BL小説
蛍籠 #6
ずるいじゃないか利香、和成の心を持て遊んで。
酷いじゃないか利香、俺の心を傷つけて。
それでお前は自分のために泣くのか、なんて勝手で、酷い。
「利香…」
「……何?」
「俺の友達のさ、ほらこの間も会ったじゃん…」
でも、俺に利香を憎む資格なんて無い。
「…和成ってゆー、あいつのこと、…どう思う?」
だって、俺も、自分のためにしか泣いたことがないから。
朝の冷たい風の中を和成と並んで歩く。
一緒に登校するのも今日が最後だと思うと、足が重くなる。
いつもの道、和成と放課後喋った。和成とふざけあった。和成と、初めてキスをした。この公園。
これが最後だと自分に言い聞かせて、立ち止まる。
「和成」
「ん?」
「…キスして」
和成は目を丸くさせてこっちを見た。
だめだ、泣きそうになる。
でも、泣いたらだめだ。
おかしく思われる。
「…いいよ、目瞑って」
「ううん…和成のこと、見ていたいんだ」
「俺は構わないけど」
大きな和成の手が、俺の肩に触れる。優しく、包み込まれるような感覚。
和成の顔が近づいてくる。
こんなに和成の近くに居られるのも、今日で最後なんだ。
唇が触れた瞬間、目頭が熱く疼いた。
「和成…今日の放課後、5時に、ここで待ち合わせ…いい?」
「学校から一緒じゃ駄目なのか?」
「うん…一生のお願い!」
「ハハ、分かったよ」
和成が気持ちの良い笑顔を俺に向けてくれた。
ありがとう和成。
これでおしまいだ。
放課後、屋上で校庭を眺めていると、校門を出ていく和成の背中が見えた。
何回さよならを呟いても、胸が締め付けられるように苦しくて、痛い。
「帰ろう」
屋上の風は冷たかった。
5時になっても公園に利津はやってこなかった。
和成は不安になった。もしかしたら来る途中で事故に遭ったのかもしれない。
利津の携帯にはさっきから電話をかけ続けているが、一向に繋がらない。
学校に戻ろうか、家に行ってみようか、でもすれ違いになる可能性だってある。
和成が頭を思い悩ませていたその時、背後から誰かに声をかけられた。
「和成くんだ、久しぶり」
「あ…利香ちゃん」
以外な人物に会って和成は驚いた。
なぜ利香がここに居るのか、和成には見当もつかなかった。
「…どうしてここに?」
「利津にね、呼び出されたの」
「え…」
「よかった…和成くんに会えて…私ね、和成くん」
利香が和成に近付き、和成の胸にもたれて顔を埋めた。
「一人になっちゃった…」
利香はか細い声を出して体を目の前の男に任せる。
和成は混乱していた。
友達に会いに公園に来たのに、今は片想いだった女の子と、公園で身を寄せあっている。
利香の震える声を聞いていて、和成は気付いた。
利津は、自分にチャンスをくれたのではないか?
彼女がひとりになったから、自分と彼女を会わせて、二人の関係をうまくいかせようとしているのではないか。
和成は喜びよりも、罪悪感が感情として湧き出てきた。
利香にではない。
利津への罪悪感が。
やはり男同士なんて嫌だったのだ、だからこうやって、強引にも自分を応援してくれている。そう和成は思った。
利津に対する申し訳なさしか出てこない。
ごめんな利津、親友だったのに、もう許して貰えないのか。
「和成くん…」
我に返り、目の前に利香がいたことを思い出す。
なぜだ、好きな女の子と今二人きりでいるのに、考えていたのは親友の利津のことばかりだった。
「和成くん…一緒にいて」
そう言って利香は和成に顔を近付ける。
片想いだった女の子が、自分を受け入れてくれる。
幸せなはずだ。
だって、心臓は激しく鼓動打ち、緊張で手には汗をかいている。
もう少し、もう少しで利香と唇が触れる、そんな時
利津の顔が頭をよぎった。
「…和成くん?」
やっぱり、利香がかわいいと思う。
でも、好きなのは
「ごめんなさい、俺あなたとはキス出来ません」
好きとは、違うんだ。
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