修お爺ちゃんの見栄
「静や」
「はい」

「ここからが本題じゃ」



着物なので、当然正座なんだけど、座布団に膝を折るとき着物を織り込んで座るのにしわが出来るんじゃないかと気にしながら座る。座った後も、着物に体のいろんな所を圧迫されているようで着心地が悪い。普段から着物で生活している人ってすごいなと思った。



「実はなぁ・・・しばらくの間、わしの娘になってもらえんじゃろうか」
「へ?」



息子じゃなく娘???

そして、その後お爺ちゃんから聞いた話に、僕は卒倒しそうになった。

修お爺ちゃんの話は全く想像していないことだった。






僕が夏休みに丁度本家にお世話になっていたとき、修お爺ちゃんは前々から約束していたゴルフ旅行に行っていた。昔からの仲間や、東雲会の関係者達とスコアを競い賭け事なんかもして大いに楽しんだらしい。参加したのは年寄りばかり。夜の宴会では酒も入り自分達の近況や孫の話しに華が咲いた。

「わしの孫は6つと2つになる。子どもより孫の方が何倍もかわいい」
「わしのところは孫娘が15になるが、今でもジイジ、ジイジとくっついてくるんじゃ」
「うちの孫は息子よりも度胸がある。将来立派な跡継ぎになるわい」

それぞれが孫自慢をする中、話を振られた修造は思わず昨日久しぶりに屋敷を訪れた静のことを思い浮かべ、自慢げに話した。

「わしのとこは、16になるそれはかわいい子がおって、頭も器量もいい別嬪じゃ。優しい子での・・・桜の花のようじゃ」

「修造さんとこに、そんな若い孫がおったかいのう?」

「・・・・・・・遠縁の孫じゃ」


海藤家の本家から分家まで、大体の家族親戚関係は把握されているのに、修造は口を滑らせ居もしない孫の話を吹聴した。

「修さんがそんなに大事にしとる孫なら、うちの嫁にほしいの」
「いや、あれは・・・」

修造の話の様子から、遠縁の孫は女の子だと思い込んでいる知人の言葉に、どうせ会わせることもないのだから訂正の必要も無いだろうと思い、“孫娘”のまま話を進めた。

「あれは嫁にはやらん。・・・わしのそばにずっと置いておくんじゃ」
「何をいうか、女は嫁がせるもんじゃ。出し渋りでは後家になってしまうぞ」

こうなると年寄りはお互い引かない。周りは修造が手の中でかわいがる年頃の孫が見てみたい。あわよくば嫁にもらい海藤家と縁続きになる算段もつけ始めている。

「なんじゃ、見せられんのか?ほんまに別嬪さんなんじゃろうか」
「こりゃ、その言い方は修さんに失礼じゃろ」
「じゃあ、一度くらい拝ませてもらっても罰は当たらんさなぁ」
「わしも楽しみじゃ。修造さんとこの孫娘を近々拝見しに行くでな」

それぞれが勝手なことを言い始めた。

最初に偽りを言ったのは修造で、ここまで盛り上がってはすでに嘘だとも言えない。静が本当の孫だったら良かったのだが、あれは親友の孫。自分の孫はかわいげのないやさくればかりで、使えそうな孫は1人もいない。




「会長も後からお困りになることが分かっておいでのはずですのに、見栄をお張りになるからこういうことになるんですよ」
「あやつらがわしの前で孫の自慢なんぞをするのが悪いんじゃ」
「我慢なさればよろしかったでしょう」
「わしゃあ負けんぞ」
「勝ち負けではありませんでしょうに。迷惑するのは静さんでしょう」

修お爺ちゃんと美也さんの言い合いは続く。
要するに、修お爺ちゃんの孫娘になりきって、その友達連中にお披露目をするために女装する――――――なんてこった・・・・


「美也・・・さん・・・僕・・もうだめ・・」
「静さん。“僕”じゃありません。“私”です。それとまだ15分しか経っていませんのよ」

体が前のめりになるのを必死でこらえた。僕は今・・・・・・足の痺れと戦っている。

「でもお爺ちゃん。僕がもし本当の孫じゃなくて、その・・・男だってばれる可能性も」
「ばれんじゃろ」
「そんな、安易に」
「見た目は完璧に佐和子じゃ。廉治が見たら抱きつくかもしれん」

はあ・・・と九鬼さんの大きなため息が聞こえる。

「礼儀作法なんぞは、美也が教える。静・・・」

結構落ち込んでいる僕をジッと見て修お爺ちゃんは言う。

「老い先短い年寄りのわがままじゃ。かなえてはくれんかの」



そんな目で見られたら断りづらい。女装ってのがかなりブラックなんだけど修お爺ちゃんの頼みなら・・・・・・・仕方ない。清水の舞台から飛び降りる気持ちで、今回の計画にしぶしぶ賛同した。誰にも内緒と言うことで。


そして礼儀作法と正座の訓練が始まった。

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