お茶処「静」(2)
次の日、あゆさんにお茶の分量をもう一度確かめる。柄杓で入れたお茶を飲んでもらうと「結構なお手前で・・・」と返された。やはりポットのお湯の量を間違えたらしい。




それから2日後、今度ははま路へ出かけ、まだ客の少ない6時にお茶を点ててみた。


「あら、おいしいわよ静ちゃん」
「うむ、なかなか手際も良いわ」

可奈子さんと大女将に合格点をもらい喜んでいると、なじみのお客さんもお茶を欲しがり、大女将の許可をもらって点ててみた。

「うまいな〜静ちゃん。抹茶なんか久しぶりに飲んだが、この苦味がたまらないな」

僕はその苦味で吐きましたけどね・・・
抹茶自体の味はともかく口々に褒められて、少しは人に出せるものが入れられるようになって自信を持ち始めた。





ガラガラ。


「お、久しぶり」
「あきらさん!!」


エンペラーの追いかけっこから助けてもらって以来だから3ヶ月ぶり?久しぶりに会った天さんは相変わらず男前で、カウンターでに座ると定食を注文した。

「あと、ご飯大盛りで」
「あら、剣持さん。もしかしてこの後も?」
「はい。今日はいつ帰れることやら。しっかり食っとかないとね」
「え?あきらさん今から仕事なの」

あきらさんと女将さんの会話を聞いて、この時間から仕事となるとやっぱりホストなのかな?以前持った疑問を聞いてみようかと思った。

「まったく、のらりくらりと仕事をしよって。もっとまともに働かんか。それと静こいつはテンで十分じゃ」

名前など呼んでやる必要は無いと、大女将は怒りながら言う。

「ひどいな〜・・・真面目ですよ〜朝から晩まで身を粉にして働いているんですから」



朝から?ホストなのに?



「ねえ、あきらさん」
「ん?」

「あきらさんって・・・ホストじゃないの?」



ブブッ===



飲んでいたお茶を噴出しあきらさんは「きたないね!!」と大女将にどやされる。大女将にしかられ誤りながら、お手拭で拭きこぼしたところをきれいにし、あきらさんは僕のほうを見て笑いながら言った。

「静ちゃんはなんで・・・そう思ったのかな?」
「だって働いてないとか・・・由美さんもタラシとか言ってたし・・・それに・・・・・・・・・・・見た目」

最後は言いにくかったので小声で言ってみたけど、しっかり聞こえたあきらさんはがっくりと肩を落として「はあ・・・」と大げさにため息をつく。



「ホストじゃない」
「そ、そうなの・・・ごめんなさい」
「そうか・・・見た目だとホストか・・・」

あごに手を当ててしんみりとしてつぶやくあきらさん。僕ってなんて失礼なことを言っちゃったんだろう。

「あ!そうだあきらさんお茶・・・お茶入れてあげる」

失礼なことを言ってしまったお詫びにと、あせって茶碗を洗わせてもらい慣れた手つきで茶を点てた。



コトリ。湯気の立つ抹茶を置く。

「まだ、習い始めたばかりなんですけど・・・お粗末ですが・・・」

テーブルに置いた茶碗を手に取るあきらさん。



茶器を持ち作法どおりに茶碗を回し、点てた静に礼をとる。飲み終えると茶碗を回し口をつけた場所を指でふきあげ「結構なお手前で」と優雅な手つきで茶碗を置いた。その一連のしぐさが胴に入っていて驚いた。

「あきらさんってお茶知ってるの?」
「茶道か?ああ、知っているというか・・・・・・・・昔な、よく飲んだ」
「へ〜すごいね。僕びっくりした」
「びっくりしたのは俺のほうだよ。静ちゃんは茶道に興味があるのかい」
「うー・・・・興味って言うか、今度親戚の茶会があってね、その練習なの」
「そうか。じゃ、また点れてくれ。いくらでも練習台になってやるよ」
「うん、精進しとく」

頭をガシガシ撫でられて、茶菓子が無かったと言うあきらさんに大女将がいじきたないね!と文句を言う。

そんなのんびりとした時間も、気が付けば7時を過ぎていた。急いで後片付けをして駅に向かい電車に飛び乗った。




(あ・・・そういえば)

電車の中、静はあきらの職業をまた聞き忘れたことを思い出す。ホストじゃないことは分かった。朝から晩まで働いてるって言ってたけど・・・
このあいだ追われていたときは繁華街で会ったけど、あのときは外回りの仕事だったのかな。でもカバンとか持ってなかったような。今日も今から仕事と言っていたわりには手ぶらだった。もしかしてこの近所に仕事場があって、ご飯を食べに来ているのかな。じゃあ外回りじゃなくて?なんだろ。スーツ着てるから会社員だよね。

お茶を飲む作法が身についた上品な所作。でも大女将にはいつも叱られていて頭が上がらない。由美さんにはタラシ呼ばわりされて。あきらさんて不思議な人・・・今度会ったら何してるのか聞いてみよう。



静はいろいろな職業を想像しながら、優しくて面白いあきらのことをもっと知ってみたいという気持ちに駆られていた。





走るとリュックの中身がガチャガチャ音を立てる。クッションは入れているものの茶器が割れないか心配になる。駅から走ってアパートまで帰りギリギリセーフ。

ああ・・・もう、やっぱり8時ってナンセンスだよ。
今時の高校生はせめて9時だよね。

どうやって1時間門限を延長するか、その方法を考えるのが今の静の大きな課題だった。

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あきゅろす。
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