足立マン参上
「メールなんて遠まわしだな、どうして電話しないんだ」
「忙しいだろうから、仕事中とかだと迷惑だろうし」

朝川の相手は社会人か。




「じゃ、正直に会いたいってメールすれば済むことじゃないか」
「忙しいのに、時間を割いてもらうのも悪いかなって・・・」
「まあ、年末は何処の会社も忙しいだろうな。そいつ仕事何してるんだ?」
「仕事?・・・ ・・・ 何だろう・・・」
「恋人の仕事も知らないのか」
「だから・・・そういうんじゃないんですって」



ミサカクリエイトって何の仕事をしている会社だろうか?不動産かな、土地の売買とかで海外に行ってたのは知っている。
そのこと以外静は鷹耶の仕事が全く分からなかった。鷹耶は静のことは何でも知っているようなのに、反対に静は何も分からない。何でも鷹耶がしてくれていつも受身で接しているから、鷹耶のことを知ろうなど考えたことが無かった。



「電話はできない、メールもしづらいじゃ、お手上げじゃないか」
「・・・そうですね」
「俺だったら迷惑だろうがちょっとくらいは時間を作ってもらうように要求するけどな。でも・・・」

少し間をおいて園田は、皮肉めいた含みのある言葉を言った。

「こんなかわいい朝川を放っておけるって、そいつ自意識過剰だよな。よほど自信があるのか、朝川も放って置かれてよく我慢してるな」
「放って?」
「そうだろう?どれくらい会ってないんだ」
「・・・ひと月」
「信じられないな。俺ならそんなことは絶対しない。朝川に寂しい思いをさせたりはしない」

連絡もうまくできない、ひと月も会ってない。仕事が忙しくて、でもそれは放っているとかでは無いと ・・・ ・・・ 思いたい。途方に暮れる静の頭をポンポンと撫でて、元気出せと表向きは励ますが上手くいってもらっては困る園田は、考えていたことを口に出した。



「なあ、朝川。クリスマスもう予約入ってるか?」
「クリスマスですか」

ここ3年は倫子と過ごしたクリスマス。でも今年はいないから僕は誰と過ごすんだろう。一人なのかな・・・

「クリスマスって、何曜日ですか」
「イブなら日曜、25日はもう冬休みに入ってる。どうだ予定がないならどこか遊びに行かないか?俺はどっちの日でもいいから、朝川の都合に合わせるよ」


僕と?
先輩はやっぱり僕と恋人関係になりたいんだろうか。


日曜は茶会だろうしどうせ・・・鷹兄とは会えないよね。それにクリスマスなんだから時間があれば僕となんかと過ごすわけない、彼女と過ごすはずだよね。鷹兄モテるだろうし、きっと2日間とも引っ張りだこだよ。それにクリスマスでも仕事かもしれないし。

「・・・先のことだからまだ分からないけど、日曜は毎週用事があって」
「じゃ、25日なら空いてるんだな」

「その日は俺達とパーティーの予定が入ってるんで無理です」

会話に突如割り込んできた声は、川上だった。


いつから話を聞いていたのか、川上は静の腕を引いてそのまま園田の元から連れ出した。

「井上が呼んでるから早く教室に戻れ」
「え、でも・・・」
「いいから」

静を校舎内に入れ屋上のドアを閉めた川上はゆっくり近づいてくる園田に向き直った。視線がかち合うと互いに睨むように相手を見据える。



「2度目は無いって言ったはずだけど、あんた案外記憶力がないのな」
「ふっ、別に君が心配するような疚しいことは何もしてないさ」
「そんなことしてたら、今頃あんたをぶちのめしてるさ」
「相変わらずナイト君は物騒なことを言うね」
「本気だぜ」
「・・・」

川上の握った拳に力が入るのを見て、まさか校内で暴力は振るわないだろうという考えは少し相手を甘く見ていたことを園田は理解する。朝川に手を出せば本気で川上に殴られるかもしれないことを感じ取った。

「君も大概報われないな」

殴りたいなら殴ればいい。暴力沙汰を起こしたと、訴えるいい材料になる。今この場で短気を起こしてくれた方が川上という目障りな人間を排除することができる。力にものを言わせる人間はえてして頭に血が上りやすいものだ。気に障る言葉で挑発すれば手を出してくるだろう。故に園田はことさら嘲笑するような物言いで語りかけた。

「聞いていたなら分かるだろう?朝川の恋のお相手は忙しくてかまってくれないって寂しがってるんだ、なら僕が慰めても問題ないだろう」
「だからってあんたが相手をする必要はねえ」

