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ーYourselfー
第23話『順平の暴走』

『…これ…だよね…』

『おぉ…、見事途中停止…』


 あれからすぐに美鶴と合流した5人は、大型シャドウの反応がある現場へ直行した。場所は、巌戸台駅と辰巳ポートアイランド駅間のレール上。巌戸台駅より血溜まりが点々とある不気味な線路上を約5分走った所に、一つの停車している列車を発見した。美鶴が言うには、どうやら大型シャドウは列車内部に潜伏しているらしい。が、中から明かりは漏れておらず、何かがいる気配はせず、一目見るだけでは解らない。外から見る限りでは、ただ妙な場所で止まっている普通の外観のモノレールで、他は特に何もない。


【みんな、聴こえるか?】

『はい、大丈夫です。今着いたんですけど、見た感じでは特に…』

【敵の反応は、間違いなくその列車からだ。くれぐれも以前みたいに離れ離れにならない様、注意して進入してくれ】

『了解っス!』


 変わらずノイズ混じりの美鶴の声に、自分が釘を刺されたという事を理解していない順平が、元気よく応答する。その様子を横目で見ている他のメンバーは、何か言う気にもならないのか、呆れたり溜め息を漏らすだけだっだ。


『ヘヘ、腕が鳴るぜ!つーか、ペルソナが鳴るぜ!』

『どういう感情表現よ、それ…』

『皆の者、出陣だ!』

『木乃はもうちょい緊張感持て』

『よし、じゃあここはリーダーの秋菜から入ってもらおう!』

『なぁ、何でそんなにお前は楽しそうなんだよ…』

『何言ってんの明ちゃん。人生楽しまないと損だよー?』

『そーゆー話じゃねーの!』


 懸命に彼女の超楽観主義を明は指摘するが、今更何を言っているのかと秋菜は思う。この約10年を共にしているのだ、明もそれを重々承知の上で言っているとは思うが、それを差し置いても、本当に今更なのだ。
 そんな彼女のいつものノリで、勝手に進入の先頭を努める事になってしまった秋菜。しかし、そうなるのも流れ上仕方がない。口約束とは言え、最終的には彼自身の意志でリーダーを引き受けたのだから。

(中にシャドウがいるか、否か……どちらにせよ、入って見なければ一向に事は進まないか)

 最後尾の車両内へ続く梯子を掴むと、彼の背中を悪寒が走った。手が湿り、嫌な汗が額から頬を流れる。秋菜は念のために空いた手で召喚銃を掴むと、それを一段一段確かめるように上がっていった。
 車内がギリギリ見える高さまで上ったところで、彼は一旦足を止め、中の様子を伺う。こうして見ていると至極小心者の様で、本当にリーダーとしての器が備え付けられているのかと、イライラし始めた順平が足を踏み鳴らし始めた。それと伴ってジャリジャリと耳障りな音が断続的に鳴るので、それを鬱陶しく思った明は順平の脇腹に鉄槌を下そうとした。が、兄の『大丈夫そうだ』と言う声に静止が掛かった。いつの間にか上りきって車内にいる。もっと早く言ってくれ、と思わず苦笑いした弟だった。
 中はどう?と、木乃が空かさず内部の状況を聞いた。どうやら車両間のドアは全開で、ずっと先までシャドウの姿は見えないらしい。血溜まりや象徴化は勿論あるようだが。

(大型シャドウ以外はいねーってことか?随分ナメられたもんだな)

