出会い
大きな手はとても温かかった。
「朝川か・・・お前どうやってこの屋敷に入ったんだ」
「えっと、、んっと、おじいちゃんに付いて来たの」
「おじいちゃん?」
「えっと、ね、空手とかしてるの」
「ああ、お前島木のじいさんとこの・・・・孫か?」
「うん」
さっきまで泣いていた静が少し元気な声で返事をした。静はまっすぐな目で鷹耶を見上げている。
その、透き通った瞳に鷹耶は一瞬目を奪われそうになる。
歩みが止まっていたことに気づき、ハッとして再び静の手を引き歩き出す。
「あのじいさん、手加減ねえからな。」
苦虫をかみつぶした顔でつぶやく。
「おじいちゃんは今日も大きなおじさんたちと怖いことしてたよ」
「ああ、俺もさっきその中にいたんだぞ」
鷹耶の言葉に静は驚いた。
「え、じゃあ、お兄ちゃん、おじいちゃんに投げられちゃったの?」
小さいながらに心配する静の顔を見ながら鷹耶は笑いながら答えた。
「俺が?まさか」
静は驚いた。
祖父は年だが道場の若い師範代たちでさえ祖父を投げ飛ばしたり、拳を突き入れたりする様を見たことがないのに。
目の前にいるお兄ちゃんがおじいちゃんみたいに強いということに驚いてしまう。
「お兄ちゃん強いんだね」
静の目がきらきら光る。
損得勘定など一切無く、心から鷹耶を褒める静がとてもかわいく思える。
「はは、まあな。」
少しばつが悪そうに答える。
今でこそ投げられはしないものの、島木の強さは幼い頃から徹底的にしごかれてきた鷹耶には骨身にしみている。
「静はいつもじいさ、、いや、島木さんに付いてくるのか」
「うん。」
「そうか。」
「お兄ちゃんとまた会える?」
心配そうに下からのぞき込む静を見ていると、なぜかうれしくなってくる。
こんな気持ちになるのは初めてだ。
「ああ、会えるさ、今度は何かして遊ぶか」
「本当?」
おずおずと、でも期待を込めた瞳で静は見つめる。
そんな表情もたまらなくかわいい。
「ああ、だからまた来いよ」
「うん、お兄ちゃん」
「たかや だ。」
「え?」
鷹耶は無性に自分の名前を呼ばせたくなった。
「そうだな〜たかにいって呼べしずか」
「たか・・にい」
静のかわいい唇から初めて呼ばれた自分の名前。
「そうだ。もう一度言ってみろしずか」
「たか・・に・・・」
「もう一度」
「たか兄」
鷹耶15才 静5才。
このとき鷹耶は年の離れた幼くかわいい少年をもっと側に置きたい思った。
なぜだろう・・・興味を持った
高校生の俺が子どもに「今度遊ぶか」、だと?
普段、冷徹だとか喜怒哀楽の一部が欠如しているとか言われている自分が、どんな顔をしてそのせりふを言ったのか、思い浮かべて笑いがこみ上げてくる。
あの一心に自分の瞳を見る静に。
また、会いたいと、自然に思った。
そして、会うたびにその想いは募った。
ーーーーー最初の出会いから、10年経ってもーーーーー
その想いは変わらず、いや、もっと大きくなっていた。
偶然の出会いは、必然の出会いであったと思えるほど。
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