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きみのとなり
ぼくはねこだった






”くろは”……?
それはなに?


僕は首をかしげると、ふわりと顔に黒い物がかかる。
それは長い毛。
僕、そんなに長かったかな?


確かめるように触ると、再び違和感を感じて自分の手を見つめた。


5本の指があって、開いたり閉じたりできる。
それはまるで飼い主さんたちのよう、それはまるで人のよう。




「…な、んで……?」




口を開くと出たのは、飼い主さんたちが喋っていた言語。




僕は、僕は…猫…。


猫、だった…。




「クロハ、だよね…?その耳と尻尾、」


「え、」




男の人は静かにそう呟いた。
”くろは”という単語よりも、耳と尻尾が気になって、僕は頭を触る。


そこには確かにひょこっと黒い耳が、お尻の少し上からは黒い尻尾が、僕が猫だった証拠があった。




なんで?

僕は生きてるの?


なんで?

僕は人間になってるの?


それともこれは夢?

僕はやっぱり死んだの?





訳がわからなくなって、頭のなかがぐしゃぐしゃになって、目頭がじわりと熱くなる。



その時、




「えっと、クロハ、だよね?」


「…あ、ぅ…」




泣きそうな意識は目の前で少し困ったように笑う男の人によって吹き飛ばされた。


そう、ずっと気になっていた単語”くろは”。



僕は”くろは”じゃない。
僕は黒猫。
僕は捨て猫。
名前はなくて、………名前…?




もしかして”くろは”って、僕の名前なのかな…?


ううん、そんなわけないよ。
僕は”キモチワルイ”から、僕はいらないんだから、名前なんかつけてもらえるはずがない。


そう思ったら、心の奥のへんがずきずきと痛んだ。




「く、ろは…って…?」




僕は弱々しく小さな声で聞いた。


自惚れちゃいけないことはわかってる。
だけど、心の片隅で少し期待していたんだ、だってその人の笑顔がすごく温かかったから……。










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