親子揃って
「はぁ・・・・」

今日はため息をつきっぱなしだ。でも今のため息は悪いため息じゃない。安堵のため息だ。今週のお茶会が終わったから。



朝から一日着物を着ていた僕は、やっと解放されて昼間食べられなかったサンドイッチとリンゴジュースを摂っていた。そこにいつもと同じく上機嫌の修お爺ちゃんがやって来る。午後のお茶会もかわいい孫娘を見せびらかすことに成功したのでご満悦のようだ。

「なんじゃ、もう着替えてしまったのか」

僕が普段着に着替えているのを見て修お爺ちゃんは少しがっかりしていた。

「朝から着物でしたからね、今日はさぞ疲れたでしょうからもう着替えさせたんですよ」
「そうか。廉治の奴にも桜花を見せてやりたかったが、仕方ない、その楽しみは正月にとっておこうなぁ」

廉治って・・・廉叔父さん?

キョトンとした僕に美也さんが廉叔父さんも来ていたことを教えてくれた。そういえばお昼に皇神会のお客が来たって言ってた・・・そうか、それが廉叔父さんだったんだ。

修お爺ちゃんは廉叔父さんを驚かせてやろうと思い、着物姿の僕を見せようとした。でも、僕ってお母さんそっくりなんでしょう?
それって何だか廉叔父さんが見たら不愉快な思いをするんじゃないだろうか。僕なんかがお母さんそっくりに変装している姿なんか見たら、きっと気分を害すると思うんだけど。




だって、廉叔父さんとお母さんて、恋人同士だったって聞いたことがあるから・・・




「皇神の若様まだお帰りになっていらっしゃらないんですか?」
「茶会に来とった二ノ宮に用があったらしくてな、別室で何やら話しこんどったわ。わしも奴に話があるんじゃが」

若様?廉叔父さんが?
僕から見て叔父さんでも修お爺ちゃんにとっては息子だから「若」になるのか。そしてその子どもの鷹兄も「若」。じゃあ2人が一緒に並んだらどっちを「若」って呼ぶんだろう?「若」って呼ばれたら2人とも振り返っちゃうよね。廉叔父さんが皇神の若なら鷹兄は何の若なんだろう?

「帰る前に廉治に会うていくか?もうそろそろ込み入った話も終わるじゃろうて」

妙なことを考えていると修お爺ちゃんに叔父さんに会って帰るかと聞かれた。廉叔父さんともずっと会っていなかったから挨拶くらいしておかないと失礼になるかなと思い二つ返事で会うことにした。






しばらくして客人が帰った後客間に足を運ぶと、開けたふすまの向こうには座布団の上にどかりと座った廉叔父さんがいた。叔父さんは僕を見ると目を丸くして驚いた後、顔をほころばせて僕の名を懐かしそうに呼んだ。


「静、来ていたのか!久しぶりだな」
「こんにちは、廉叔父さん」

「相変わらずかわいいよなあぁ」
「そんなことないです」

「母親に似てきたな」
「・・・・そう・・・なの?」
「ああ・・・お前を見ると昔を思い出す」

廉叔父さんは、お爺ちゃんがしたのと同じように目を細めて、遠くを見るような表情を見せた。お爺ちゃんが僕におばあちゃんの面影を探すのと同じように、廉叔父さんは僕にお母さんの面影を追っているんだろうか。

「大きくなったなぁ。最後に会ったのは・・・いつだったか。まあいい、それよりこっちに来い」
「はい」

目を細めて僕を見る廉叔父さんが、僕を手招きして呼ぶから叔父さんの近くに座ろうとすると、


「そこじゃない、ここだ」


そう言って自分のあぐらをかいた膝の上を指さす。叔父さんの意図が分かってびっくりしてその場に足を止めた。

「・・・僕もう、子どもじゃないから」
「静は我が子同然だからな。遠慮するな」
「いえ、遠慮とかじゃなくて・・・もう高校生だし、恥ずかしいんです」

来い来いと、人差し指を動かして自分の前に座れと指示するから、そこならばと思って叔父さんに近づいた。

「昔は自分から俺の膝の上に上がってきていたのにな」
「・・・ですからそのときは小学生だったんですっ・・・う・・・うわ!」

廉叔父さんの前に正座しようと膝を曲げたとき、腕をものすごい力で引っ張られて視界がグルッと一回転した。来るはずの衝撃に体にギュッと力を入れると待ちかまえていたが痛みは訪れず、目を開けると叔父さんの顔が頭上にあった。

「れ・・・廉叔父・・・」
「な!まだ十分乗れるだろう」

引っ張られた僕は、廉叔父さんのあぐらの上に腰掛けていた。僕の背中と膝の裏に腕を回している叔父さんはニッコリ笑ってまだ僕を膝に乗せられることを実証できて喜んでいる。
いい年してこの叔父さんは・・・静は小さい子どものように膝に乗せられていることが恥ずかしくなって少し口をとがらせた。

