静ちゃんのあしながおじさん(訂正:あしながお兄さん)(2)
まさかあの時計がそんな桁外れの高級品だったとは。
あれは高校の入学祝いにと鷹耶から贈られてきた物だった。
そして視線を自分の左上に落とし、自分が今はめている腕時計を見た。
まさか・・・これも
「ねえ、井上。この時計って普通?」
不安になって静は聞く。
「エルメスクリッパーのオートマチックだね」
これも高いのか・・・よく見るとブランドらしき文字が文字盤に表記されている。
「30万くらいはすると思うよ」
「うわっ、すげーな。エルメスかよ〜これももらいもんか?」
左手についてあるのもを凝視する。
コクリと頷きそう言えば手を洗うとき濡れたよな〜とか結構無造作に扱ってぶつけてるよな〜とか傷が入ってしまったのではないかと今更ながら表面のガラス版を見る。
「うえーー。これも無駄に高級品?小さくて軽くてベルトのタイプがいいって言ったらこれくれたんだけど」
「ねえ、静ちゃん。誰がくれるの?親?親戚?」
くれるのは鷹耶だ。
特に倫子がいなくなってからはここぞとばかりにプレセントを贈ってくる。
鷹耶は親戚ではないし、祖父の知り合いの孫・・・という、血のつながりもない縁の遠い人の説明をするのもいちいちめんどくさい。
「えっとねえ、親戚の・・・・・・・・・・・・おじさん?」
語尾が上がる・・・
26才の鷹耶をおじさん扱いするのは申し訳ないしばれたら怒られそうだが、親戚のお兄さんから物をもらうというのは一般的にあまり聞かない。
普通お祝いをくれる親戚といったら「おじさんとかおばさん」が妥当だろうと思う。
「そっか〜親戚が金持ちなのか」
静が奨学生なので、静の家庭がブランド品を買い与えるほど裕福だとは井上達も考えてはいない。
親戚が金持ちという設定が一番無難だと静は思った。
他にもさあ〜と井上は続けた。
「静ちゃんちょっと筆箱貸して」
机の中から取りだした静の筆箱から、井上はボールペンを取り出した。
「これは、ティファニーのスターリングシルバー」
スターなんたらってなんだそれ?
「2万くらいかな」
「これが・・・・・」
百均に行けば、黒のボールペンは袋に3本入って売っている。
なんでボールペンが2万もするんだ?もしかして特殊インクでも使ってるのか?
気分が悪くなってきた。
よけいな傷が付く前に今日帰ったらこのボールペンは机の引き出しにしまおう。
うん、ティッシュにでもくるんでおこう。
「これもその、おじさんが?」
「あ、うん。いろいろとね、気にかけてくれるんだ・・・・・・・おじさん」
「すげえなあ、あはは、足長おじさんか!」
足立が笑って言った。足長おじさんって何だ?
「足長おじさんって小説の話だよ。知らないの?孤児の女の子を上流階級の青年実業家が援助するって話。最後は結婚するんだぜ。小さい頃アニメであったじゃん。見なかった?」
そんな話は初耳だ。
アニメとかあんまり見なかったし。
知らず知らずのうちに身につけている物が自分には不釣り合いな高級品ばかりであることを知り、もらった物をさわるのが怖くなってきた。
次に会ったらプレゼントを断ろうと決意した。
「やっぱ大事にされてんな〜ってことは、まさか門限6時ってそのおじさんが決めたとか?」
「うん。そうだけど」
「ううわっ、マジで、うける。やっぱ足長おじさんそのまんまじゃん」
足立は笑いが止まらなかった。
『足長おじさんねえ』
川上のつぶやきは小さすぎて静の耳には届かなかった。
でも、、、おじさんというか、”あの人”はおにいさんだろ・・・目を細めて心の中でそうつぶやいた。
昼休み川上と一緒に図書館へ行った。
足立がぜひ読んでみろ、うけるからと、書架から取り出した本はアリス・ジェーン・チャンドラ・ヴェブスターの「あしながおじさん」だった。
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