ーYourselfー
第24話『2人の魔術師の相違』
────キンッ、
(……くそ…)
────キンッ、カンッ…
(くそっ、くそくそ…!)
────ガンッ!
『《ヘルメス》っ!!
ぅぅぅぉぉおあああああああああ!!!!!!』
(くそ……くそっ!くそくそくそっ!
俺だけでも……俺1人でも…こんなヤツらなんか余裕で…!
アイツらがいなくったって…"アイツ"がいなくったってなぁ……!!)
ザシュッ!
『殺ってやれるっつの!!』
何両くれぇ走ったかな……俺はアイツらの声を無視して、シャドウを追っかけた。俺は認めね……秋菜みてーな貧弱野郎がリーダーなんてな!こう言うのは実力社会なんだよ。桐条先輩も、何であんなヤツの意見を…。あんな調子じゃ、いつまで経ってもシャドウなんか倒せねぇよ!
俺の選択が正しかったんだって、俺が実際にシャドウ倒して証明してやる!そーすりゃあの先輩だって、俺を認めてリーダーにする筈だ、そうに違いねぇ!
キンッ、ザッ!
『はぁ、はぁ……』
これで3体目……つーのも、追いかけた先に待っていたのは、俺が追っかけたのと同じシャドウの大群だった。少なくとも5体はいた。今までのタルタロス探索でも、まとまって5体出てくることは希だった。それでも俺は退かず、ペルソナ使ったりしてなんとか数を減らしていった。このままやっていれば倒せる!
と思ったその時だ。
ゴゥンッ!
『!?
何だぁ?今の揺れ…………ぅおっ!?』
ウィィ……ン────
一回、結構でかめに急に揺れたかと思ったら、今度は列車が動き出した。
うっそ……マジかよ!これなかなかデケー列車だろ!?それを影時間に動かすとか……つか、ドンドン速くなっていってねーか!?そんな凄まじい力持ってんのかよ、大型シャドウって!
『っ!?』
窓の外の景色に気を取られていると、あのシャドウが髪を模した触手のようなヤツを、俺に向かって伸ばしてきた。その寸のところを、俺は重いキシドーブレードで防ぐ。
こんな生死を懸けている時に俺が目を奪われていたのは、外の全てのものが線となって慌ただしく行き交っているその上で、悠々と浮かび世界を照らす満月だった。まるで必死こいて足掻いている俺を、全てを知っていながら何も言わず、ただ嘲笑いながら見守っているように見えた。
(……ちくしょ────)
俺は、どうすりゃ正解なんだよ……。
けど、ここまで来て引き下がる訳にもいかず、俺は一度シャドウを振り払い、間髪入れず召喚器を手に取る。
(なぁ、《ヘルメス》……俺は間違ってねぇって、証明しろよ……してくれよ!!)
ガンッ!
────────────
────────
────
伊織が行ってしまってからすぐ、僕らは突如現れたシャドウに後ろを取られ、奇襲を受けた。敵は2体。変なへまさえしなければ、いつもの要領で倒せる相手だ。
そして残り1体、木乃が銃器で最後の一撃のトリガーを引く直前に大きな揺れが起きた。木乃にとっては許容範囲内だと普通に撃ってシャドウ反応を消滅させたが、それと同時に、今度は車体がゆっくり線路上を進み始めた。影時間で機械などが動く筈がないから、かなりの強風が吹いてそれで動いたのだろうと思ったが、それはみるみる内に加速していく。止まる様子なんてなく、あっと言う間に通常運行同然のスピードに達した。もしかすると、それより速いかも知れない。まるで新幹線にでも乗ってる気分だ。
『なっ…動かないんじゃなかったの!?』
『まさか、シャドウに支配されちゃった、とかかな?』
【…あぁ、その通りだ。
…マズいな……このまま加速していけば、あと数分で1つ前の列車に衝突する!!】
『…衝突、か…』
………。
………………。
………………………。
『『って衝突!?』』
僕らは急にハッとした表情を見合わせ、叫び声が揃う。それがこの車両全体に少し轟いた。
衝突……と言うことは、影時間が終わったら、変な矛盾が、今まで以上に大きくはらんでしまう。絶対に避けなくてはならない。
どうしよう、まずは落ち着こう。慌ててしまえば元も子もない。さっき走っていってしまった伊織に言ったばかりじゃないか。取り乱してはいけない、この速い脈に流されてはいけない。
胸を手で抑えて深呼吸をしていると、秋菜兄…俺……、と呟く声がした。少し顔を上げた視線の先に、僕と同じ目が強い意志を見せている明がいた。
『俺、順平んトコ行ってくる』
『駄目だ、危ないだろ。それに、前の事がないようにって言われた筈だ』
『今回は違う!アイツを助けるために行くんだ!
