静ちゃんのあしながおじさん(訂正:あしながお兄さん)(1)
静は学生の本分は勉強だと思っている。

趣味はと聞かれたら以前は”勉強”と普通に答えていた。

おかげで偏差値の高いお坊ちゃん学校に入学することができ、この先まじめに過ごし、良い成績を修め続ければ3年間奨学生として通わせてもらえる。

私立桜ヶ丘高等学校は都内でも有名な学校なので、その制服を着ているだけで”立派な学生さん”という優越感に浸ることができる。

お金に余裕がない苦学生にも門戸を開き、優秀な成績で合格すれば奨学生として入学金・授業料が免除され、学習に関わる月々の諸費まで補助の対象になる。なんとすばらしい制度だろうか。
これを知ったとき静は手放しで喜んだ。



ここは親の地位や名声をひけらかすような程度の低い連中も多いが、元々人付き合いの幅が非常に狭い静は、クラスの数人としか話さなかったし、気が付けばいつも川上が側でしゃべっているので、1人になることもなく充実した学生生活を満喫できていた。


「でな、昨日会ったかわいい子さそったら、門限があるの〜とか言われてさ」

普段は女の子に不自由しない足立が、女の子から門限を理由に断られたことを不満げに話していた。

「門限なんていい訳だよな〜あるわけねえし」

「・・・僕、門限6時だけどね・・・」
 
悲愴な顔でうなだれる静に親友達はぶっとんだ。

足立は驚き、周りで話を聞いていた川上と井上も悲壮感漂う静がおもしろくなり話しに加わってきた。

「6時って、まじか」

「ありえないでしょう。静ちゃんどこのお嬢様だよ」

「俺なんか8時より前に帰ったことねーぞ」

それぞれの話を聞いて、やっぱり変だよね〜と門限延長を鷹耶に訴えようと思う。


「静ちゃんとこ過保護だな〜」

仲の良い数人の友人達は静のことをちゃん付けで呼ぶ。中学の時もそう呼ばれていた。高校に入ったら”朝川”と名字で呼ばれたいと思っていたが、初日に足立上から”静ちゃんってかわいいよな”と言われ僕の呼び方は決定した。


「静ちゃんって親とかに大事にされてそう」

「そうでもないけど」


血のつながった家族と呼べる者は、外国にいる叔母しかおらず今は一人暮らしだが、家族がいないことを話すのは嫌だった。

保護者欄には倫子の名前が書かれてあるし、緊急連絡先はさすがに国内にいる人の連絡先でないと不都合なので、以前から祖父との約束で僕を引き取りたいと言っていた海藤の修お爺ちゃんの連絡先を書いている。
一応後見人という肩書きだ。

一人で住んでいることが学校に知られると奨学生の立場として問題になるかも知れないので、家族と住んでいることにして、詳しいことは一切言わず適当に話を合わせた。



「大事にされてるでしょう。だって静ちゃんって身の回りの持ち物、結構いい物買ってもらっているよね」

「いい物?どれが」


物なんて使えればいい!普通の店より百均で買う方が断然お得!質より量!の静は、贅沢品など自分で買ったことはない。
叔母も金銭面では厳しく育ててくれていたから、自分はごく普通のおてごろな金銭感覚を持っているはずだ。


「左手出して」
 
井上が静の左腕の袖を少し上げる。

「あれ?静ちゃん腕時計変えた?この前までロレックスだったでしょう」

「ロレックスだとお!!」

川上と足立は誰もが知っている高級腕時計の名前を聞いて飛び上がった。


「ろれっくすう?」

静は何となく耳にしたことのある名前を口にした。

「ろれっくすうじゃなくてロレックス。この間まで銀色のきらきらしたでかい腕時計はめてたでしょう」

「ああ、あの無駄に重たい時計のこと?あれさあ〜何かべたべたして気持ち悪くて。金属のベルトって苦手だから付けるのやめたんだ」

それに留め具をはめるとき肉挟みそうでこえ〜、あれ痛いんだよね〜とか言いながらロレックスに悪態を突く。
ロレックスに対して”べたべたして気持ち悪い”が静の評価らしい。しかも普通は肉挟まんよ、と周囲からは哀れみの目で見られる。



「もったいない〜、ロレックスは100万とか150万とかするんだよ」

「げ、、、あのぎらぎらが100万!信じらんない。世の中なめてる」

「ぎらぎらって、ダイヤだろ。知らないで付けてたのか」

「だってそんな無駄に高い時計だなんて知らなかったし、あれもらい物だし」


うんざりして顔をしかめた。

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あきゅろす。
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