2人目の電話
ふ〜っとため息をつくとすぐにまた携帯電話の着信音が響き渡った。画面の着信番号も見ずに通話ボタンを押す。
「はい」
名前は名乗らない。
自分からは名乗るなと言われているから。
「ずいぶん長い電話だったな」
電話からは不機嫌な声が聞こえた。
「うん、倫子さんと国際電話してたから」
噂をすれば・・・倫子さんに関わるなと言われたばかりだが、向こうからかかってくる電話だからしかたがない。
「あの女やっと出て行ったか」
「鷹耶さん。あの女って・・・そんな言い方しないでください」
叔母をけなされてムッとして答える。
やっぱり倫子と鷹耶は犬猿の仲だ。
「そう怒るな、、、静」
低いテノール。
先ほどの不機嫌とは打ってかわった優しい声で名前を呼ぶ。
「静」
「はい?」
「学校には慣れたか」
「うん。毎日楽しいですよ」
「週末空けておけ。食事に行こう」
久しぶりの誘いに戸惑う。
「えっと、、、」
「土曜の午後迎えに行く。わかったな」
こちらの都合など全く無視。
いつものことだ。でもたしかに僕に用事などはない。
「わ、わかった」
僕の返事で気をよくしたのか、受話器の向こうで小く笑う声がする。
「戸締まりを忘れるな。おやすみ、静」
耳元でささやくような優しい声。
こんな声でささやかれて、もし僕が女の人だったら卒倒するかもしれない。
ずっと聞き慣れている僕でさえも背筋がぞくぞくする。
「おやすみなさい・・・鷹耶さん」
そしていつも僕から電話を切る。
僕から切らない限り向こうから切ることはない。
倫子から”関わるな”と言われた矢先に食事をOKしてしまった。
引っ越しや入学の準備でもう一月は鷹耶とは会っていなかった。
ふーーっ。話し終えたあと、今日かかってきた電話の着信履歴を全て消して、明日の準備をしてからベッドに横になった。
「1人か・・・」
今まで1人で過ごしたことなんて何度もあったが、叔母からの電話と鷹耶からの電話を受けた後、なんだかとても寂しくなった。
ぽつんと、自分が本当にひとりぼっちであるかのように思えて消していた電気を付けた。
寂しくて眠れない?まさか。
念願の一人暮らしなのに。
小さい子どもじゃあるまいし。
しずかな部屋に携帯の着信音が鳴り響いた。
画面を見ると知っている番号が表示されていた。
「よう!起きてたか。しず姫!!」
「いやいや、天馬先輩、その呼び方やめてって」
「姫さ〜暇だったら出てこねえか」
「はあ?〜今何時だと思ってんの?」
「まだ10時だぞ」
毎晩夜遊びにふけっている天馬にとって午後10時などは夜中の範疇には入っていないらしい。
「あ〜〜〜う〜〜〜〜ん。どうしょうかな〜〜明日も学校だしな〜」
「迷うくらいなら出てこいよ。大樹がバイク買ったんだと」
「へ〜大樹さんお金有るな〜」
「ケツに乗せてくれるんだとよ」
「でも僕ヘルメットないよ」
「大丈夫だろう」
その自信はどこから出てくるんだか・・・でも・・・
電気を消しても眠れなかったし今は1人でいたくない気分だった。
「分かった。先輩。行くよ」
「よっしゃ〜じゃあいつもの店で待ってるな」
「うん」
ベッドから下りて素早く着替える。
彼らと会うときはいつも動きやすいハーフジーンズにゆったりめのパーカー。
そしてニットワッチを目の上までしっかりかぶり、丸いべっこうの縁取りのメガネをかける。
奨学生として高校に通っているので夜間徘徊が見つかると問題だ。
簡単な変装だがぱっと見では静だとは気づかれないくらいにはなっているだろう。
そして静は天馬達と待ち合わせている店に向かった。
1人でいるよりは、、、気が晴れる、、、そう思って。
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