「じゃあ君がお相手するつもりかい」
「はっ、くだらねえ」

「君は無欲なんだね。それともそうやって朝川の気を引くつもりなのかい?」

くくっと含み笑いをして、余裕の素振りを見せる園田に川上の苛立ちが募る。



「君は知っているかい?あの感触は忘れられないな」



園田は自らの唇に手を当て、指で舌唇をなぞると口角を上げていやらしく微笑んだ。




「・・・・・・・・・・朝川の唇は・・・思っていた以上に柔らかかったよ」




園田の口を付いて出た言葉に川上はとっさに園田の胸ぐらを掴み上げていた。
体育祭のとき、静の表情やしぐさを見てもしかして・・・とは思っていたが、やはりあのとき園田に手を出されていたのだ。

「てめえは!!」
「そんなに、怒るってことは・・・なぁ、君も・・・」

「てめえの下種の勘繰りにはもう飽きてんだよ!」

握った拳を振り上げて園田の顔面目指して繰り出した拳は、園田の眼前数センチのところで静止した。



「まあまあ、川上ちゃん。そんなの殴ったら、手がくさっちゃうぞ〜」

緊迫した空気を間延びした声でさえぎったのは足立だった。川上の腕を掴んで止めた足立は、胸元を掴む手も放させ園田を解放させた。

「すいませんでした。先輩さん。でも煽ったのは先輩さんですからここは喧嘩両成敗って・・・ちょっと違うか?えっと、お互い様ってことで」
「こら、てめぇ足立!」
「クリスマス会の予定立てなきゃ、井上も静ちゃんも待ってるからさ。早くしねえと昼休み終わっちまうって」

川上はバカちからの足立に引きずられて、その場で唖然とする園田からずるずると引きずり離された。屋上のドアを閉めて校舎内に入るとそこには井上が待っていた。




「血気盛んな暴力バカだったとは・・・バカがもう1人増えた」
「うるせえ!何で止めやがった」

未だに頭に血が上っている川上は自分を止めに来た2人を睨み、悪態をついた。

「静ちゃんが血相変えて戻ってきたのさ。川上が険悪だって、もしかして園田とひと悶着起こすかもしれないってね」
「そしたらやっぱり起こしてたからびっくりだよな。川上ちゃんさぁ、あいつ殴ったら停学間違いないよ〜明日からテストっていうのにそれはまずいでしょ〜」
「停学?ハッ、そんなもん別にくらったって関係ないね」
「でも、学校来れなくなっちゃうよ〜。そしたら誰が静ちゃんの面倒みるのさ」



はあ、・・・・・・・と川上は深い息を吐いた。
確かにそんなことになれば園田の思う壺だった。助けに行ったつもりが、自分はあんな奴に乗せられていいように感情を高ぶらせてしまった訳だ。情けなさが襲う。




――― 朝川の唇は、思っていた以上に柔らかかったよ・・・




その言葉に一気に血が逆流した。

自分が何のためにこの学校にいるのか。何のために静に張り付いているのか。自分の無能さを思い知らされたあの一言に簡単に切れてしまったのだ。園田にも怒っているが半分は自分に対しての怒りでもあった。

「ま、クリスマス会はせっかくだからしようね」
「そうだよな〜何処行く?カラオケ?ボーリング?」
「それは教室に帰ってから4人で決めよう」
「静は?」

川上はここには居ない静が気になって井上に聞いた。

「絶対教室を出るなって言っといたから。大丈夫。ここに来て川上が園田を殴ってるのなんて見たら、あの子ショックを受けるでしょうからね」
「いや〜間一髪だったけど。なぁ、俺って今日はヒーローだよな」
「はいはい、足立マンはいくらでもヒーローやってなさい」
「よし!この武勇伝を静ちゃんに報告せねば」
「バカ、それは駄目」
「え、何で〜〜〜」

せっかくのヒーローっぷりを止められた足立は井上に飛びついてしゃべりたいと拝み倒した。しかし井上は話せばやっぱりもめたことを知った静が気に病むだろうと言い、それを聞いた足立もしぶしぶ黙って居るほか無かった。





教室に戻ると静はすぐに3人に気づき、椅子から立ち上がって川上の元に駆け寄った。

「大丈夫だった!川上、何とも無かった」
「なにも無い」
「本当に?ケンカとか・・・してない」
「するわけないだろ。あんなの相手にするかよ」

本当に何もなかったのだろうか。静は川上の言葉が今ひとつ信じられなかった。それは屋上での、そして今までの園田に対する川上の態度がものすごく剣呑としたものだったからだ。

川上の言葉を聞き足立はこらえきれず口元を抑えて笑い、そんな足立に井上がひじ鉄を食らわす。

「足立、お前うるさいよ」
「痛ぇっ・・もう、井上ちゃんのいけず〜〜」
「さ、クリスマス会25日だからね。その日は全員予定を開けておくこと。彼女とは24日に会いなさい。分かったね」

噂では彼女持ちの川上と足立は、井上に言い渡されてへいへいと返事をした。



次回の「プラ」は〜

「静です。いろいろうだうだ考えても仕方がないので、とりあえず目前のテストを頑張ります。次回は「静の計画」です」

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