あの順平のことだ、ゼッテー1人で無茶してる。……頼む、行かせてくれ、仲間を失いたくない!』
『!』
……あぁ、そうだ。解っていた筈なのに、解っていなかった。
これは遊びじゃない。ゲームの世界でもない。人は一度命を落としてしまえば、それでおしまい……生き返らせる術などないんだ。
どんな状況にも落ち着いて行動し、全員まとまらせる事だけがリーダーじゃない。臨機応変に人を動かし、゙みんなを無事に任務を遂行する゙のがリーダーなんだ。僕はみんなの命を預かっている。なら、ここで伊織を1人にさせるのは、リーダーの取る選択肢じゃない。
『……明の足とすばしっこさなら、すぐに伊織の所に行ける筈だ。
アイツを頼む……。僕らも、すぐに追いつくから』
『うん、解った!』
僕も明と同じ目で返すと、明は自信満々に力強く頷くと、すぐに身を翻して次の車両へ行ってしまった。
勿論、二次災害の可能性だって有り得る。そんなことは起きてほしくない。とても心配だ、明が僕の予想を遥かに超えた無茶をするんじゃないかと。でもそれと同時に、明なら大丈夫だ、と兄弟間の信頼が僕を落ち着かせた。
【結局行かせたか】
『はい、……心配ですが、明なら大丈夫です。それより伊織の方が…』
【そうだな。まぁ今回はこの判断も悪くない。私が君の立場でも、そうしたと思う。
よし、ではこちらも動こう。明は無事シャドウを避けて進んでいっている。君らも出来る限りヤツらとの戦闘を避け、先行してしまった2人に追い付いてくれ。この状態が長引けば、各個撃破の可能性が高まる】
『もう、まったく順平のヤツ!自分からはぐれてどうすんの!?』
こんな状況に陥ったのも、明ちゃんが行かなきゃいけなくなったのも、みんな順平のせいよ!…と、岳羽は隣で弓を振り回しながらキレる。本人がいないからか、結構な声で怒っている。いや、その逆か……本人がいればむしろ、これ以上にぶちギレているだろう。
あ、ちょ、もう振り回さないで、弦が偶に当たって痛い。
【反応では、伊織は何両か先へ行ってるだけだ。すぐに追いつけるだろう】
『解りました。すぐに……』
明のこともあるため早く追いつきたくて、先輩の言葉が一旦切れた所で次の車両に振り返った。駆け出そうとすると、突如目前にシャドウが音もなく現れた。数は3体。種類も、さっきと同じヤツだ。どうも僕らを引き離したままにしておきたいらしい。
『もう、急がなきゃって時に!鬱陶しいっての!』
『手加減しないよ?』
『……一気に片付けるぞ!』
────────────
────────
────
『これで終わり……だ!』
ザシュッ!
順平の後を先に追った俺は、2つ先の車両でシャドウと鉢合わせてしまった。体力の消耗を抑えるためにペルソナ召喚は控えたけど、やっぱ生身で倒すのは一苦労だった。今、少し時間が掛かっちまったけど、何とか鎌だけで倒せた。
って、んなゆっくりしてらんねーんだ!この次の車両に、順平が1人でいんだ!姿はまだ解んねーけど、声がする。
『順平! って…何だこれ……』
急いで順平のいる車両に入り、名前を叫んだ。そしたらそこには、キシドーブレード一本と召喚器だけで戦っている、必死の形相をした順平の姿があった。敵シャドウは、彼奴が追い掛けたのと合わせ────6体だ。それも見てる間にあのティアラのシャドウがスキル技を使って、床の一部が黒いモヤに覆われるとそこから新しいシャドウが現れ、計7体となった。あのヤツ、なかなか手強いシャドウじゃねーか…!
