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BL小説
蛍籠 ♯7
「うっ、うう…グスッ」

道行く人が俺を見ていく。
でも今は他人なんてどうだっていい。
ただこの辛さをどうにか出来るなら、今みたいに無様に泣きじゃくっても、他人にジロジロ見られても良いと思えた。

今頃和成は利香と二人でいるだろう。
もしかしたらキスとか、しているかもしれない。
和成の願いが叶ったんだ、利香が悲しまずに済むんだ。
そう思い込もうとしても、やっぱりうまくいかない。

俺と重ねてくれたあの唇を、利香に奪われたくない。
俺の隣にいてくれたあの肩を、利香に譲りたくない。

もう涙は止まらなかった。
擦っても擦っても、溢れ出てくる。和成への気持ちも一緒に。

「うああ…ああっ」

やっぱり、和成が好きだ。
隣にいたい。
手を繋いで、
喋って、
笑って、
キスしたい。

和成。

「かずなりぃ…」

和成、
好きだ、好きだ好きだ好きだ。

気が付くと公園の前まで来ていた。
もう二人でここに来ることも無いだろう。
辺りは夕方というよりはもう暗く夜になっていて、大通りの明るさで公園は一層暗く見えた。

公園にまだ和成と利香はいるだろうか。
明るい大通りを歩くのに疲れた利津は、暗い通りを進もうと公園に一歩足を踏み入れた。
どうせ二人がいてもいなくても、この公園が辛いことの象徴なのに変わりはなかったからだ。

まるで今の俺みたいだ。
暗い中に自ら入ろうとしている。

「利津!!」



一瞬、何が起きたのか理解出来ずにいた。

抱きしめられている…、誰に?
そんなの考えなくても、声ですぐに分かる。
俺の好きな人の声だ。

「やっと、見つけ、た」

和成の声は途切れ途切れで、息を荒くしているのが分かった。

温かい、この温度を感じることなんて二度とないと思っていたのに。
止まりかけていた涙がまた流れだした。

暗い中に入ろうとする俺を、和成は引き止めた。
そう考えて、いいのか?
違うだろう、利津。


だって和成は、

利香のことが。



利香。


その単語を思い起こした瞬間、利津の頭は冴えていった。
思わず和成を突き飛ばす。

「…っ、利津?!」
「和成はっ」

何で俺を引き止めた和成。
そんなことしたら、皆不幸になるんだ。

「…和成は、俺といちゃ、駄目だろう!!」
「どうして!」
「だって、和成は…」

口に出そうとした時、思わず躊躇した。
言いたくないけれど、現実。
ああまた涙が出るじゃないか。

「和成は…利香のことが好きなんだから」

俺を見る和成の顔も涙で歪んで見えない。
もう終わらなきゃいけないんだ。

「利津、聞いてくれ」
「やだよ、…だってもう分かってるもん!聞いたって意味ない」
「利津」
「いいよもう、いい」
「利津!」

突然肩を掴まれ顔を向けさせられる。
いくら逃げようとしても和成の力に勝てない。

「やめてよ…もう…」
「好きだ」
「分かってる、利香が…」
「利津が好きだ」

え?

「…今、何て」
「俺は利津が好きなんだ」
「だって和成、だって…」
「利香ちゃんとキスしそうになったけど出来なかったんだ、お前のことがずっと頭から離れなかった、これは好きってことじゃないのか?」

利津には未だ現状が掴めなかった。
諦めていた、もう友達以上の関係を持つことは無いと思っていた人が、自分を欲してくれているなんて。

「夢…じゃないよね?」
「何で夢なんて思うんだよ、本当だよ」
「和成…」
「利津は、俺のことどう思ってんの?」
「どうって?」
「お前が俺に利香ちゃんと会わせたのは、俺が嫌になったから…なのかなって」

和成の声色が暗くなる。
俺のよかれと思いとった行動が、和成を不安にさせたのだ。
少し、嬉しくなった。

「何でそんなこと考えるんだよぉ…俺は、和成のこと大好きなのに」

途端に強い感覚。
今度は後ろから突然ではなく。正面から、優しく包むように、抱きしめられる。
耳に意識を集中すると、和成が泣いているようだった。

「俺も大好きだ利津」

俺のために流す涙。
和成は他人のために涙を流すことが出来るのだ。
ああ、和成を好きになってよかった。
優しくて、素晴らしい人を好きになった自分が誇らしくて。
その相手と思いが通じ合った嬉しさが、また涙腺を緩めさせた。

和成の背中に手を回し、肩越しに背景を見る。
公園の街灯が涙で滲んで、丸く明るく灯っていた。

「…綺麗だ」
「何が?」
「街灯、蛍みたいだ」


優しい笑い声が耳元で響いた。

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あきゅろす。
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