先輩のアレ発言
保健室は朝から大盛況。



ジャージの色から2年生だろう人たちが、消毒やらシップやらで順番待ちをしていた。2年の団体競技は棒倒し。さっきはグラウンドで殴り合いのケンカも勃発していた。2年の棒倒し、騎馬戦、そしてクラス対抗リレーは体育祭の華。がぜん盛り上がる。練習でさえ本気になってけが人が続出する。
自分も来年はこうなるのか・・・と怪我した2年生を横目で見ていると、先輩が保健室の奥から戻ってきた。


「ベッドも椅子もいっぱいだから、別の教室に行こう」

その手には真新しい包帯とテープ、そしてはさみが握られていた。ざわつく保健室を後にして、渡り廊下を渡った。




(どこまで行くんだろう)


先輩の後に付いて隣の校舎の1階の奥にある空き教室までやって来た。椅子に座り、左手を持ち上げられて包帯をクルクル解かれた。

「あの・・・先輩?」
「ん」

黙って包帯を代える園田を上目遣いで見上げる。グラウンドでの喧騒とは一転した静かな空間に居心地の悪さを感じ、自分から話を切り出してみた。

「話って、係りの話ってなんですか?」
「ああ、今日の放課後、信号器のテストをするから1年の出発係りに伝えてほしいんだ。朝川は1年の班長だろ」

クラスに3、4人ずついる出発係り。1年全体では24人いる。その班長を静は引き受けていた。園田は出発係りの係長なので学年の班長に直接伝えに来たと言うのだ。

「はい、分かりました」
「この怪我は?」

包帯を解き終え、大きなガーゼを貼ってある手を見ながら聞かれた。

「夏休みにちょっと、切ったんです」
「縫ったりしたのかい?」
「はあ、9針ほど」
「そんなに!」

大変だったねと、優しく手を握りこみ新しい包帯を巻き始めた。


「朝川は」



包帯を巻きながら先輩の言葉がそこで止まった。「はい?」と疑問系で聞き返す。



「今、付き合っている人いる?」

「え?」

包帯を巻く手が止まり、先輩は僕の顔をじっと見てそんなことを言った。

「いや、男でも女でも付き合っている人がいるのかと思って」

男でもという言葉が引っかかる。これはもしや2学期始まってしょっぱなの例のアレ発言(妙な告白)ではないだろうか。

「黙っているということは、いるのか。相手」

そういうわけではない。いきなりのアレ発言に久々に戸惑っているところだ。
今までは会った事もない人がいきなり“好きです、付き合ってください”だったので、すぐに“無理です”と拒絶してきた。しかし目の前にいる園田先輩は初対面ではない。といってもそんなに親しくもない。係りの仕事で顔を合わせて今日で2,3回程度だろう。クラスも知らないし、下の名前も覚えていない。はっきり言って3年生と言うことくらいしか知らない。もしもアレ発言をされたらスパンと断っていいものだろうか、それともやんわり断るべきだろうか。

「相手は、女?それとも男の・・」
「ち・・違います、いません」

先輩が勘違いしてどんどん話を進めるからあわてて訂正する。

「本当に誰とも付き合ってないのか?」
「・・・そうです、ね」
「意外だな」

「?」

先輩は不可解なことを言って包帯を巻き終え、固定テープを貼り、そして顔を上げた。



「今フリーなら、俺と付き合わないか」
「へ?」



静かな校舎内に。朝練の終了を伝えるチャイムが鳴り響いた。

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