[携帯モード] [URL送信]

BL小説
蛍籠 #5
「利津」

朝の日射しの中、振り向くとそこに和成がいた。

「おはよう」

柔らかい笑顔を向けられると、昨日のことが嘘のようだ。
嬉しい気持ちの反面、恥じらいも込み上げてきて頬が熱くなるのが分かった。

「…おはよう」

つられて笑うと和成が嬉しそうに俺の頭を優しくなでた。

和成は昨日の事、ちゃんと覚えているのだろうか。
俺が夢を見ていただけなのだろうか。そう考えると、何だか不安になって泣きそうになった。

「利津」
「うん?」
「…好きだよ」

唐突に言われて、頭が真っ白になる。

「なっ…何」
「昨日の…覚えてる……よな?」

和成を見上げると、顔はよく見えないけど耳から頬にかけて赤くなっているのが分かった。
よかった、和成も同じ、不安なんだ。

「…うん」
「あの、本当嫌だったら」
「嫌じゃない…よ」
「利津…」
「和成だから、良いんだ」

ほら、和成はちゃんと俺の事、“利津”って呼んでるじゃないか。大丈夫、大丈夫。
あの時俺を利香と呼んだ、でも、ちゃんと俺を利津だってわかってくれてる。

「…手繋ぎたい」
「え、利津、それは…」
「いいじゃん、今誰もいないし、そこの通り出るまで…ね?」
「……」

和成が顔を背けて手を控えめに出す。

「…ほら」

そっと指先から和成の手に触れる。ちょっと冷たい手のひらに自分の手を重ねると、もう周りなんてどうでも良いくらい幸せな気持ちになった。

「…和成、好き」
「……うん」

和成の肩にもたれて小さな声で伝えると、低い声で返事をしてくれた。





「大丈夫か」

階段で転びそうになった俺を、両腕でしっかりと支えてくれた。
顔を上げるとすぐ目の前に和成の顔があって、心臓が飛び出そうになる。

「あ、ありがと!」

急いで和成から離れる。
格好悪い自分を見られて恥ずかしかった。

「利津」
「へ?」
「かわいい」

顔から湯気が出そうなくらい、頭の中が沸騰したみたいになる。
嬉しい反面複雑だ。

「もう、和成ってば…」
「本当に、かわいいよ」

優しい瞳で覗き込まれる。
ずっと、こんな関係が続けばいいのに。
そうしたら、和成とずっと一緒にいられるのに。

そんなことを考えていたら、和成に頭を撫でられた。





放課後、ぬるい風が教室の窓から吹き込んでくる。
普段使われていないせいか少々埃っぽい。

「…利津、いい?」
「…うん」

覚悟はしていたが、やはり緊張してしまう。
でも、和成が好きだ。
もうどうしようもない事だった。

目を閉じると温かい感触が唇を塞ぐ。
優しいキスに身を委ねていると和成が俺のネクタイをほどき始めた。

「か、和成!」

和成は再び唇を重ねてきた。今度は深い、息をするのも忘れてしまいそうなものを。
いつの間にかシャツのボタンを全て外され、服は肩まで下ろされてしまっていた。

ふっ、と目の前が明るくなったかと思うと、首筋に感覚を覚える。

「和成っ、ぁ…!」
「声出したら見つかるよ」

そう言いながらも和成はやめない。首から肩、胸とキスを落としていく。
腰まで下がった所で、和成は利津のベルトを外しだした。

「やっ…何…!」
「静かに」

カチャカチャと金属音が嫌に耳をつく。ズボンを下ろされた頃には恥ずかしさで死にそうになっていた。

「か…ずなり…っ、や…」
「好きだよ」

その言葉に頭が冴えた。
この間のは聞き間違いだと言ってくれ、頼むから、和成…
…利津って呼んでくれ

「好きだ、好きだよ利香」


目の前が真っ暗になった気がした。

優しいはずの和成の手さえ、触れるたび辛かった。





和成に送ってもらい、家に帰って来たのは良いが、玄関の前で立ち止まってしまった。
利香と昨日口論になってから一度も口をきいていないのだ。

「…ただいまー」

奥から返事がない。
利香はまだ帰っていないのだろうか。
ところが靴を脱ぐとき気付いた。利香の靴があるのだ。

「利香ー?ただいま、俺だよ?」

やはり返事はない。
何かあったのか?
嫌な予感がした直後、居間に入った途端横から誰かに引っ張られて、そのまま床に倒れ込んだ。

「いって……利香!?」
「利津ごめん、ごめんなさい、お願いだから嫌わないで」

利香の顔を見て気付いた。
利香は、泣いていた。

「り、利香…?」
「あんたにまで嫌われたら、私どうしたら良いの…」
「ごめん、大丈夫、嫌ってないから、…ねぇどうしたの?」

利香は涙を制服の袖で拭きながら、途切れ途切れに言った。

「…っ、別れたの」
「え?」
「…昨日会ったでしょ、別れたの」

震えを利香に見せないようにしながら、小さな声で
「そっか」と言うのが精一杯だった。

利香が彼氏と別れた。
俺には関係ない事だ、でも。




和成には?


和成はまだ利香が好きなんだ。
利香に彼氏がいなくなったと言うことは、和成にもチャンスが出来たと言う事。

親友として、言わなくちゃならない。
でも、そうしたら今の関係はどうなる?またただの友達に戻ってしまう。

嫌だ、だけど、言わなきゃ友達でもいられなくなる。


「…利津?」

利香が心配そうに俺を見る中、不安がつのっていくのが、怖くて仕方なかった。

[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!