ミサカクリエイト
今年のゴールデンウイークは飛び石連休であったため、長期の休みが取りにくいと社員達がこぼしていた。
連休明けの社内はそんな休みもうまく利用して旅行しただの、里帰りしただの休み疲れを残した表情で仕事を始める者達が数多く見受けられた。

5月病の状況は学校だけでなく社会全体も包み込んでいた。
ここミサカクリエイトのオフィスビルも例外ではない。
一般社員達は旅の話をしたり、お土産を渡したり、和やかな雰囲気で連休明けの仕事を再開していた。

ミサカクリエイトは1〜8階まではそれそれの金融・不動産などの部署に分かれいる。

9階はIT関連で占められ10階以上は一般社員の入室は禁止されている。
10階は会議室、来賓室。
11階は幹部室そして12階フロアーは秘書、社長室、特別室の3つに分かれており、13階は社長のプライベートルームまであり、屋上にはヘリポートまで設置されている。

10階以上に行くための直通エレベーターは常に警備員がドアの前に常駐している。
許可のない者はこのエレベーターには乗れない。
そのエレベーターに向かう一団を、1階のエントランスにいる社員達が尊敬と羨望の眼差しで見ていた。



ボディーガードと共に悠然と歩く男。
ミサカの社長 海藤鷹耶。

にじみ出る威厳、優れた男らしい美貌は男女問わず見る者を魅了する。
傲岸不遜で大胆な性格は若くして会社を一流企業に押し上げた。


12階社長室の扉をボディーガードの西脇が開けると、中ではすでに社長補佐の秋月が待機しており鷹耶を挨拶と礼で迎えた。

同時に入室した秘書の瀬名が今日のスケジュールを簡潔に述べる。
鷹耶は普段通りの不遜な態度で挨拶を返すわけでもなく、社長イスに腰掛け眉間にしわを寄せながら、秋月から渡された資料に目を通す。

いつもと変わらぬ社長室の風景だ。

しばらくして西脇が社長室前の控え室に下がろうとしたとき、瀬名が社長に問いかけた。



「充実した休みを過ごされたようで」

仕事以外は無駄口をあまりたたかない瀬名が、珍しく鷹耶のプライベートな話を持ち出した。


「マンションにも戻られなかったと護衛の者から連絡がありましたが、どちらにいらしたのですか」


瀬名の目は冷ややかだ。
以前から問題にしていた社長の奇妙な行動。
ここ一月ほどは顕著に表れ、先日はとうとう外泊までしたと連絡があり、跡を付けていた護衛の車もまかれ、幹部達は消息がつかめない緊急事態に陥っていたのだ。

小さいことではあったが組の抗争があってすぐであったため、鷹耶の身辺警護はいつにも増して厳重にしていたが、当の本人が身内を出し抜いて雲隠れしてしまうのだから話にならない。

「せめて行き先と数名の警護、携帯での連絡はして頂かないと、社長の身に何かあってからでは取り返しがつきません」

瀬名の口調は厳しいが間違ったことは何一つ言っていない。
鷹耶は社長という立場のほかに八城組の組長でもある。
そして将来は皇神会いや、東雲会を背負う組織のトップに上り詰める人間だ。
そんな鷹耶をねらう者達があとを経たない。


「俺もできれば大人しくしてもらうか、できれば一緒にくっついて行きたいんですけどねぇ」


鷹耶とは高校の頃から同級生である西脇は、社長に対しての言葉とは思えない口調で鷹耶を揶揄する。

「お前が一人でも戦えるのは十分よく分かってるがな、万が一ってこともあるだろう。それに」

ニヤッと鷹耶の方をみて西脇は続ける。

「大事なもんはいざって時には一人じゃあ守れんさ。特にお前みたいな立場の者にはな、鷹耶」


なれなれしく話す西脇を無視して、見終えた手元の資料を秋月に渡す。




「秋月」

「はい、社長」


「余計なことをするな」
 
鷹耶の唐突すぎる言葉に瀬名と西脇は秋月を見る。

2人の言葉を聞き流していた鷹耶はこの会話には全く入っていなかった秋月に何故か急に話を振った。


だが秋月は鷹耶の一言で意味を解していた。

「はい、申し訳ありません」

一歩下がって深々と詫びる。

「社長、瀬名や西脇が申しますように、この件に関しましては私も苦言を呈します。余計なことをしたとは思っておりません。ここにいる幹部の創意として受け取って頂きたいのです。」

いつもはにこやかで穏やかな秋月が表情もなく冷徹に問う。
ここでは引けないという強い姿勢でひるむことなく言い放った。




「それで、俺を調べた・・・と?」

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あきゅろす。
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