 結局順平に鉄槌を食らわせた明が、鼻歌で行動を誤魔化しながら頭の隅で思う。と同時に、作戦は簡単に成功しそうだと思った。


『…だ、大丈夫そう?』

『…シャドウは見えないから、取り敢えずは……次、岳羽来る?』

『えっ!?……うん、解った……。ちょっと怖いカモ…


 それから順平の変態発言があったり、木乃による順平生き埋め策が決行されかけたりと、頭を抱えたくなる程馬鹿馬鹿しいことが色々あったが、とにもかくにも、5人全員の進入は無事成功した。
 改めて内部を確認する秋菜だが、彼はやはりシャドウの気配など感じなかった。いつもタルタロスと言う名のシャドウの気配ばかり───むしろその気配しかしない───ある場にいる所為で感覚が鈍り、小さな気配を感じられなくなったのだろうか。そうだとしても、そんな反応しかここではしないと言うことだ。これで象徴化や血溜まりさえなければ……何て思うのは何度目か、と秋菜は溜め息を吐きたくなる。これが現実だと突き付けられ、こんな生活を初めて1ヶ月弱……彼はまだ信じることが出来ないでいた。
 そして、彼の横で次のように呟く彼女も、恐らくその類いだろう。


『これ人間……てか、乗客だよね…』


 目は伏せがちであったが、ちらちらと赤く光る西洋の棺に視線をやっている。直視したくないのだろう。これが本来の人間の反応だ。こんなもの、現実ではなかなか見るものではない(赤く光りながら立っている姿などもっての他だ)。秋菜は感情を表に出さないため、一般的には恐怖を覚えていると悟られにくい。木乃に至ってはそもそも、興味津々に棺に近付いて躊躇いもなく開けようとするあの姿こそが本物なのだ。そして極めつけに、周りに"慣れている"先輩もいてしまえば、少数派である彼女のような"本来"が珍しく思われてしまう。それが今の、まさにこの状況だった。
 しかし彼だって一般の人々にある感情を持っており、当たり前にそれを駆使しているのだが。


『これが"象徴化"ってヤツか。マジ気味悪ぃ…。つか、多過ぎじゃね?』

(確かに、これだけあるとちょっとな…)

『ねーねー明ちゃーん』

『何……って、お前開けようとすんなよ!出てきたらどーすんだ!』

『また入れればいーじゃん』

『それで済む話かよ!』

『まーま、開けないからさ。そーじゃなくて、ちょっと不思議に思ったんだけどさー、』


 不思議に思う?あの木乃が!?

 木ノ葉兄弟以外はまだ木乃と会って1ヶ月も経っていないが、それでも彼女の性格はもう大体解る。不思議に思うことがあっても、すっとんきょうな考えを自ら述べ、それを軽く流してしまう。今みたいに声色を変えるなんて、そんな彼女から考えると珍しいことだ。少し通る彼女の声をもっと正確に聞こうと、誰もが耳を澄ました。すると、銃のリロード作業の音も聴こえてきた。緊張感があるのやらないのやら。


『何かおかしくない?ここ駅でもないのに、ドア全開とか……』


 木乃がそう呟くと、その言葉がまるで仕掛けの合言葉だったかの様に、車体から機械音が発せられ始めた。急な事態に困惑する一行。首だけを動かせ辺りを見渡していると────。


 ガッシャァンッ…


 大きな音を立てながら、車両のドアが全て一斉に閉じてしまった。入り口に一番近い位置にいたゆかりが、肩を震わせ驚く。
 連結部の扉から次以降の車両を伺ってみると、どうやら閉じたのは、全ての車両のドアのようだ。


『うわぁっ!
 え、ちょ…………嘘でしょ!?』

『くそっ、閉じ込められたのか!』

『マジかよっ!
 フッ………く…!くそぉ、開かねぇ!やられた!
 つか指凄ぇ痛ぇっ!ほらここんトコへっこんでんだろ!?』

『んなコント紛いなことしてる場合か!』

【どうした、何かあったのか!?】


 急に小型通信機から美鶴の声が鼓膜を震わせる。慌てて繋げたからか、ノイズも酷い。あの生徒会長である彼女が動揺しているのが、声からもよく解った。


『それが、どうやら閉じ込められたみたいで…』

【シャドウの仕業だな…。確実に君らに気付いているという事だ。何が来るか解らない。より一層注意してくれ!】

『了解です、美鶴さん』


 木乃が最初に少し顔を顰めながら応答する。やはりシャドウに気付かれたという事で流石に緊張感を感じているらしい。表情がまるで違う。人命の危機に関わると、いくらマイペースな彼女でも雰囲気は変わるのだ。
 顔つきが変わったのは木乃だけではない。この場にいる全員だった。息を潜め、向こうがどう動くか伺っていた。自然と緊張した空気が漂う。

