜7時ごろまで軟禁状態。

できることはテレビを見ることと本や雑誌を読むこと。後はパソコンを繋いでくれたのでネットサーフィンなんかで気を紛らわすことくらいしかできない。
ネットゲームは禁止された。鷹耶さんの頭の中にある「よい子のしつけ」辞書には子供にはよくない遊びと書かれてあるらしい。だから僕子供じゃないしと反抗すると、また小姑のようなお説教タイムが始まるから嫌になる。

鷹耶さんと一緒に夕食をとれる時はとり、仕事でだめなときはデリバリーの食事をとった後アパートに送られる。
勝手に外出できないように僕には朝まで見張りが付いている。
これを知った時、鷹耶さんの本気が分かった。
『今回は許さない』と言っていたあの言葉どおり、完全に僕を見張るつもりだ。

嘘をついて悪かったという自覚はあるけど、ここまで行動を制限されるなんて思ってもみなかった。
高校生だし、友達はみんな同じようなことしてる。
何度鷹耶さんに言っても聞く耳を持ってくれない。



「約束を破って、嘘をついた静が悪い。それに俺はお前が心配なんだ。目を離すとお前はすぐに危険な事をする」

心配で仕事も手に着かないからと哀感な表情で見つめられると罪悪感がしきて、何も言い返せなくなってしまいそうだ。


でもこのままでは僕の楽しい夏休みが終わってしまう。
それに最近の鷹耶さんは横暴すぎるからちゃんと文句を言っておかないと。そう考えて僕は昼ご飯を一緒に食べようとやって来た鷹耶さんに食ってかかった。




「一日中こんなとこに閉じ込めて、こんなの横暴だよ。おかしいよ。何考えてんですか」

静の世話係兼見張りをしている2人の社員は我が目と耳を疑った。
入口手前で待機していた西脇は、笑いをこらえるのに必死だった。
社長が連れて来た高校生が、部屋に入ったとたん怯みもせず不満をぶちまけ始めたからだ。

自分の会社の社長の事をここまで言うのは気が引けるが、海藤と言う男は傲岸不遜で慇懃無礼、冷酷無慙を絵に描いたような人間だ。会社でも組でもやってることはあまり変わらない。普段でも凶悪で陰湿な顔と性格なのに、失敗や反抗に対しての制裁の仕方は残忍冷酷の一言に尽きる。
社長を怒らせるがどれだけ恐ろしいことかを社長の身近にいる人間たちは十分すぎるほど分かっていた。

それなのに目の前に立つ女の子のように華奢で、繊細そうな性格の高校生は、社長にたまった鬱憤を晴らすがごとく噛みついている。

「もう4日間もここに缶詰なんだよ。信じらんない。外には出られないし、見張りなんているし、友達とも遊べないし、ここにいてもなーんにも面白くないし、鷹耶さんはいつまでも怒ってるし!」

キャンキャン吠えても、文句を受ける方の鷹耶はそれを何事もなかったように聞き流す。

「しばらくは大人しくしておけ。そのうち静が反省すれば、考えてやらなくもない」

「鷹兄はどうしていつもそう勝手に何でも決めるの。横暴すぎです!」

「約束を破ったのは静だろう」

「だから、僕はもう高校生なんだってば。子供じゃないの。やりたいことをするの、鷹兄の言いなりにはならないの。ここから出して!!」

「それは無理だ」


どんなに文句を言っても聞いてくれずとうとうその日、嫌がる僕と無理やり昼食を共にした後、会えばここから出せと反抗する僕と顔を合わせたくないのか、それから3日間は全く鷹耶さんは姿を見せなかった。
この下の階で仕事をしているはずなのに。




「今日で3日目になりますが、お会いにならなくてよろしいのですか」

午前の仕事が一段落して、煙草を吸いながら難しい顔をして何か想いにふけっている鷹耶に瀬名が語りかけた。


「いや〜あの子猫ちゃん天下の社長様に立て突くなんて、顔に似合わず何て豪胆な性格。俺気に入っちゃったよ」

西脇はソファーに座って雑誌を読みながら、面白そうに茶化し始めた。

「俺、暇だから社長様の代わりにお相手してあげようかな〜だめか鷹耶?」

社長にお伺いを立ててみるが、当の社長様は西脇の話を無視して、煙草の煙に眉を細めて白い壁をただ睨みつけている。

西脇は鷹耶の専属ガードなので、社長室に居る時は仕事が無く、パソコンで情報管理などをして過ごしている。先日の静と鷹耶の言い合い(一方的に静が吠えただけだが)の場面にいた西脇は、見た目は美少年・中身は天然おとぼけ君、反抗期真っ最中な子猫にかなり興味を抱いてしまった。


「空港の時も思ったけどな、あれじゃあお前が外に出したがらない訳だ、あの天然子ネコちゃんは危機感とか警戒心とかいうものがゼロに近い。あの見た目でどうやったらあんな子に育つわけ?」


空港でようやく見つけた静を大事な宝物を包み込むように抱きしめていた鷹耶を傍観していた西脇達。

役に立つ人間とそれ以外、その二種類の区別しか鷹耶にはなく、身内でさえ扱いは同じだった。人間としての温かみや、情などと言うものを、高校時代から一緒だった西脇は鷹耶から感じたことがなかった。
ミサカを一流企業にのし上がらせた社長であり、特に将来、東雲会を背負う鷹耶にとってはそんな感情は無駄なだけで必要ないのかもしれない。

他人を畏怖させるだけの情しか見ることがなかった。
その鷹耶が、


『静』


あの声、表情、相手をいたわる仕草・・・
どれもが自分たちが知っている海藤鷹耶ではなかった。

あの子猫は、海藤鷹耶に人間らしい感情を与える唯一の存在なのかもしれないな・・・


良い方向に進んでくれると、こっちもありがたいんだがな。
西脇はそう思った。

「で、今日も会わないのか。なら俺が」

そう言って雑誌を置いてソファーから立ちあがろうとした時、


「瀬名、昼食にする」


昼食にはまだ少し早い時間だが、鷹耶は煙草を消し、手元にある書類にザッと目を通すと秋月に後は任せ社長室を出た。

行先は上の階だろう。

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