タンデム
バイク好きの大樹さんはエンペラーの幹部の一人。400ccを軽く乗り回すガタイのいい兄ちゃんだ。



メットを渡されゴソゴソと慣れない手つきでかぶる。
友成さんがベルトを固定しながら大樹さんと経路について話している。

「成田までどれくらいかかる」
「そうだなぁ事故渋とかなくて、普通の自然渋滞だけだったら平日だし・・・70分か、まあ、俺の腕だと1時間でいけるか〜ははっ!」

バイクに関して腕に自信のある大樹は威張って言う。
レインボーブリッジは景色がいいぞ〜、今日は天気もいいし海も遠くまで見えるとお勧めスポットをアピールするけど。

「あんな混む場所誰が通るかバカ」
友成さんがツーリングじゃなく急いでいるんだと叱咤する。

「じゃ、9号線箱崎経由で突っ込むか!」
色気もへったくれもねえ、つまらんと愚痴りながら大樹さんは、しっかりつかまれよとアクセルを吹かす。

「先輩達ありがとね」

大きな排気の音に聞こえたかどうかは定かではないが、先輩たちは手を挙げて僕を見送ってくれる。

すごいGを感じ、初めてバイクに乗る僕は大樹さんの腰にしがみついて渋谷を後にした。


走り去った大樹達。
磨き上げられた黒のYAMAHAドラッグスターは真夏の空の下、極上の排気音を立て走り去った。
後ろには、彼女を乗せて。なんとうらやましい・・・知らない人が見れば、そんなふうに見えるだろう。
その彼女の背にフワフワのゴマフアザラシがくっついているのが、でかくて重厚なバイクとのギャップをさらに引き立たせていたので、萌だよな〜と友成は思った。






それからはまさにデンジャラスタンデム!!!


バイクのカーブがこんなにもきついなんて。
先輩が斜めになれば、掴まっている僕も合わせて同じ方向に倒れる。
アクセルを踏み込むたびに、後方に体が引っ張られる。
車に乗っている時とは全然スピード感が違う。
風がビュンビュンどころがズバビュン!!ってもろに体にぶち当たる。
そして・・・尻がいたい・・・

途中2か所だけ工事区間があり、車の横をすり抜けて走行できず間に合わないと焦ったが、そのほかは信号以外では止まることなくガンガン走り続けたおかげで、海と、荒地と、大きな倉庫、その先に成田空港が見えてきた。




到着ロビーに近い場所で下ろしてもらう。
バイクから降りると体がふらついて、よろけた。股が、お尻が痛い・・・
うまく脱げないメットを大樹さんがパパッと取ってくれた。

「プハーー・・ありがと大樹さん」
「髪、はねてるぞ」

ありゃ。
メットをかぶったせいで妙な方向に跳ね上がった髪の毛を、大樹さんは手ぐしで直しながら、ジャスト1時間で着いた、すげえだろう〜工事区間がなければもっと早かったぜと自慢した。

時計を見ると13時05分すごい本当だ。

さすが〜と大樹さんの両手を持って、ありがとうございますとブンブン振り回すと、手の包帯が取れていてピラピラと絡まった。

「ほどけてんな」

と、大樹先輩は巻き直してくれたが、粘着テープが完全に乾いていて止められないので、格好は悪いけど適当にねじ込んだ。

また困ったことがあったら呼びなと言って、大樹さんはまたバイクにまたがり、帰って行った。
かっこいいな〜僕もあんな大きいのじゃなくていいからバイクに乗りたいな。

など、呑気に見送りをしている場合ではない。
到着ロビーと書いた自動ドアに向かって駆け出した。







暗い色合いのスーツを着た鋭い目の男たちが数人立っている。
にぎわう到着ゲートに不似合いなその集団は、自分たちの主をその視線に捕らえ、緊張した面持ちで駆け寄り頭を下げて出迎えた。

「社長、おかえりなさいませ」


到着した鷹耶は、瀬名、秋月そして数人の部下を引き連れ、ゲートをくぐって到着ロビーへと出てきた。

西脇も迎えに来ており、よっと鷹耶に向かって手を挙げた。



が、鷹耶の表情はその場に迎えに来た部下たちを凍りつかせるくらい不機嫌さを漂わせていた。

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あきゅろす。
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