 ────カチャッ…

 何らかの物音が僅かにした。耳の良い秋菜は、視線だけをそちらに向ける。
 車両と車両を繋ぐ連結部……複雑に金具や鉄板が重なり合っているその上に、音を不覚にも立ててしまった"ヤツ"が、そこにいた。


『…いるぞ、彼処に…』

『『!!』』

(〔囁くティアラ〕か?………いや、違う。初めて見るシャドウだ)


 秋菜は召喚器を左手に構え直し、右手で鞘に収めていた剣の柄を右手で握る。とにかくいつ掛かって来ても襲撃出来るよう臨戦態勢を取った。その彼の姿を見て、明は鎌を、ゆかりは弓を、其々すぐ動けるように構える。


『出やがったな!』

『待て伊織、落ち着け』


 召喚器を手にシャドウとの距離を詰めようとする順平を、秋菜は声で制した。はぁ?と少々気に食わない様子の彼だったが、秋菜の目が───と言うより秋菜本人が本気だったので、大人しく従う。動かないシャドウ。様子を伺う5人。止まった時の中で本当に時が止まったかのように、全てのものが止まった様だった。すると、ヤツは何か糸がプツンと切れたように動き出し、漆黒の体を翻して奥の車両へと姿を消した。


『ちょ、待ちやがれ!!』

【待て伊織!敵の行動が妙だ、嫌な予感がする】

『そんな!追っかけないと、逃がしちまうっスよ!?』

『いや……ここは慎重になるべきだ。迂闊に追い掛けるのは危険だ』

【あぁ、秋菜と同意見だ。一旦冷静になれ】


 今すぐに追い掛けるべきではない、2人がそう意見を揃えると、張っていた気を少し緩めたメンバーから息が漏れる。武器も一旦下ろされる。急に思いもよらず閉じ込められ、敵であるシャドウが現れる。気持ちがついていかず、力が入るのは仕方がない。幸運にも戦闘とならなかった今は、無駄な力を抜いて慎重になり、来る戦いに備えるべきなのだ。
 しかし、ただ1人はグッと拳を握った。


『……んでだよ…』


 1人武器を構えたままの順平が、先程までヤツがいた場所を指差す。


『あんなの、俺らで普通に倒せんじゃん!イチイチお前の意見なんか必要ねぇよ!つか、俺だけでやれるっての!!』

『あ、コラ、順平!?』

『1人で行っちゃ危ないってば!』

『順平!』


 他のメンバーの制止の言葉も耳に入れず、召喚器を片手に順平は次の車両へと走っていった。通信機からは美鶴の荒げた声も聞こえる。が、彼が足を止める気配はない。頑として無視を極め込んでいるらしい。


『秋菜、順平を追いかけよう!』

『ああ!』

【危ない、後ろだ!】

『『!?』』


 走り出そうとする一行は、彼女の叫びに近い声に足を止め、後ろを振り返った。そこには、先程までいなかったシャドウの姿が、複数体確認出来た。

(くそ、こんな時に……!)

 此方を分裂させるのが目的だったのか、図ったように悪いタイミングでの奇襲。やはり、あれは罠だったとしか思えない。
 幸い敵は2体に対し、此方は4人。優勢だ。しかし、はぐれてしまった順平はたった1人……その上、冷静さを欠いている状態だ。

(気を付けろ……無事でいてくれ、順平…!)






 To be continued....


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