驚愕のお迎え
雨に濡れる美しい情景に再び目を奪われ、長い沈黙の中ただゆっくりと二人の間に時が流れ、しずかな時間が経過した。
それから3、40分くらい時間が経ったと思う。
「失礼します」
ふすまの向こうから声がした。
仲居さんかなと思ったが、聞こえてきた声は男の声。
ススーーッとふすまが横に引かれ、廊下の床にスーツを着た男の人が坐していた。
「社長、お迎えにあがりました」
顔を上げた男の人は表情が無くどこか冷たい感じがする人だった。
身長は高そうだが細身でカッチリとエレガントにスーツを着こなし、銀縁の眼鏡の向こうに見える怜悧な目はするどく突き刺さりそうだ。
うわ、イケメン。
でも、なんか、 、、、、性格きつそう。
男の人をジッと見ている僕にあれは秘書だと、一言だけ説明してくれる。
鷹耶さんの会社の人見るの初めてだ。
やっぱり、鷹耶さんて社長さんなんだな〜
知らない大人の人、しかもちょっと怖い感じのするイケメン秘書のお兄さんに緊張しているとお兄にいさんと目があった。
げ、、、
目が・・・なんか、視線が怖いんですけど。
僕、なんで、睨まれてんの。
蛇に睨まれたカエルのように動けずにいると、横に立っていた鷹耶さんの指が僕の頭をポンポンとたたく。
ハッと緊張が解け顔を上げると、行くぞと言って手を差し伸べてくれた。
その手につかまり立ち、鷹耶さんの後について座敷を出ると僕たちの後に秘書さんも続く。
背中から何か不穏なオーラをを感じる。
この人本当にただの秘書ですか?
ああ〜もうこの人怖いんですけど!!
早くこの場を立ち去りたい。
玄関までの道のりがものすごく長く感じた。
やっと料亭の玄関にたどり着くと、女将さんが軒下まで丁寧に案内してくれる。
料亭の門の向こうには雨にぬれて光る黒い車が数台・・・あれに見えるは、、、サ・ベンツ・・・
さすがにベンツは分かる。
街中で見かけるたびに倫子さんが胸糞悪い車だと文句を言っていたので、識別できる。
玄関から伸びる長い軒下から車まで、屋根が無い部分は少しなのだけど、僕たちがちょっとでも濡れないように女将さんや数人の仲居さんが、赤い和傘で車の前まで誘導してくれた。
その心配りに感謝してお礼を言う。
ベンツの前に黒服の男の人が1、2、3、・・・・・後ろに止まっている車のそばにも数人・・・・何、何なのこの状況。
しかもやっぱり視線が・・・痛い!!!!
「うっ・・・ 」
何この人たちと不安になり鷹耶さんを見上げると、飲んでいるから運転できないだろうだから呼んだとまるでタクシーでも目の前にしているように答える。
またカエル状態に陥った僕は鷹耶さんに手を引かれ車の後ろの座席に押し込まれた。
そして何故かあの怖い秘書さんも運転手の横に、乗り込んでくる。
僕たちを乗せた車の前後を2台のベンツが挟み車が動き出す。
女将さんたちが頭を下げて見送る姿がスモークガラスの向こうに見える。
スモークガラスのベンツに、黒服さんに、怖い秘書さん・・・
これって、本当に会社の人たちですか。
それに何で、こんなに人がいるんでしょうか。
こんなことを考えるのはいけないことなのかもしれないけど、何だか、この人たちって、
ーーーーヤクザっぽいんですけど
車の中で身を寄せて小さくなって固まる僕と違って、悠然と構える鷹耶さん。
初めて見る鷹耶さんの世界。
たくさんの人を一言で動かし、従え、その頂点に君臨する。
この人は鷹兄じゃあなくて海藤鷹耶なんだよな。
社長で、ヤクザもしてて、海藤の伯父さんやお爺ちゃん達の後継ぎなんだよあ。
すごい人なんだよな。
ーーーこの人と僕とでは世界が違う。
疲れて車の窓にもたれながら、揺れ動くネオンの光を見つめていると、反対側から伸びてきた手に腕を掴まれグイっと力強く引きつけられた。
「うぁ、、」
引っ張られて体制を崩し、鷹耶さんの膝の上に仰向けで拘束される。
人がいるのに、何やってんだこの人!
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