大人の世界へようこそ
上品なシルバーグレーの三つ揃いを優雅に着こなす鷹耶は、この高級ホテルを行き交うどの紳士達よりも群を抜けて目立っている。
すれ違う女の人が鷹耶を振り返りながらうっとりと見つめている。
そして反対に横にいる僕は不審な目で見られている。

それはそうだろう。
特上のいい男にピッタリくっついているのが女ではなく、男なのだから。
いいや、ここで訂正しておこう。
僕がくっついているんじゃあない、くっついているのは鷹兄のほうなのだ。

「この手・・・」

と、左手で僕の腰にまわした鷹耶の左手の指を軽くつまみ上げるが、鷹耶は気にせず更に手に力を込める。


「人が見ていますガ・・」

恥ずかしいから、変だし、とつぶやくが鷹耶は一向に手の力を緩めない。


「気にするな」


「僕は恥ずかしいです」


「人の目を気にするな。自信を持て。お前はかわいい」




「・・・あのですね!」

だめだ、頭痛い。会話がかみ合わない。


「そういうことじゃ無くて、大体男にかわいいとか使わないでください」

「おれは正直に言っただけなんだがな」

とろけるような優しい笑みを浮かべて僕を見下ろす。
鷹耶のテノールにうなじの辺りがゾクゾクして体を離そうとしたが、今度は腰だけではなく反対の手で右手までつかまれ、そのままエレベーターに乗せらた。

今日はスキンシップがいつもより2割り増しですか?
いつもより笑顔が多めに感じますが。
鷹兄なにかいいことでもありましたか?
鷹耶のいつもと違う様子を感じながらもどうすることも出来ない静はされるがままに鷹耶に寄り添った。
いや、寄り添われた?



夜景の見えるホテルでの食事。
今日は創作懐石料理らしい。


鷹耶はドリンクメニューを見ているが僕はやっぱり周りの視線が気になる。
ほとんどがカップルで来ているレストラン。
でも女性達は明らかに鷹耶を意識していた。

いつものことだが、鷹耶はどこにいても目立つ。
その秀麗な見た目と存在感。
冷たく突き刺さるような視線がクールでかっこいい。
さっきいやな思いをした僕でさえ・・・惚れ惚れするからイヤになる。


「飲み物は、いつものでいいのか」

「あ、う、うん」

鷹耶はボーイを呼びドリンクをオーダーする。
メニューにはリンゴジュースが載っていなかったが、「ご用意させて頂きます」とボーイは深々と礼をして戻っていった。

「ジュースないんだ」

「そうだな、オレンジはあったが」

メニューを閉じて、テーブルに置くとすかさず別のボーイが受け取る。
それだけの仕草なのにかっこいいんだよな〜。
ゆったりイスの背にもたれ両手を組み僕を見つめながら言った。


「ここは子どもが来るところではないからな」

じゃあ、なんで連れて来たんだよ!と鷹耶を睨んで見た。


「もう高校生なんだからね、子どもじゃないし」

フンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。


「そうだな、でも一般的には高校生はまだ子どもだろう」

「子どもって言わないでください」

「なんだ?今日はやけにつっかるな、子ども特有の反抗期か?」


ククッと笑う。絶対バカにしてる。

「そんなにおかしい」

ムスッとして口をへの字にする。

「いや、おかしくはない。そうだな、“楽しい”だな。楽しくてたまらない」


ボーイがドリンクを持ってくる。
僕の前にはリンゴジュース。
鷹耶の前にはワインのボトルが置かれ、グラスにワインが注がれた。
いつもはウーロン茶なのに。


「鷹耶さんお酒飲むの?」

「大人だからな、でも、静はだめだぞ。子どもだからな」

言わなくていい言葉をわざわざ付け加える。今日はなんだか意地悪だ。妙に楽しそうだし。僕はその一言をわざと無視して普通に会話を続ける。

「じゃあ飲酒運転で捕まっちゃうね」
 
「ああ?その心配はない」

ワインの香をかいでこれでいいといってボーイを下げる。


「乾杯するか」

「なにに?」

「そうだな、」


数秒考えてから僕の目を見つめて、鷹耶はこりもせず僕が嫌いなせりふを口にした。


「“大人の世界”へようこそ、乾杯」



絶対 いやみ だ!


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