エンペラーの都市伝説
■秋編16話の続きの番外話■


教えてもらったお茶の点て方。
その通りにやっているのに、なかなかうまく上達しないものだ。
だいたい習い事と言うのもは生まれてこの方初めてだし、正座は痛いし痛いから集中できないし、抹茶は苦くて吐きそうだし元々興味なんて無かったし、それを完璧にこなせと言われても無理だった。



「静・・・激マズ・・・」
「おかしいなあ。お湯の分量ちゃんと変えたのに」



先日濃すぎる抹茶を天馬先輩と拓也さんに飲ませてしまったので、お湯の分量を少し多めにして点て方にも注意したのにまたまずいと言われた。

「お湯の量増やしたのに」
「今度は水っぽい。お湯入れすぎじゃね?ディスカウントショップに20円とかで売ってる缶のお茶の味がする」

「20円!このお茶の粉高いんだよ」
「高いのにまずいのは・・・問題ありだろ、ほれ、味見してみろ」

「やだ、だって美味しくなさそうなんだもん」
「それをよく俺に飲ませたよな・・・・・・」



今回はどうやらお湯が多すぎたようだ。
ならば次は間を取ってお椀の半分より少し少なめにやってみようかと思ってトライした。

「じゃ、もう一回点てるね」
「げっ・・・俺もうパス」

「えー先輩。もう一杯くらいつきあってよ。僕美味しいお茶入れたいんだから」
「・・・・無謀だ。ゲロマズすぎる、お前のは・・なんというか・・・」

「なんというか?」
「そのな・・・・・・何と言えばいいのかこの世に・・・・・存在してはならない・・・・・味・・・・・」

「そんなに・・・」

天馬のあまりにもひどすぎる言葉に、静はがっくりと肩を落とした。

「い、いや・・・静その、仕方がないだろう。本当にまずいんだし・・・あ、友成!」



18時になってやって来た友成は静を見るとニコニコしながら歩み寄って来た。

「久しぶり静。おや、それってお茶かい?」
「うん。友成さんにも飲んでもらいたいんだけど・・・・・・いいかなあ」
「もちろんさ。静がせっかく入れてくれるお茶なんだから喜んでいただくよ」


そして静が点てたお茶を一口飲んだ友成は・・・眉をピクリと上げた。

「どう、美味しいかな?」

純粋な静のまなざしに「美味しいよ」と笑顔で答えたいのに、この口の中で粉末がざらつく感じは一体何だろうか。


「う・・・うん。まあ、その・・・こういう味なのかな」
「まずけりゃあはっきりマズイって言えよ」
「天馬!お前は」
「そう・・・やっぱり美味しくないんだ・・・」

またガッカリしてうつむく静。

「そ・・・そんなことは!いや、そのこれは・・・」
「ごめんなさい僕・・・へたくそで」

「違うんだよ静!人間誰だって失敗するさ、でも練習すればどんどん上達するって、だからそんなに落ち込むことはないって」
「やっぱり失敗なんだ」

「ああ!そうじゃなくてね、その、違うんだよ静ぁ」


うなだれる静を少しでも励まそうと友成は必死に言葉をかけた。

「じゃ、もう一回頑張ってみるから・・・飲んでくれる?」
「・・・あ・・・・・いや・・・その・・・それは」

あれをもう一度飲み干す・・・
それは結構な罰ゲームだった。




そのとき、ドアが開いて遅れてやってきたのは大樹と涼介だった。

「あ!大樹、涼介!!」

友成は新たなる獲物を見つけブンブンと手招きした。

「静がお茶を入れてくれるってよ、お前達飲むよな!」


久しぶりに静と会った2人は静の頭をガシガシ撫でながら「静が入れたお茶なら飲むに決まっているじゃないか!」と万弁の笑みを浮かべてソファーに座った。




そして・・・

「まずかったらまずいって言った方が本人のためにもなるんだぞ。お前らも正直に感想言えよ、俺はちゃんとまずいって言ったからな」

天馬がそう言い放つ。


静が入れた抹茶を一口だけ飲んだ大樹と涼介は・・・

「うっ・・・・・」
「にげ・・・・うぇ・・。この世にこんな苦い飲み物があったとは」
「うははあ!それ、俺も言った。ねえって、こんな味!」

天馬は大樹の言った言葉に大いに賛同し笑いまくった。
そして目の前で顔をしかめたまま茶碗を持つ2人は、口の中でごわつく抹茶にそれ以上を飲み込めないでいた。

「・・・やっぱり、僕・・・駄目なんだ・・・」
「いや、そ、そんなことは・・・これはたまたま苦いだけで」
「俺も抹茶なんて初めてだから、これが抹茶の味なのか?奥深いな・・・・」
「だから、まずいんだろう・・・はっきりそう言おうぜ。静・・お前のお茶はまずい!」
「て、天馬!お前そんなにはっきり言わなくても!」

「ぼ、僕・・・もうやめる・・・ごめんなさい。みんなにおいしいお茶を点ててあげられると思ってたのに、そんなに美味しくないなんて・・・」



下を向いて道具を片付け始めた静に、友成が慌ててそれを止めた。

「一度や二度の失敗なんて気にすること無いよ!」
「失敗は4度目だぜ」
「うるさい、天馬は黙ってて」

ちゃちを入れて来る天馬に友成はゲンコをかました。

「粉の分量とお湯の分量の微妙な割合を調節すればいいんだから、一番いい量を確かめようよ」
「そうだ、そうすれば上手いお茶になるかもしれねえな」

友成の意見に大樹も賛成した。



「で、誰が静が入れたお茶を試しに飲むって言うんだ?俺は嫌だぞ」

天馬は歯に衣着せずに言った。あまりのまずさに涼介は話に口さえ挟まない。



「うちのメンバー何人いるって思ってんのさ。まずはそこに居る連中に声をかけて見ようか」



幹部と少し離れたところで待機するメンバー5人に皆の視線が映る。



(かわいそうに・・・静のお茶は激マズだぜ)



幹部全員が同じことを思いながら、メンバーを呼び寄せ声をかけた。

「静姫がお前達に抹茶を入れてくれるんだと。よかったな〜・・・・・・・・・・・・・・・・いいか、全部飲めよ」

最後の部分は静に聞こえないように小声で言った。

メンバー達はめったに会えない静姫にお茶を入れてもらえる嬉しさに有頂天だった・・・・

そして・・・




それから1時間かけて。静の門限ギリギリまで、メンバーがどんどんクソマズイお茶の実験体となった。被害者は10人とも20人とも噂された。



その甲斐あって、静は粉末とお湯の微妙な割合を掴むことができ、次の週には「上手くなったな」と修造に褒められるに至った。
それ以降、静姫がエンペラーでお茶を点てることもなくなったが、そのクソマズイお茶の話はエンペラーの都市伝説の一つにもなった。



次回・・・静の突然の行動に、「この、クソガキ・・・」と言う心境の、苦難ばかりが続く川上君のお話です。

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あきゅろす。
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