ゴマフアザラシの少年
柱の陰から、待合席に座る美丈夫をジーッと注視する静。
まずい・・・あの顔は絶対怒ってるって。
時刻は13時30分。せっかく大樹さんに急いで連れてきてもらったのに、それから既に25分が経過していた。
まず到着ゲートへの矢印があるにもかかわらず、普通は迷わない場所で迷ってしまった僕。
さすが夏休み、空港は人であふれかえっている。人の波に押されて、歩いてきた方角もわかりゃしない。完全に迷子です。
15分ほど辺りを行ったり来たりして、やっとの思いで見つけた鷹耶さんは、怒った表情のままピクリとも動かずに座って静を待っている。
何かそこだけ緊迫した空気が漂っているのは気のせい?
それを柱の陰から恐る恐る覗きながら注視すること約10分が経過。
ああ!!!何て言おう。
鷹耶に背を向けガクッと肩を落とす。
ーーーーーーー(鷹耶サイド)
到着ゲートのロビーの柱の辺りに、自分が探している少年の背格好とよく似た人物が立っている。
体半分は柱の陰になっているので全体は見えないが・・・・後ろ向きに立っていて、顔は見えないが・・・・間違いない。俺が見間違えるはずもない。
鷹耶は椅子から立ち上がり、ロビーの柱に向かって歩き出した。歩幅の大きい鷹耶は、すぐに少年へと辿り着く。
銅像のように動かなかった鷹耶が急に立ち上がりどこかを目指して動き出したので、西脇達も焦って後に続く。
ーーー来たのか、子猫ちゃん、いや、もとい・・・朝川静!
静の後ろ数メートルの所で立ち止まる。
腕を組み頭を傾けながら何か悩んでいるようなそぶりをしている。
首を傾けるたびに、ゴマフアザラシが少し動いて何ともかわいらしい。でも何故このカバンを背負っているのだ?このセンスに鷹耶は少し眉をしかめる。かわいいのだが・・・いや、これは・・・かわいすぎて危険だろう!あまりそういう格好をするな!!
そんなことを考えながら、ゆっくり、足音がしないように静に近づく。
ーーーーーーー
ああ、いい言い訳って、思いつかないもんだよな・・・
静は何も考えが浮かばないので、再び待合席を振り返った・・・瞬間!
た・・・・・・た・・・たか・・・・・・ 鷹耶さんーーーーー!!!!◎△ksじうx☆?!?
目の前に立って、自分を刺すような視線で見る鷹耶に、驚愕して声も出ない。
目を見開いて固まっていると、鷹耶がフワッとくるむように抱きしめてきた。
「あっ、、」
鷹耶の胸に顔をうずめ、両腕で優しく、でもしっかりと抱き寄せられる。
鷹耶の香が鼻をかすめて、何とも言えない安堵感が押し寄せる。
久しぶりだこの感覚。目を閉じて時間が止まったような鷹耶との再会に少し胸が熱くなる。
「あ、、あの、、」
話したいのだけれど、抱きしめたまま鷹耶は動く気配を見せず柱の陰だとは言ってもずっと感動の抱擁?を続ける僕たちに自然と視線が集まって来た。
ただでさえ目立つのに。恥ずかしいよ。
ふせたままの顔を赤くした静は、思い切って言葉を発した。
「お、おかえりなさい。鷹耶さん」
「ああ、ただいま静」
そう言ってまたギューっと力を込めて抱きしめてくる。
離してほしいのに今の「おかえりなさい」は逆効果だったようだ。
「あ、あと、遅れて・・・ごめんなさい」
その言葉に鷹耶さんは僕を抱きしめる力を少しだけ緩めて、僕の顎をつかんで上に向かせた。
なんで、目が据わっているんですか、やっぱり怒ってる。
鷹耶さんは、くくっと笑うが目は怒っているのが読み取れる。
「ペナルティーだな」
そう言って、鷹耶さんの唇が僕の唇に落ちてきた。
げ、ちょっと!ここ外!人が、 、、見てる、、、ってばーーーーーーー!!!!!もうバカーーー!!
すんでのところで鷹耶と自分の唇の間に両手を入れてでガードする。
ゼーゼーゼーゼー 息が上がる。
全く、
ゼーゼーゼーゼー、
この人は!!
視線と視線がぶつかり、何でこんな所でキスなんかしようとするの!!と怒っていた僕は俄然睨みを利かせて鷹耶さんをじっと見た。
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