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小説
y第7話
お母さんが僕の方に手を伸ばしている。

何が起きているんだろう?

カンカンカンカン と
踏切の警報音。

お母さん、お母さん

お母さんの手が僕の肩に届いた瞬間、勢いよく遮断機の外に突き飛ばされた。

背中からアスファルトへ落ちるようにぶつかる。

熱い、

夏の日射しが僕のアタマと地面を焼いていく。

暑い、

カンカンカンカン

まだ目の前の警報音は鳴りやまない。

お母さん?

どうして泣いているの?
笑っているの?

電車と線路が鈍い音を立てる。

カンカンカンカン

目の前からお母さんが居なくなる。

遮断機の下をくぐって赤黒い液体が僕の足元まで流れてくる。

僕のスニーカーの先を血が濡らした。

もう次の時には、目の前が赤から真っ暗に塗り固められていた。







「浩仁、ほら、お坊さんが来てくれたから、お前もこっちに来なさい」
「……うん」

お父さんは、お母さんの入っている箱を開けさせてはくれなかった。
周りの大人も、泣くばかりで、箱を開けようとはしなかった。

『まだ若いのに…』
『息子さんもまだ7歳でしょう?お気の毒に…』

皆の言う台詞はいつも同じ、お父さんはペコペコ頭を下げるだけだった。
本当は、今すぐにでも誰かに泣きすがりたかった。
でも、出来なかった。
お母さんが誰のせいで死んだのか、僕は分かっていたから。
僕のせいで死んだから。

殺したんだ。

僕が。

大好きだったお母さんを。

だから、誰かにすがることも、皆の前で泣くことも、しちゃいけなかった。
誰にも言われたわけではないけれど。
分かっていたから。
出来なかった。

大人は皆僕を健気だと言った。
目の前で母親を亡くし、葬式でも涙を流さない僕を。

でも違うんだよ、
僕が悪いんだよ、
いっそのこと責められた方がマシなのに、
お父さんすら僕を責めてくれない。

1人で黙っているしかなくて。

だからといって、お母さんが帰ってくるわけでもなくて。




お葬式が終わって、火葬場にお母さんが連れていかれた。

骨になって出てきたとき、お父さんが、こらえていたものを吐き出すかのように
泣き崩れた。

僕を責めればいいのに、
ただ、熱いお母さんの骨を素手でかき集めて、
手が火傷になるのもお構い無しに、
泣いていた。

ごめんなさい も、言えなかった。
僕がその言葉を喋っても、何の意味もなさないと分かっていたし、
どうにもならないから。


僕はただ黙っているだけでいいんだ。

泣かなければいいんだ。


お母さん、ごめんなさい。
お父さん、ごめんなさい。

良い子にするから、
お母さん、帰ってきて。
お父さん、許して。

良い子にするから、泣かないから、誰か助けて。



お母さんがお墓に入れられた帰り、お父さんと踏切に花を置きに行った。

お父さんと、僕のつないでいた手が潰れそうなくらい強く握ってきて、
見上げると歯を食い縛って泣いているのが見えた。


ごめんなさい。


これからは良い子でいるよ、誰にも迷惑かけないようにするよ。





踏切の前でそう決めた夜、

自分の部屋で
電気を消して
真っ暗な中誰にも気付かれないように

声を殺して

泣いた。

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