パンが好きだから
校舎裏はひっそりしていた。放送や歓声も校舎に阻まれて少し小さく聞こえる。人がいない木陰を選んで、そこまで先輩を引っ張って来て口を開いた。



「どうして先輩はあんなこと人前でしゃべるんですか」
「朝川は俺との関係を隠したいのか」
「関係って・・・変な言い方しないでください。先輩は友達になろうって言ったから僕もいいって言っただけです。付き合ってるとか・・それ以上のとか言わないでください」

一気にまくしたてて、息が切れる。でも言わずにはいられなかった。先輩はどうもこの関係を広めたがっているように思えたからだ。



「好きなんだから・・・・しょうがないだろう」



先輩は困った顔で穏やかに好きと言う。

「僕は違います」
「そろそろ慣れて欲しいな」

頬を両手で覆われて、親指が下唇をスッとかすめた。昨日のことが頭をよぎってその手を離そうと腕をつかんだとき、


「静ちゃーーーーーん。見てみて〜」

その声に2人ともハッとして走ってくる人の方を見ると、足立が猛然と突進してくる。


「ほらほら、見てこれ、赤リボン3枚目〜」

胸に付けた1位のリボンをヒラヒラと揺らして自慢げに見せた。

「400も1位でゴールしたのに、テントにいないんだもん。次、静ちゃん障害物だよ。早く早く」

僕を引っ張る足立。僕達は園田先輩を残して、入場門へと急いだ。もやもやした気持ちを抱えたまま。


(足立・・・か。あいつも分かってやってんだろうな)


静の周りには邪魔な奴が多い。体育祭は今日で終わる。そうなると静に会う口実も減る。断られればそれで終わり、だからそのために無理矢理“友達”になったのだが。




ガザッ・・・




茂みから出てきた人物を見て、優しげな表情だった園田の目が冷たく細められる。


「おや、ナイト君は一部始終を見ていたようだね」


茂みから現れたのは、川上。

今日は井上と足立と3人で自分達の出番や係の仕事を把握し合い、誰かが必ず静の側に付けるように体育祭に臨んでいた。どうしても誰も付けないときは静にテントを動かないように、それとなく言い聞かせるようにしていたのに、足立の言うことを聞かず、静は自分からこの校舎裏という絶好の危険地帯に足を踏み入れたのだ。

園田と静が校舎裏に行く姿が見える。川上は自分の仕事をクラスメイトに押しつけて駆けつけ、近くの茂みに身を潜めた。
言い合いをする声。静に好きだと告げ、あろうことかキスを強制しようとしていた園田。足立が走ってこなかったら、もちろん自分が走り出て行くところだった。



「静に近づくな」




「君にそんなことを言われる筋合いはない。これは俺と朝川の問題だろう」

余裕を見せた言い方で川上の話を断ち切る。園田は一癖も二癖もある。おいそれとは話には応じない。こんな奴に目を付けられるなんて・・・

「朝川のナイトを気取っているようだが、君も朝川の事が好きなんだろう」

「・・・ふざけんなよ」

握った拳をさらにギュッと握りしめる。



「静は・・・・・・・・あいつは・・・・・・・・・・お前がちょっかい出していいような相手じゃねえ」



「何を言ってるんだ君は?」

川上の言った意図を掴めず、園田は無視して言い放った。

「とにかく、君が朝川を好きでそれで邪魔をするのはかまわないさ。好きになる権利は誰にでもある。ただし俺も引くつもりはない。せいぜい見張りでも何でもするがいいさ」

そう言い捨てて川上を残し、園田はグラウンドに戻って行った。




忠告はした。

園田―――――

2度目は無いからな。



川上の目が冷たく光り、園田の背中を捕らえていた。






テントに戻ると、競技を終えた静がさっきまでとは打って変わった上機嫌で戻ってきた。
胸には1位の赤いリボン、そして手には袋に入ったあんパン???

「見てみて〜あんぱんゲットだよ〜〜〜」

嬉しそうに3人にあんぱんを見せびらかす。

「なるほど・・・それが障害物を選んだ理由なんだね・・・」

障害物の最後の障害はパン食い。静は来年もこの競技に出ると浮かれていた。そんな静を見ながら川上は心の中で煮え切らない思いを必死に抑える。




(ガキだ・・・・・・・・どうしょうも無くアホで無自覚で学習能力の無いくそガキだ。)


さっき迫られた出来事など、あんぱんをゲットした嬉しさできっと記憶から吹っ飛んでいるに違いない。


(あんなのどうやって虫除けしろって?そんなに心配なら首に縄つけて、部屋に監禁でもしておけばいいだろうが。3年間も・・・・・・人にこんな仕事押し付けやがって)




川上は誰にも聞かれることの無い、聞かれてはならない思いを、心の中でぶちまけた。

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