獣の腕の中で
涙がツーッと頬を伝い、鷹耶の手も一緒に濡らす。
僕の唇には鷹兄の乾いた唇が重なった。ついばむようにチュチュッと唇を吸われて、舌で唇をなぞられる。
「ん・・・」
キスされることが恥ずかしくて鼻からかすれた声が出て、今度はその声が恥ずかしくて唇をキュッとかみしめた。
「口・・・開けて」
やっぱり・・・するの?
軽く触れるだけのキスなら・・・・でも、それだって慣れたわけじゃない。
鷹兄がしたがるから・・・仕方なく許してきたけど・・・・・・だけど正直口を開くのはまだかなり抵抗がある。
それは、とてもいけないことをしている・・・・そんな気持ちになるから。
「静・・・」
抵抗しても、前みたいに他のところを無理やり刺激されて、結局深いキスに持ち込まれるだろうし。嫌がってもするんだから、無理やり開かれるよりは、自分で開けた方がいいのかな・・・でもそれってすごく恥ずかしくない?しかも自分からとか、キスを認めるみたいで嫌だ。
「静・・・」
唇が触れたまま名前を呼ばれた。鷹耶の唇が自分の唇をかすめる感覚に背筋がゾクッとする。
「静・・・口」
静は、キュッと噛んでいた唇を緩めて、震えながら少しだけ口を開いた。
強制だとしても、自分の意思で許すのは初めてだった。
静のその初々しい様に冷静な心をかき乱される。愛らしく震える唇に再び口づけを落とし深くまで舌を侵入させた。
「ふっ・・・んっ・・」
こぼれる熱い吐息と洩れる声。
始めは優しく、そして徐々に荒く。口内の全てを蹂躙しつくすような鷹耶の荒々しい口づけに、静はすぐに息が上がり、呼吸もまともにできなくなる。たくさん息が吸いたいのに、口をふさがれ、舌を絡められ、唾液が流れ込みそれを飲みほしてもまたあふれてきて・・・
「・・、はぁ・・っぅ・・・はぁぁ・・た、かに・・」
長く、熱く、甘い口づけに、体中が熱を持ち始める。前と同じで頭がボーッとしてきて何も考えられなくなった。
「兄、じゃないだろう」
こんなときに、そんなこと言わなくても・・・意地悪なんだから・・・鷹兄は・・・
「たかや・・・さん・・っ・・」
「もっと言って静」
こんな深いキスしてるのに、しゃべれないよ。それに、もう・・・
「ふ・・ぅ・・・たか・・・さん」
苦しくて、切れ切れにしか言葉が出ない。
「もう一度」
「んっつ・・・・・た、かや・・・さん・・・・・」
深く交わる濡れた口づけの音。
荒々しく翻弄されながら、なんとか必死になって鷹耶を呼ぶ静のたどたどしい声。
2人の荒くて熱い吐息。
めまいがしそうなほど甘美な時間。
これは鷹耶が望んだ2人だけの世界――――――――――
「も・・・だめ・・・息・・・くるし・・・」
息も絶え絶えに訴えながら、自分の名を呼んだ静の声に、暗く病んでいた心が一気に浄化されるような気分だ。静がいれば他には何もいらない。
息が上がって、顔を真っ赤にした静を包み込むようにして抱きしめた。
『愛している』 そう言いたかった。
しかし、今はまだ早い。
『お前が好きだ』という言葉にさえパニックに陥った静に、この状態で愛をささやけばまた怖がらせるだけかもしれない。
年々、美しく成長していく静を見守りながら、鷹耶の心の奥底には、いつあふれて出てしまってもおかしくない程の欲望の渦がうごめいている。
そんなことも知らず、親鳥にすり寄る雛鳥のように甘えてくる静。近頃見せるささいな反抗や警戒は、逆に鷹耶の嗜虐心を煽っている。
何も知らぬ無垢なこの子を、自らの手で育て、腕の中で守りながら、少しずつ・・・そう、少しづつ・・・自分のものにしていくのだ。
飢えた獣のような鷹耶が冷酷に微笑する。
その獣の腕の中で一方的な口づけを受ける静は、鷹耶が欲望を浮かべた目で自分をずっと見てきたことなど、気づきもしなかった。
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