初!お泊り(1)
懐石料理は、一皿の量は少ないが、次々にと創作料理が運ばれ、メインの近江牛のステーキが出る頃には、少食の僕はお腹がいっぱいになってしまった。

「静は少食だな。もっと食べないと大きくなれないぞ」

”大きく”はよけいだ。
タダでさえ、この間の身体測定が尾を引いているのに。

「そのうち大きくなります」

ちょっとだけど伸びたことは伸びたしね。
0.2センチだけどさ。
きっと来るであろう成長期を願って、肉を一口ほおばるが、もう限界、これ以上は入らない。

「もうデザートにするか。それなら入るか」

僕の返事を待たずに、ボーイを呼び、次の料理を飛ばしてデザートを運ぶように指示をする。

運ばれてきたデザートはお腹がいっぱいの僕の食手を動かす物だった。
甘味は別腹。甘い物が大好きな僕は、”反抗期的態度”も忘れて夢中で食べた。
鷹耶はぱくぱくデザートを口に運ぶ僕を楽しそうに見つめていた。

「鷹耶さん、食べないの?」

ワインを飲む鷹耶は一向にデザートに手をつけない。

「甘い物は苦手だ」

そして半分以上空になったワインのボトルを傾け、グラスに注ぐ。
フルボトルのワインをそんなに飲んで大丈夫なのかなと心配になったが、鷹耶の表情は普段と全く変わらない。
 
静と会うときは鷹耶はいつも自分で運転しているので、お酒を飲んでいるの姿を見るのは今日が初めてだ。
「お酒強いんだ」と、顔色を変えず優雅にワインを飲み干す鷹耶を見つめた。

「まだ入るなら、俺のも食べろ」

皿を交換してくれる。

「え、いいの?」

ラッキー!ご飯は食べなくても、デザートは食べたい静は、目をキラキラさせて2皿目を完食した。

大満足した静は、砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーを少しだけ口にしたが、眉をしかめて「苦い」と言ってそのままカップをソーサーに戻した。


「じゃあ、出るか」

鷹耶にまたエスコートされ、レストランを出た僕たちは、エレベーターの前まで来た。
鷹耶がボタンを押す。


上ボタン?


食事が終わりいつものように帰るのだから、押すとしたらボタンは下向き。
???と思ったがすぐにエレベーターが来たので押されるままに乗り込んだ。レストランは8階だ。
そして次に鷹耶が押したボタンは15階のボタンだった。


僕は肩越しに鷹兄を見上げた。
エレベーターに乗せられドアがしずかに閉まる。ウイーンという音とともに上昇し。
すぐに最上階の15階に着きドアが開きエレベーターを降りる。



 
綺麗に磨かれた大理石の床に足を踏み入れると、カツンと冷たい音が廊下に響く。
降り立ったエントランスは両サイドに大きな鏡が配置され、前面には中世ヨーロッパ風の噴水から水が緩やかに流れていた。

廊下には厚みのある柔らかい絨毯が奥まで伸びており、壁にはどこかの国の宮殿を思わせるような華美なレリーフが飾られていた。


「なに、ここ?鷹・・」

疑問を抱く僕の腰を抱いたまま、有無を言わさず歩き出す。

一番奥のドアにたどり着くと、鷹耶はポケットからカードを取り出し、壁にある機械に差し込んだ。
ピッピという音がして、ガチャとロックがはずれる音が続く。
ドアノブを押し開け、部屋の中に強引に連れ込まれた。


「ち、ちょっと、鷹兄、鷹耶さん」

鷹耶は静の手を引き部屋の奥に進む。


僕はまず部屋の広さに驚いた。
広々としたリビング、開放感のある天井は高く、豪奢なシャンデリアがいくつも光り輝いている。
中央に配置されたソファーの向こう側には、夜景が一望できる大きな窓。
振り返るとキッチンやカウンターバーもありここでパーティーができそうだ。
奥にはドアがいくつかあり、まだ部屋が続いていそうだ。


「ねえ、鷹耶さん、なに、ここ」

鷹耶の意志が分からず、おずおずと視線を合わせる。


「今日はここに泊まる」

「はい?え===!!」



なんなのそれ、そんなこと聞いてない!

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