お茶処「静」(1)
「何をするつもりだ静?」


天馬先輩の眉間にしわがよる。





今日はエンペラーの集会の日。開始時間は20時からだから、今はまだ18時過ぎの倉庫に幹部クラスは天馬先輩と拓也さんしか来ていない。

この夏補導された僕の話は、一緒にナイトヘッドとケンカした仲間から話が伝わっていたけど、そのあと僕がどうなったのかが分からずかなり心配をかけてしまったみたい。
夏の終わりにやっと無事を連絡し合ったけど、こうやって会うのは2ヶ月ぶりくらいだった。




テーブルに広げられたのは茶器。さすがに釜は無いのでポットでお湯を沸かし、茶杓で抹茶を一杯すくい茶せんで煉る。再び抹茶を2杯と湯を足し茶を点てた。
静の白い指先が茶を点てる優雅なしぐさに思わずみとれ、差し出された茶碗を見ると緑色に濁り泡だったものから湯気が立っていた。



「まずはお盆からお菓子を1つずつ取って下さい。懐紙の上に置いたらお盆は隣の拓也さんに回します」

天馬は言われたとおりに白い紙の上に小さい餅のような菓子を乗せた。

「先にお菓子を食べてください。そのあとがお茶です。手で食べちゃ駄目!楊枝で切り分けるの!」

といちいちうるさく指示してくる。

「いいじゃねえか。こんなもん切らなくても一口だ。手で・・・」

「楊枝を使うのも作法なの!!」



かわいい顔でプリプリ怒る表情に「はいはい」と仕方なく頷き言われたとおりの作法で菓子を口に運ぶ。そして今度はお茶の飲み方も細かく言われる。本当は畳のヘリが・・・と決まりごとを言うがテーブルで茶を点てているのだからその話にはあまり意味が無い。右手で茶碗を取り「お相伴させていただきます」と言わされ、左手に茶碗を置き右手を沿え、お茶に感謝。その後やっとお茶が飲める、と思ったら時計回りに2回まわし一気に飲むのと言われた。しかし一口目で「?」と思いそれからチビチビ小分けにして飲んだ。茶碗を置こうと思ったら最後に今度は逆向きに2回回すのと注意を受けた。




「これしんどいわ・・・静。菓子は美味いが茶はまずい・・・」

「“まずい”じゃなくて“苦い”って言ってよ先輩」

せっかく点てたお茶にケチを付けられて非難の目で天馬を見る。

「じゃお前も飲んでみ?」
「舐めたよ」
「舐めた?」
「うん、飲むつもりで舐めたけど・・・苦いから・・・・・・吐くかと思った」

「てめえ・・・自分でも飲まなかったものを・・・よくも人に飲ませようと思うなぁ」



そこは苦手なものを我慢して食べたことが無い静。本家で修お爺ちゃんが点てたお茶を一口目でギブアップして、着物を着たまま洗面所に駆け込んだのだ。静だから許されるが、他の者がこんな態度をとったならばただではすまなかっただろう。その場でエンコものかもしれない。まあ、普通はお抹茶が苦くて吐くなどあり得ないのだが。



「で、人を実験台にまでして静は何がしたいのさ」

同じくまずそうに顔をしかめる拓也さんにもう一杯どうです?と勧めてみたがとんでもないと断られた。

「11月にね、親戚関係のお茶会に出るの。その練習。いろんな人にお茶を点てるのが慣れるのには一番いいって」

それにしてもまずかった。ふたりはお互いの顔を見合ってそれを確認する。

「お前さ、分量間違ってねえ?俺前に飲んだことあるけどなんかこれさ・・・・・口の中でザラザラするぞ」
「え?おかしいなぁ。山盛り一杯を3回で・・・」
「お湯の量じゃね?ほんとはなんか竹でできた奴ででお湯入れるだろ」
「柄杓ね・・・そっか、お湯少なかったかな?」

目分量で適当に入れたお湯がどうやら足りなかったようだ。



「友成さんとか大樹さんとかは?」

次の獲物を狙い、いつごろくるのか聞いてみた。

「あいつら8時過ぎないと来ねえぞ。涼介もな」

8時か。それはタイムオーバーだ。

「分かった。じゃまた来るね」

そう言って静は茶碗を軽く拭き、道具をリュックにしまい込む。

「帰るのか?」
「うん、だって8時までに帰らないと。あ、門限ね2時間伸びたんだ。へへっ」



夏休みの終わり、鷹耶のマンションで最後までもめたのが門限。静は11時と言い張り、鷹耶は6時と譲らない。さんざん言い合った末、鷹耶はまた飛び出していきかねない静の興奮ぶりに仕方なく譲歩した。お互いの中間を取って8時半。しかし冬場は暗くなるのが早いので8時となった。それでも2時間伸びたのだから静としては嬉しかった。
ただし・・・

「1分でも遅れることは許さない。どうしても間に合わないときには即メールで居場所を知らせろ。それでも8時半を過ぎることは絶対にだめだ。破ったときは高校卒業まで門限を5時とする」



時計を見ると7時過ぎ。そろそろ電車に乗らないと間に合わないかもしれない。8時前には帰り着かないと。2時間伸びたとは言え、やっぱり8時も早すぎるよね〜とせっかく伸びた門限にさえ文句を言う。

「駅まで送って行くわ」





天馬に連れられて駅まで歩く。その途中コーラを買う天馬。ゴクゴクと喉を鳴らしながら一気に飲み干しうまそうにプハーッと声を漏らす。それを不満げに見つめる静にばつが悪そうに視線をそらせて小声で言った。

「口直しだ」
「そんなに・・・まずかった?」
「次までにお湯の分量確かめとけ。客が死ぬぞ」



そこまで言わなくても・・・・・・

かなり不味いものを口にさせてしまった静は心の中でちょっとだけ反省した。

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