追いかけっこ
梅雨が明け、空はすがすがしく、蝉の声が激しくなる7月。
期末テストも終わり、結果は良好。
快適奨学生生活を送る静は、目の前に迫る夏休みを前にいささか気分が浮足立っていた。
エンペラーの仲間からしばらくは大人しくしていろと、言われてから1か月以上が経つ。
普通に学校に通う分には何の心配もなく、今日こそは天馬先輩たちと遊ぼうと、久しぶりに町に出た。
今日のしず姫スタイルは黒の袖なしパーカーの下に白い七部袖のカットソー、夏の定番チノパンツ(ハーフパンツで裾を赤の3連ボタンでとめたもの)である。
キャメル色のチノハーフパンツからのぞく足は、女の子のような柔らかみはなく、ほっそりと伸びている。
お気に入りのカフェは混雑していて座席が確保できなかったので、チョコレートシェイクとチュロスを持ち帰りで注文する。
向こうに付いたら食べようとシェイクだけ出して、行儀は悪いがチュウチュウ吸いながらプラプラと歩いていると、前からガラの悪い連中が、4、5人やってくるのが見えた。
歩く人たちは自然と道を開ける。
静も道の端に寄り、下を向いて通り過ぎようとしが、
「あ!!、て、てめえ」
その声に横を向くと、連中のうちの1人が、静を指差して叫んだ。
「こいつ、、エンペラーの、しず姫だ!!」
げ、、何、何、何、何、何! こいつ 誰なん?!!!!
その男を静は知らないが、連中は静を凝視し、男にマジか!と確認する。
次に目が合った瞬間、ロックオンされたと感じた僕、はシェイクを捨てて全力でダッシュした。
「こらーーー待ちやがれ!!」
待つわけないじゃん。
人込みをかき分けて迷走するうちに、気がつけば知らない場所に迷い込む。
ネオンが灯り始めた夕闇の中で、無我夢中で走り回った。
5人はいるよな・・・やり合うにも、一気に来られたらまずいかも。
ケンタを助けたこの間とは違って、今日の相手は初めから殺気立っている。
つかまってボコられたらただでは済まない。
あー先輩たちの忠告聞いて、駅まで迎えに来てもらえばよかった。
後悔先に立たず。
「おい、いたぞ!」
なんと地の利があるらしい相手側は、先回りをして待ち構えていた。
後ろからも追いつめられる。
とっさに横の細道に逃げ込み、右往左往して突っ走り、開けた裏通りに躍り出た。
ピンクや黄色の派手なネオンがビカビカと点滅し、人が行き交う夜の歓楽街。
右に踵を返し駆け出すと、思いっきり正面から来た人物にぶつかった。
「うっぷぁ!!」
小柄な静はぶつかった拍子で地面に尻もちを突いた。
痛〜。鼻が、、いてぇ。
ぶつけた鼻を押さえて、上を見上げると・・・
「あれ、君は」
長身の男が上から静を見下ろしている。
「、、、静ちゃん?だったけ?」
また名前を呼ばれてドキッとする。今日は初対面なのに名前を言い当てられるドッキリが続くな・・・ってあれ?
「あ、、、えっと、」
この人見たことある。えっと、、誰だっけ?
男の人は座り込んだままの僕の腕を引き上げ、立たせてくれたあと、汚れもパンパンとはたいてくれた。
「この間、はま路で会ったよな。もう忘れたか?静ちゃんとはよくぶつかるなぁ」
嬉しそうににこにこ笑う。
「ああ!!」
思い出した、確か・・名前は・・・
「この奥に逃げたぞ、探せ!!」
細道から、追いかけてきた男たちの怒鳴り声が聞こえ振り返る。どうみても怪しい僕の態度に。
「なに、追いかけっこしてるのか?」
と呑気に聞いてきた。
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