「まあ、そう怒るな。久しぶりだからな、ちょっとした親子のスキンシップだ」
「廉叔父さんもう降ろして」
「もうか?」
「そうです」

せっかくだっこできたのに・・・と叔父さんは残念そうに子供じみたことを言っている。確かもう50歳くらいじゃないかな?そんな叔父さんは、しっかりと僕を抱えたままじゃれて放さない。僕を抱える腕は洋服越しでも分かるくらい硬い筋肉でゴツゴツしている。小さい頃はパーカーの首根っこを掴まれてネコみたいにブラブラ宙にぶら下げられたけど、あれはおもしろくて何度もせがんでやってもらった。それを見た鷹兄が怒って僕を叔父さんからひっぺがしたんだっけ。

「どうした静?」
「あ・・いえ・・ちょっと、昔のこと思い出して」
「昔?」
「・・・なんか・・・よく、首根っこ掴まれてたなと・・・」

叔父さんはああ!あれかと、思い出したようで何なら今やってやろうと言い出した。

「や、いやです。いいです」
「その言い方じゃ、いやなのか、いいのか分からんぞ」
「嫌です!今そんなことしたら首が絞まります」
「締まらないようにうまくやってやるって」
「しないでくださいってば!」
「お父さんと一緒に遊ぼうな〜」
「遊びません!もう、叔父さん!!」


「何を騒いでおるんじゃ。静」


廉叔父さんの膝の上でじたばた格闘していると、ふすまが開いて厳しい声が降ってくる。叔父さんの膝の上で首を反らせて声がした廊下の方を見ると、そこにはあきれた顔の修お爺ちゃんと、困った顔をした九鬼さんが立っていた。

「廉治。何をしとる」

「久しぶりの親子の触れ合い」

現れた修お爺ちゃんにチッと聞こえないくらいの小さな舌打ちをした廉叔父さんは、僕の両脇に手を添えて軽々と僕を抱えた。横抱きにしていた僕を正面に向かって座り直させた。ただ向きが変わっただけで僕はまだ廉叔父さんのあぐらの上だ。それを人に見られているのが非常に恥ずかしい。
シートベルトのように背後から僕に腕を回す叔父さんは僕の耳元に口を寄せ、お爺ちゃんに聞こえないようにこそこそとしゃべり出した。

『そりゃあそうと静は何でここにいるんだ』
『・・・それは』
『オヤジに呼ばれたんだろう?』
『うん・・・』
『・・・鷹耶はここに来ていることを知ってるのか?』
『えっと・・・それは』


『・・・・・・なるほどなぁ』

鷹耶は今、分刻みで動いているような状態であることを廉治は知っている。命令したのは自分だから知っていて当然なのだが。しかし元々鷹耶の仕事ではないのに、それを無理矢理押しつけるように廉治に指示してきたのは目の前にいるこの修造だ。

『ったく、何企んでやがる、このクソジジイは』
『お、叔父さん・・・』
『静、困ったことがあったら叔父さんに何でも相談しろ。ジジイだろうがクソガキだろうが俺が何とかしてやるからな』
『だめだよ廉叔父さん、そんなこと言ったら、聞こえちゃうよ』

耳元で修お爺ちゃんの事をクソジジイなんて呼ぶ叔父さんに内心ヒヤヒヤしながら、もしかして修お爺ちゃんは廉叔父さんとケンカでもしているのかなと不安になった。しかもクソガキって・・・鷹兄のことまで・・・
修お爺ちゃんは鷹兄に罰を与えるとか言ってたし。鷹兄も修お爺ちゃんを不満に思っているし。廉叔父さんもこんなだし。
どうして親子3代揃って、相手にこんなよくない言い方をするんだろう。まるで親子ケンカでもしているようだよ。

「何をこそこそ話しとるんじゃ、廉治。いつまでも静を抱えておくな。とっとと放さんか。全く・・・親子揃ってベタベタと」

修造が言った“親子”と言う言葉に反応した九鬼が、口の端を少しだけ上げて笑う。



親子・・・。

お父さんみたいな廉叔父さんとお兄さんみたいな鷹兄。ベタベタスキンシップが激しいところは確かにそっくりだ。

――――― 我が子同然・・・か。
昔から本当の子供みたいに遊んでくれた廉叔父さん。まるで本当の家族みたいに。


家族が居るだけで幸せなことなんだよね・・・・・・だから、だからもっと仲良くしてほしいな。



この世にはもう血縁者が1人しかいない静にとっては、家族というものは憧れであってこうやって会えることはとても素晴らしいことだと思っているから、海藤の家の人達が仲のいい家族であって欲しいと心から願っていた。



次回の「プラ」は〜

「廉治だ。世の中で佐和子ほど清廉で美人で優しい女はいねえ。ありゃぁ天女だ、弁天様だ。ってことで俺の恋敵は神様って奴だな。う〜ん。俺ってロマンチストじゃねぇ?さて、静!パパと一緒に楽しい遊びしようぜ〜!次回は「桜花の正体」だ。・・・桜花って誰だ?」

(出てきていきなり予告をするなんて・・・予告の内容自体は最低なんだけど、さすが会長様。廉叔父様にのっとられそうな勢いです)

[←][→]

23/48ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!