夏の楽しい計画
ピピピ・・・
ピピピ・・・ピピピ・・・
ピピピ・・・ピピピ・・・ピピピ・・・・ピ・・・
====うるさい!!
ベッドで気持ちよく朝の惰眠をむさぼっているのに!!
テーブルの上で携帯電話が鳴っている。
ベッドから出たくない。まだ眠っていたい。でもしつこい携帯の音は鳴り止みそうにない。
「ああもう!!」
ベッドから降りて、四つん這いでテーブルまで辿り着き、寝ぼけながら受信ボタンを押す。
「Good morning SIZUKA.」
「、ぅん・・・」
「Could he sleep yesterday? 」
「はぃ ?」
「Occurred now. Are you half asleep? hahaha・・・」
「・・・・・・・鷹耶さん・・・・」
「Yes! 正解」
「あのですね、鷹耶さん・・・I am not half asleep.(寝ぼけてませんから)」
「そうか?」
「そうです・・・今ちゃんと起きました」
朝から紛らわしい・・・。
今のは「お前、寝ぼけているのか」「寝ぼけていませんから」的な会話。始めのは流暢過ぎて聞き取れなかった。
鷹耶さんは仕事で海外にいる。
海外にも不動産を持っているらしく、視察と新たな不動産売買の交渉で、日本を離れている。
いろいろな所を周って、今はハワイにいるみたい。日本を出てもう1週間以上経つかな。
「そっちは今何時だ」
「あーーーっと、ね、9時。朝の9時」
「もう少し早く起きろ」
「、、、夏休みだからちょっと寝過しちゃったかも」
寝坊がバレて非常にばつが悪い。
鷹耶さんは遅いランチを終えて、少し時間が取れたので連絡をくれたらしい。
14時間くらい時差があるから、なかなかお互いの時間が合わなくて話すのは4日ぶり。
前は夜の8時ごろ電話をくれて、でも向こうは深夜の1時過ぎで、まだ仕事中だと知って体を壊さないかとちょっと心配した。
社長さんって、偉そうにふんぞり返って社長室の椅子に座っているものだと思っていた。
でも鷹耶さんはいつも忙しそうだし、遅くまで仕事するんだな。
「早く、静に会いたい」
「あ?う、うん」
「・・・なんだ、その返事は」
曖昧な返事をしたせいか、電話の向こうの声は不満を含んでいる。
「あー、、ぼくも、早く、帰ってきて欲しいな〜なんて・・」
「その言葉に嘘はないな」
慌てて取り繕う僕に念の押して確かめる。
本当だってば。「会いたい」なんて、鷹耶さんみたいな言葉は簡単に言えませんけど。恥ずかしくって・・・
「信じよう。そのかわり」
「?」
「空港まで、迎えに来い」
「へ?」
突然の要求に頭が付いていかず、上ずった声が出る。
「1秒でも早く、静に会いたい」
耳に響く色香のある美声に朝っぱらからドキッとする。
「電話だと、お前に触れることができない」
そっちも真っ昼間のはずでしょう!どこでそんな恥ずかし言葉しゃべってるんですか?
「今、目の前に静がいたら、抱きしめてキスをしたい」
「な!」
どうも先日のキス事件以来、僕への気持ちをストレートに表現し過ぎるから、こっちは戸惑ってばかりだ。
ーーー触れる、抱きしめて、キスーーーーこれではまるで恋人じゃないか。
いやいや、、鷹耶さんの気持ちは置いておいて、僕自身はまだ、そんな、・・・まだ家族としての『好き』だから!
顔が見たいだの、帰ったら離さないだの、段々エスカレートしていく言葉にあたふたしつつ、しばらく話した後、帰国が決まったら会社の人を迎えによこすから、出迎えに来るように言って電話は切れた。
あと一週間もすれば帰ってくるだろう。
後見人的立場から恋人に昇格するために、あの手この手で迫ってくる僕の頭を悩ます彼が。
帰ったら、どこでも好きな所に連れて行ってくれるって言ってから、せっかくの夏休みだしな・・・普段行けそうにない所がいいな。
僕はパソコンを開き、この夏お勧めの観光スポットやイベント情報に目を走らせた。
人が多い所は、なんか疲れそう。屋外は、熱くてやだ。おいしいものが食べたい。好きな食べ物は・・・
検索すると結構いいところがたくさんあって、上位3位を決めるのに結構悩みまくった。
そして性格上物事にあまりこだわりを持たない静の、本当にここに行きたいのか?と思える不思議なプランが出来上がった。
要綱をプリントアウトしてその計画にうっとり。
連れて行ってもらう手前、3か所全部行くのは贅沢だろう。どこか一か所でいいから、鷹耶さんがOKを出してくれるといいな。
「夏休み今しかできない遠出のお出かけプランNo.3」
No.1「フルーツ観光果樹園」in 青森県
広大な農園で季節のフルーツ狩りが楽しめる!!今はブルーベリーが旬!60分食べ放題でお持ち帰りもOK。大人700円。
No.2「ケーキバイキング サンテ」in 佐賀県
ケーキランキングで全国堂々3位。一流ホテルのパティシエがあなたのために甘くとろける贅沢な時間を!夏季限定オリジナルパフェもご用意。 バイキングは2000円〜
No.3「史跡 佐渡金山観光コース」in 新潟県
佐渡金山の歴史と技術の進歩を時代を巡る旅。ゴールドパークで砂金をゲット!
ああ、なんて素敵なプランだろう。
フルーツ農園には特製リンゴジュースがあり、ケーキバイキングは1位(四谷の店)2位(日本橋の店)はいつでも行けるので、九州なのに3位とかきっとすごくおいしいに決まってるし、砂金は一度やってみたかったし、、、大きな金の塊見つけちゃったらどうしようーとか楽しい予定に想像が膨らむ・・・
こうなると俄然早く鷹耶に帰ってきてほしくなる。
鷹耶さんどこがいいって言うかな。
きっと喜ぶだろうなぁ。
他人が見たら、なんじゃこの計画はと、思われそうなちょっとマイナーでしょうプランが書かれた用紙を大事にしまい、椅子に腰掛けて、課題のプリントに取り掛かる。
あと3日で7月が終わる。
夏休みを思いっきり謳歌するために、7月中にすべての課題を終わらせて、後は遊びまくるぞ!!
課題ももう仕上がる。
楽しいプランもできた。
こうして静は、順調な夏休みをスタートした。うん今のところ計画通り!
しかしーーーーーー
まさか、今年の夏。
人生で初めての、ありがたくない体験が待っていることを、このときの静は知る由もなかった。
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