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BL小説
蛍籠 #3
分からなきゃよかった…
分からなきゃ。


好きだなんて、どうして気付いてしまったんだろう……。



「どうしたの?利津、らしくない顔しちゃって」

目の前で座っている俺とそっくりな顔をした姉はのんきなものだ。
原因が自分にあるとも知らないで…

…いや、これはただのごまかしと嫉妬でしかない。
今まで気付かないフリをしていたのも、気付いた今、姉の利香のせいにしているのも、

全部。

自分のせいなんだ。


「何でもないよ、利香こそ、なんか嬉しそうだね」

話を続かせるためのとっさに出た言葉だった。
でも、その時確かに姉の表情が変わった。少なくとも俺にはそう見えたんだ。

「良いことでもあった?」
「…いやーねー、そんなんじゃないわよ」

利香が嬉しいなら俺も嬉しいはずなのに、なんとなく、なんとなくだけど、
心の奥に鉛が沈んでいるような気がしてならなかった。



相変わらず和成は浮かれている。毎日俺に利香のことを聞いてくるのだ。
まさか和成が利香を好きになるなんて思ってもみなかった。
何の確証もないのに、心のどこかで、和也に自分より大切にする相手が出来る事なんてあり得ない、そう思っていた。

別に自分に自信があるわけじゃない。でも、ずっと親友同士、一番でいたかったんだ。


「利津、どーした」
「は?」

気が付くと和成が俺の顔を覗き込んでいた。
急な顔の大接近で思わず立ち上がろうとして膝が机にぶつかる。

「あっはっは!何してんだよ、次移動だぞ」
「…〜〜〜っ、ゴメン」

慌てて教科書をまとめて席を立つ。
何でもないようにふるまっているが、本当はぶつけた膝の痛みと格好悪い所を好きな人に見られた恥ずかしさで頭がパニックになっていた。
顔に出ているかもしれないので和成より半歩後を歩く。前を行く和成の背中は大きくて、本当を言うと今すぐ飛び付きたいくらいだった。
それが叶わないから、余計願ってしまうんだろうか。

階段を上る時、下りてくる集団とぶつかり俺は和成の後ろに入った。
間近で見る背中に見とれていると、誰かにぶつかって前のめりになる。頭が和成の背中にぶつかり、そのまま体重が前へとかかった。

「うおっ、利津大丈夫か」
「うわ、ごめん…」

急いで体勢を立て直すが、まだ背中に飛び込んだ余韻を感じていたかった。
それに突然の事だったからあまり覚えていない。勿体なかったな、と思い熱くなった自分の頬に手のひらを押し当てて、熱を吸い取ろうとした。

和成に触れただけで、茹で上げられたように体が火照ってしまう。
もうどうしようもない思いが身体中を駆け巡る。言葉に出来ない分顔が赤くなってしまう。

「利津?」
「あ、ごめんごめん、行こっか」

なるべく目を合わせないように、視線を下に落として会話する。
だって和成とまともに向き合ってしまうと、自分の本心を言いかねないからだ。

「…利津あのさ」
「え?」
「今日の放課後話あるから、公園行っといてくれないか?俺今日先生に呼ばれてるから」
「う、うん…」

話?何だろう。
まさか、俺が和成を好きな事がバレたのだろうか。
それだと、もう絶交だろう。俺の気持ちを知った上でこの先友達という関係を続けてくれるわけ無い。

その後の授業には身が入らず、放課後までまともに和成と口をきく事が出来なかった。

教室を先に出ようとした俺に、5時には行けるから、そう言って職員室に駆けていった和成を見て胸が張り裂けそうになった。



5時までずいぶん時間があったし一旦家に帰る事も可能だったが、1人で頭を冷やしたい気分だったし、もし家で利香に会えば正気でいられる気がしなかった。

だからまだ1時間以上あったが、先に行って公園のベンチで待つことにした。
1人だと、余計な事ばかり考えてしまう。
辛くて苦しくて、壊れてしまいそうで。

ふと公園の真ん中に立っている時計に目をやると、もう5時10分を回っていた。
時間にはうるさい和成が遅刻なんてするはずがない。
来る途中何かあったんだろうか?

そう思い憂鬱な中腰を上げる。

どうせ自分と縁を切ってくれと言われる相手に、わざわざ足を運んで会いにいくものでもないのだが、それよりも和成の安否が心配だった。
歩くたび自分をののしっているような気分だった。


大きな噴水の向こうに和成の姿が見え、急いで声を掛けようとする。

「和な…」

和成に近付き噴水に隠されていた視界が広がっていくと同時に、見えたくないものが目の中に飛び込んできた。



「……利香?」

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