こんなに一編に大勢で仕掛けてくるとか………やっぱ秋菜兄の言う通り、罠だったのか…!くそ、あの時ちゃんと順平を止めてれば!
いや、過去を後悔しても仕方ない、今は目の前のシャドウの撃破が最優先だ!
『順平、加勢するぞ!』
『っ、明……何で…っ、』
『1人じゃ危ねーだろ!もーちょいしたら秋菜兄たちも来るから、踏ん張れ!』
『秋菜も……(結局、アイツやコイツにもに助けられなきゃいけねーのか……?俺は、そんなにも弱ぇのか…?)』
一旦鎌を放り投げ、あまりリーチは無いが代わり命中率はほぼ100%の素手でヤツらとの戦闘に挑む。けど、体全身を休む間もなく振り回したりするから、結構バテるのは早い…。でも、だからって諦めねぇっ!!もーちょいだ、もーちょいで秋菜兄たちも…!
その言葉で勇気付かせ、目の前にフッと現れた〔囁くティアラ〕を、少し尖った鉛色の靴を履いた足で得意の跳び蹴りで消滅させた。残りは6体……の筈だが、実は違う。着地した時には、あのシャドウが再び[召喚]するからだ。だから終われない。体力と精神だけが削られる。
…クソッ、俺ら2人じゃ、この戦いを終わらせれねぇ!
『おい明、後ろ!』
俺よりも息を切らしながらキシドーブレードを豪快に振り回している順平が叫んだ。ハッとして即座に後ろを向くと、奥から先程やっつけたのと同じ、〔囁くティアラ〕が俺に[アギ]を仕掛けようとしていた。
"今の"俺は氷結耐性ではあるが、火炎弱点だ。回避は間に合わない…………ヤバい!
ガンッ!
『《ヘルメス》ッ!』
反射的に目をキュッと瞑って、来るであろう衝撃に備えたが、召喚器の音と順平の叫び声を認識した直後、俺の真横を何か大きなものが一瞬で通り過ぎ、その風で足下がフラついただけで、予想していた衝撃は来なかった。うっすら目を開けると、《ヘルメス》がヤツを[スラッシュ]で一瞬にして切り割き、チリの如く粉砕させた所だった。
『…サンキュー、順平』
〔狂愛のクビト〕からの攻撃を避けながらも、俺は順平に礼を言う。
だが、返事は返ってこなかった。ただ黙々と敵の殲滅に当たっている。その様子はただ倒そうとしているのではなく、八つ当たりと言うか、何と言うか……とにかく必死で、純粋に倒したいと言う気持ちじゃなく、それ以外の感情も含まれているように見えた。
『ハァ、ハァ……。
(明の力もいらねー……俺1人で…!
1人でもやれんだよ…!)』
『…………』
息もまた更に上がって来てるし、動きも鈍くなってきている……何でこんなにも、順平は1人で必死なんだ…?せっかく、俺が加勢しに来たのに……。
(なーんか引っ掛かるけど……でも今は、討伐と順平の援護優先!)
ガンッ!
『《ジャックフロスト》!』
今度は俺がペルソナを召喚し、手前にいた〔トランスツインズ〕に、ヤツの弱点である[ブフ]をかまさせた。ヤツはそれをモロにくらい、呆気なく霧状に砕け舞う。しかしそれも、再び[召喚]によって7体に後戻り。俺は無意識にチッと舌打ちを鳴らす。このペースじゃ、討伐するどころか返り討ちに遭う……あの[召喚]を使うシャドウを倒せりゃ、あとはどうにかなんのに、そのシャドウを狙おうとすれば、他のヤツらがソイツを庇おうと前に出てきて、攻撃が標的に届かない。
『クッソ……!
