あなたにとっての僕の存在
土曜日の午後、僕はBMWの車の中にいた。


1週間前にもご飯を誘ってもらったのに、今週もとなるとなんだか申し訳ない。

倫子さんがいないからだよね・・・きっと〜と、思う。



「鷹耶さん、仕事大丈夫なの?」

運転する鷹耶の横顔を見る。
無表情で少し眉間にしわ。
いつもの鷹耶の表情だ。
クールなところが僕はとてもかっこいいと思う。


「静のためなら、いくらでも時間はつくる」

さらっと言うせりふに恥ずかしくなって鷹耶を見ていた目を反らす。
鷹兄ってどうしてそいうこと言うのかな〜〜〜


「と、言いたいところだが、実際は忙しくて休みもない」

だから今日は仕事を捨てて逃げてきた、と恐ろしいことを言うのだ。

「ええっ、いいの仕事放ってきて、首になっちゃうよ」


「俺は社長だぞ」


偉そうに言う鷹兄がおもしろくてつい笑ってしまう。

「本当は、毎日でも会いたい」


目線はまっすぐのままだが、その瞳は優しい。
どうして、そんなことを言うのだろう。

鷹耶は兄のように優しいが、兄ではない。家族でもない。

友だちでもないし、知り合いと言うよりはもう少し近い場所にいると思う。


祖父に頼まれたから?僕の後見人だから?


「どうした?」


ぼーっとしていたみたいだ。ハッとして頭を振る。

「ううん、なんでもない」


無条件に優しい鷹兄。
倫子とは険悪だけど。

鷹兄は誰にでもこんなに優しいのだろうか。



「鷹耶さんって、もてるでしょう」

「なんだ?いきなり」


鷹耶はムッとした。
静も突拍子もないことを聞いてしまったと思ったが、鷹耶の事を知りたいと思ったのでそのまま話を続けた。


「鷹耶さんかっこいいし、優しいから、女の人に人気があるだろうな〜って思って」

バックミラーに映る鷹耶の眉間のしわが濃くなったことに静は気づかない。


「優しいと思うか」


低い声、ああ、やっぱり声もいいな〜ぞくぞくする。
男の声って感じ。


「うん、とっても」

「具体的に言ってみろ」

「え?」


鷹耶の優しいところを具体的に?
急に言われて焦るが、言わないのも悪い気がして思いつくことをどんどん口にしてみる。

小さいときよく一緒に遊んでくれたこと、今でもご飯とか誘ってくれること、よく電話をかけてくれること、生活の心配をしてくれること、いろいろプレゼントとか・・・



「ああ!思い出した」



急に大きな声を出した静を鷹耶がチラッと僕を見る。

「あのね、鷹耶さん、プレゼントのことなんだけど」

静は先日学校での事を話した。


鷹耶のプレゼントは度を越えた額の物ばかりであり、自分には過ぎたものだから身につけられないと、そして高校生にはあり得ない門限6時のことも。

それを聞いた鷹耶は特に表情を変えず淡々と答えた。


「俺が贈りたいと思って贈ったものだ。気にいらなければ捨てればいい」

「そうじゃなくて、捨てるなんて、そうじゃなくてもったいないから」

「もったいなくなどはない」

「だって、友だちがあの時計100万とかもっとするとか・・」

「静・・・」

鷹耶の口調が厳しさを帯びる。


「俺がしたくてしていることだ、しかし、それで静が迷惑するというのならやめよう」

「違うよ、迷惑とかいじゃなくて、僕にそんなお金かける必要ないし」

「必要ならある」

「へ?」

間の抜けた返事をしてしまった。



「静は俺にとって一番大切な存在だ。だから大切にしたい」



なななんあなな!!!


口をあんぐりと開けた僕を見て、鷹兄は口角を少しだけ上げた。




ーーーー 一番大切な存在って ーーーーー



家族でもない僕に?



ーーーーー 大切にしたいって ーーー



他人の僕にそんなこと言いますか!?






耳掃除が必要でしょうか。


車はスピードを落としホテルのエントランスに横付けにして止まった。
ボーイが恭しく礼をしてドアを開ける。
促されて車から降りると鷹耶は車のキーをボーイに渡す。


「いらっしゃいませ海藤様、ご案内致します」


 鷹耶はよくここにくるのかな?
首をかしげると背後から腰の辺りをぐっとつかまれてエスコートされる形になった。


「っちょっと、鷹に、鷹耶さん」


 鷹耶のスキンシップは今に始まったことではないが、このころ度を超えている。
腰をしっかりつかまれ密着してロビーを歩いた。

そうだった、スキンシップ禁止令もださないと。。。

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