ナイトヘッド
鷹耶さんの帰国を控えた前日、僕は天馬先輩とライブを楽しんでいた。



人気のロックハウスステージでベースを弾く拓也さん。
女の子がキャーキャー熱狂し、ライブハウスはクーラー全開なのに熱気の方が勝ちそうなくらい暑かった。

「拓也さん、普段もだけどライブの時はすごくかっこいいね」

「あいつのモットー知ってるか?」

天馬先輩はグラスの底に残ったジュースをストローでチュウチュウ吸いながら聞いてくる。

「モットー?なにそれ」
「顔は命」

拓也はケンカのとき絶対に顔を守る。他のどこをやられても顔は死守する。ライブのために。
それを知らない相手が、顔にパンチを炸裂しようものなら、「俺の顔に傷付けやがって」と10倍返しで際限なくボコるらしい。

「へ〜拓也さんって、天馬先輩と違って無茶しない感じに見えるけどそうなんだ」
「てめぇ、静。そりゃぁどういう意味だこらぁ」
「ほら、すぐ怒るし。友成さんとか拓也さんとかこれくらいで怒ったり叩いたりしないし」

まさに今、静をこづこうとしていた手が所在なさげに宙で止まる。
それを見て静はくすっと笑い、アンコールが鳴り響くステージに視線を移した。



ライブが終わってもファンに囲まれる拓也達に、また今度なと一言だけ挨拶をして、ライブハウスから出るともう10時過ぎ。
駅まで送ってくれるという天馬先輩の言葉に甘え一緒に歩いていると、後ろから付いてくる複数の人の気配を感じた。

「振り向くなよ静」
「うん。分かってる」

先輩も気づいていたらしく、僕たちは気づかないふりをして駅への道を急ぐ。

「どうするの、先輩」
「ボコる」
「ああ、やっぱり・・・」

先輩は引くという言葉を知らない。明らかにこの状況を楽しんでいる。
僕はできれば逃げたいんだけど。無用な争いは御免です。

駅の手前の公園にさしかかったとき、先輩はわざと公園に入り、何事もなくベンチに腰掛けた。
そのとたん、足音をあらわにして数人の男たちが駆け寄って来た。
低い声で嘲笑しながら、僕たちを取り囲む男たちは、7人。


「なんだぁ〜てめぇらは」
両手をベンチの背もたれに広げ、片足を組んで偉そうに座る天馬先輩が怒声を吐くと、数人が怯んで目をそらす。
天馬先輩の声でビビるくらいなら、ケンカ売らなきゃいいのにと、その横にチョコンと座った静は面倒だなぁと心の中でため息をつく。


「おい、お前エンペラーの奴だな!」
「だったらなんだっつーの。ってか俺のこと知らねーでケンカうってんのか。アホかてめぇ。彼女がいるからお前らと遊んでる暇ねーんだけど」

天馬はしれっとエンペラーであると肯定して、バカにしたように相手を見下す。
先輩って人の神経逆なでするのうまいよね。それと、その彼女発言の主語は僕ですか・・・・撤回してほしい。

「お前らがめざわりなんだよ!」
「そりゃあこっちの台詞だ。人のテリトリーで仲間ボコりやがって」

近頃仲間がトラブルに巻き込まれていたので、エンペラーのメンバーは気が立っていた。
それは天馬も同じことで今自分がターゲットにされたことをムカつきながらも嬉しがっている。

「一応聞くが、てめえらナイトヘッドだよな」

目を細めて男たちを見る。
すると男たちはそうだ!と自分たちの力を誇示するように高らかに笑った。


その瞬間。

正面にいた男が後ろに吹っ飛んだ。
唖然とする仲間達、しかしすぐに2人目が同じように吹っ飛び地面に倒れ落ちる。

ポケットに手を入れた天馬先輩が男達の前に立っている。
天馬に蹴りを入れられたことが分かると残った5人は一瞬怯んで見えた。


「ナイトヘッドなら容赦はしねぇ」


天馬先輩の強さを目の当たりにした男たちは一斉に襲い掛かる。
それはずるいでしょう!!
僕は天馬先輩の横に飛び出し介立ちする。



「お前は大人しく座ってろって、今日は彼女待遇で特別席から見学させてやる」



相手の顔面に拳をぶち当てながら、天馬先輩はまた妙なことを言い出した。

[←][→]

6/47ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!