(シャドウのクセして見事な連携プレーすんなっつの!此方には大迷惑だっての!!)』
しかし、そんなヤツも長期戦でSPが足りなくなったのか、[召喚]をする事はなくなり、突如物理攻撃へ戦法を変えてきた。戦い方がさっきまでのジワジワと締め上げていくのと打って変わって、随分直接的になった。ヤツを庇っていたシャドウも前戦に加わり、攻撃のペースがグンと上がり、此方のペースが乱れ始めた。完全に此方が追い込まれてきている。それもその筈、ヤツらの半分が体力満タンだ。簡単にやられてくれる気配はない。それに比べ俺ら2人は体力ギリギリで、治癒魔法も無ければアイテムも持っていない。俺は避ける次いでに攻撃、って戦法だから必然的にペルソナの召喚が少なく、それによる疲れはあまりない。けど、順平は違う。重たい両手剣を無理に振り回すわペルソナを召喚し過ぎるわ、挙げ句に1人で戦うわで、俺の背中を使うか剣を杖代わりにでもしてねーと、背筋を伸ばして立っていられない程にまでバテている。このまま何かミラクルでも起きなきゃ、状況は悪化する一方なのは目に見えていた。
せめて、順平が1人で突っ走るのをやめてくれれば……俺が貸してやってる背中も、壁の様に思ってくれなければ…。
(……畜生……、このままだと挽回するのはキツイな…)
『…ハァ……ッ…。
(くそっ、体が思い通りに動かねぇ……こいつら多過ぎるし、何か急に攻撃の勢い増したっつーか……。
このままじゃ、俺……────死ぬのか…?
あれ、な、んだ……急に手が、動かなくて…)』
『順平っ、手ぇ止めんな!!』
『あぁ?……グアァァァッ!!!!』
〔トランスツインズ〕の物理攻撃を順平がモロ喰らっちまった!今のはかなりヤベェぞ…!
順平はしりもちを着いたが、何とか立ち上がって態勢を立て直せした…………けど、武器となる剣は、さっきの攻撃で手の届かない所にへ飛ばされてしまった。多分取りに行けない訳ではないだろうけど、今の彼奴がそうして背中を見せる事で、恐らく不意討ちされるだろう。
俺も同じ状況だ、今こうやって順平の様子を見るだけで精一杯……下手すりゃ、隙を突かれそうだ。
どうする!? 助けは!? 秋菜兄たちはまだなのか!?
つか、ここに来てから何分経った!? 実際はあんまなんだろーけど……もう何十分と戦ってる気分だ。
(…剣が、あんな所に……こうなりゃ、仕方ねぇ…!!)
カチャリ…
ヤツをギッと睨み付けながら、順平は震える手で召喚器のグリップを掴み、銃口をこめかみに当てた。
駄目だ、それ以上無理すんじゃねーよ!
何でだよ……何でそんなに、寂しそうな背中で戦おうとするんだ…? 何がお前をそうさせてるんだ?
そんな────秋菜兄そっくりな背中に、お前は何を背負ってるんだ?
(俺は、仲間と一緒でなくったって………1人でだって、こんなヤツら、ヨユーで…!)
フラッ…
俺が順平の加勢しに行こうと言う姿勢を読み取ったのか、そうはさせないとでも言いたげに、シャドウは更に圧してくる。一度気休め程度に蹴散らすと、視界の端で、順平の態勢が膝から崩れて前屈みになっていった。握力も失ったのか、召喚器をその場に落とした。しかし、順平はその音にも気付いていない。
『順平っ!!!!』
(何だ、この身体の重さ………俺、こんなに重かったっけ…?
…シャドウを1人で蹴散らすどころか、自分の体さえ支えられなきゃ、リーダー務まるワケねぇじゃん…)
敵は四つん這いになっている順平に構わず、死刑執行人の如く近付く。無論無言、無音で。
『順平っ、逃げろ! 早く!!』
(あぁ、シャドウがすぐそこに………もう駄目か……ハハッ、俺は結局、1人では何も出来ねぇってか…?…っ、情けねぇな…。
…ハァ……、何かもう疲れたな……。"力"があるクセに何も出来ない"俺"自身に…)
フッと、視界の中の順平が体を起こした。何をするのだろうと思うや否や、もう駄目だ、とでも言いたいのか。しっかりシャドウを見た後、遂に敵を目の前にして、順平は目を閉じた。ティアラのシャドウは、ピンと張った触手を振り上げる。
『順平────っ!!!!』
To be continued....
あ
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