BL小説 蛍籠 #1 「なぁ利津、お前のちょっとちょうだい」 「やだよ、自分の飲んでろ」 公園の、同じベンチの隣に座る、俺より背の高い男。 高崎和成。俺の友達。 「だってこれあんまし美味しくないんだもん〜、お前のコーラの方がましィー」 「自分で新作試すって買ったんだろー!?自分で飲め!」 「利津のけちー」 はいはいケチですよ、そう言って俺はまたコーラを飲み始めた。 文句を言いながら和成も自分のジュースを飲む。 和成の手には“マンゴープリンマーマレードジュース”と表記された缶が握られている。 どうしてそんな怪しいモノ買ったんだ…。 俺が一息入れようとコーラの缶から口を離したとき、ひょい、と手元から消えた。 「…和成!?」 「残念、もう飲んじゃった」 早っ…てゆーか、人の飲み物をコイツは……! 「このやろーーー!」 「うわ、りっちゃんギブ!」 でも俺本当は怒ってないんだ。ただ、こうやってコイツと一緒にいるだけで楽しい。 どっかで聞いた言葉、唯一無二の友ってヤツだと思う。 友達だから、親友だから、かけがえのない存在なんだ。でも… …この胸のモヤモヤは一体何だろう? 「うわっと、ごめん」 お互いじゃれあっているうちに、俺はベンチの上で和成に押し倒されるかたちになっていた。 「いや…」 和成が俺の視界から消えていく。和成が退いたあとには、青と夕日の赤が交じった高く広い空が見えた。 さっきの近い和成の顔、俺の顔に当たる吐息、俺の吐いた息が和成に吸い込まれるあの感覚。 そして和成が視界から消えたときの心に穴が空いたようなこの感覚。 さっきよりモヤモヤが大きくなっていく。 分からない、でも、分かっちゃ駄目になるような気がして、知らないフリをした。 「いこっか」 「そーだな」 カバンを持って大通りへの道を歩く。 人通りの少ない公園で、黙って歩いていると鳥の鳴き声、遠くの車のタイヤの音、薄い雑音がまんべんなく広がっていく。 こんなのも悪くはないのだが、なんとなくさっきのおかしな自分の感情を忘れたくて、いつの間にか俺は和成に話しかけていた。 「今度ゲームしない?新しく出たの買ったんだ」 「いいねー、いつにする?」 「明後日の日曜は?」 「俺ん家日曜人来るんだけど…利津ん家は?」 「いいよ、あ、でも多分家族いるけど」 「俺は構わないけど…お袋さん?」 「親父もお袋も日曜は用事あるよ、多分姉キがいると思う」 「姉キィィィィ!?」 大通りで和成が急に大声を出したせいで、周りにいた人達が全員こちらを向いた。 「ちょ、和成静かに!」 「あ、姉って、姉ってお前、姉キって」 「あれ?言ってなかったっけ?双子の姉いんの。俺」 「は、初耳初耳!!!」 あっれ〜そうだっけと俺は呟く。 親友だなんだとか言っておいて結局何にも知らないんだな、俺達。 和成は俺に姉、しかも双子がいることを知って混乱しているようだ。 何て声をかけようか迷っていると、遠くから俺にとって馴染みのある声が聞こえてきた。 「利津〜〜〜」 俺とそっくりの顔の、双子の姉。 「利香!」 「利津いいところに〜、今日友達の家で夕ご飯ご馳走になるって母さんに言っといて」 「うんいいけど…ケータイは?」 「家に忘れてきちゃったのよー」 我ながら抜けている姉だ。自分の顔とそっくりなのがイタくてしょうがない。 それにしても、和成ビックリしてんだろうな。 親も昔はよく間違えたらしい、俺とそっくりな顔の女がいるんだから。 目の端に映る和成に焦点を合わせてみる。 「…和成?」 「そっちは?友達?」 「あ、うん、友達の和成」 「そっか、よろしく和成君。じゃ私行くから」 「あ、うん、じゃね」 利香が消えていった方向を、和成はずっと見つめていた。 いくら目の前で手を振っても、全く反応しない。 「和成っ!!」 顔の前で手を叩いてやると、我に返ったかのように和成は俺の存在に気がついた。 「え?何?何か言った?」 「…まさかお前…」 髪を整えて、上目遣いで和成を見る。 「か…和成君っ」 声を作って言ってやった。一発だった。 みるみる顔を真っ赤にする和成。 嫌な恋の始まりに立ち会ってしまったせいか、また俺の中のモヤモヤが膨らんでいった。 [次へ#] |