鉄砲玉の襲撃
明日は静とのひと月ぶりの食事だ。



今年の春に高校に進学した静の制服姿はメールで見たがブレザー姿がとてもかわいらしかった。


はやる気持ちを抑え仕事をこなしていく。


そんな鷹耶を社長補佐である秋月は今日はやけに機嫌がいいな、と気づかれないように横目で見ながら鷹耶が仕事をしやすいように書類の整理をしていく。

他の者から見れば、鷹耶の顔は相も変わらず不機嫌オーラをまき散らしているのだが、鷹耶が大学生の頃から長年仕事の面で支えてきた身近な者達から見れば、今日の鷹耶はいつもより機嫌がいいように感じられるから不思議だ。
 
いつもこの調子で仕事をしてくれれば周りの者も怯えたり緊張したりせずに働けるのだが。
そんなことを思いながら午前の仕事が一段落就く頃、瀬名が社長室のドアを開け、足早に鷹耶の元へ駆けつけた。



「社長、三納組の連中が、佐藤組に仕掛けたようです」


書面から顔を上げた鷹耶の顔からは秋月が感じ取っていた穏やかな雰囲気は消え、翳(かげ)りを帯びた表情になる。
鷹耶の代わりに秋月は瀬名に問いかけた。


「昨日の時点で三納と佐藤には話をつけたはずでは」

「はい、三納組の組長と佐藤組は組長と若頭の森本にはお互い手を出さないように勧告をし、これ以降は全て皇神会傘下の八城組に調停を全てを任せるようにと話を通していました」

鷹耶が瀬名をにらみつける。
眼光を向けられた相手は瀬名であったが、ドアの前で見張りをしていた部下達が視線の恐ろしさに震え上がった。

「双方ともこれ以上の抗争よりも調停を望んでおりましたし、今回の襲撃は、三納組の若い者が単独で起こした襲撃のようです」

「じゃあ三下(さんした)風情にいいように出し抜かれたってことか?」

この手打ちについては自身から仲裁人をかって出たわけではない。
上から無理矢理に押しつけられた迷惑な仕事だが、昨日の時点で八城組はこの件を組の責任でもって収めるよう動き始めていた。
その矢先に三納組の組長の手から離れたチンピラの仕業だとしても、佐藤組に手を出された。
それは八城組の顔に泥を塗られたことと同じだ。

「なんてことだ。三納は自分の組の始末もつけられないのか」

「三納組は今朝から襲撃事件を起こした連中を血眼になって追っているそうですが、襲撃の際発砲したそうですので、警察も動いているようです」

刃傷沙汰になると警察は必ず動く。

下手に動けばここぞとばかりに警察が暴力団の取り締まりに幅をきかせ介入してくる。
怪しい奴は片っ端から捕まえろとのお達しが出るはずだ。
三納組の下っ端はなんとやっかいなことをしてくれたもんだ、と秋月は呆れた。

頭のイカれた下っ端が再び佐藤組を襲撃したら、仲介を引き受けたこちら側にも火の粉が降りかかってくる可能性がある。


クソ親父、やっかいなことを押しつけやがって。


昨日の時点ではまさか襲撃事件に発展するとは考えていなかったのだから、今更皇神会会長に悪態を付いても仕方がない。
うまく事を収めなければこちらの不手際を追求されてどんな因縁を付けられるか分かったものではない。
どんなクソ親父でも、組織では自分より遙か上位の存在なのだ。

それに若くして力を持ち急成長する鷹耶をおもしろくないと思っている連中も決して少なくはない。


ここで無様な醜態をさらすわけにはいかない。


瀬名と秋月の会話を聞きながら自嘲気味に笑う鷹耶だが目は笑っていない。
そして鷹耶が初めて口を開いた。




「明日の朝までだ」


短い台詞にはなんとしてでも捕まえろ。使えるものは金だろうが人だろうが全て使えという指示が含まれていることを2人はくみ取る。

「はい。で、奴らの生死は?」

「生かして連れてこい」

冷ややかな声で、笑みを浮かべて鷹耶は命令した。どんな状態でもいい。
血だらけであろうと、手足が無かろうとも、そう、生きてさえいれば。

組の顔に泥を塗ったバカな鉄砲玉を楽に死なせてやるつもりは鷹耶には毛頭無かった。

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あきゅろす。
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