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小説
y第6話
「女の子だったら良かったのになぁ」


梅雨の高い湿度のせいで肌にまとわりついてくるカッターシャツの首元をバタバタと動かしながらアツシが切り出した。

「…はぁ?」
「アレだろ、義兄弟の」

携帯扇風機で一人だけ快適そうにしながらケイが解説する。
アツシの話はケイ無しでは理解出来ないのが難点だ。

「だからぁ、女の子だったらアレじゃん?毎日家に帰るのが楽しみじゃん?」
「……」

ケイの解説は無い。
恐らくアツシ個人の話で、説明はいらないと、ケイは判断したのだろう。

「それでさぁ、オレ脈あるっぽいコが出来たわけでさぁ?」
「ふーん」
「へー」

アツシが浮かれた顔で目を細めて天井を見上げる。
ケイがこっちを向いて声を出さずに
こ い つ バ カ だ
と言ったのでうなずいた。


「んで、竜也どうよ?最近そいつとは?」

「んで、じゃねーよお前!」とケイがツッコんだ。
漫才コンビにでもなったらいいんだこの二人、とは言わず、アツシの投げやりな質問に答える。

「仲良くやってるよ、ぎこちなさも無くなったし」
「へぇ、良かったじゃん」

質問してきたアツシは口をおさえられ、なぜかケイが返事をしたが気にしないことにした。
アツシが何かモゴモゴ言っているがそれも気にしない。


「まぁ何かあったら言ってよ、相談にのるからさ、アツシが」

ハハハ、サンキューとケイに笑った横で、アツシがまたモゴモゴ言っていた。





帰りのバス、途中で浩仁が乗ってきたのが目に入ったので声をかけた。

「おーい、こぉじー」
「あ、竜也!」

奇遇だね〜と笑いながら浩仁は隣に座ってくる。
俺はカバンをどけながら、同じ路線なのに奇遇も何も無いんじゃ、と考える。


「一緒に帰るの初めて?」
「だったっけ…?かもな」
「この時間て、竜也部活?」
「いや、友達と教室で喋ってた」

そっかー、そう言って膝に目線を落とす浩仁。


この間から何か元気が無い、と竜也は思っていた。
あの、久保という男に会ってから。
気のせいなら良いのだが、どうにもそうじゃないらしい。時々横からため息が聞こえる。

「浩仁……」

声を出してみても、その後に言葉が続かない。
浩仁がこちらを不思議そうに見ている。

「竜也変なの」

にっと浩仁が笑った。






「昔は」

夕食後両親が居間から席を外し二人になったとき、浩仁が話しだした。

「一人っ子だったんだよなぁ」
「昔はって、1ヶ月ほどしか経ってないぞ」
「そーだっけ?」
「そうだよ」
「でも1ヶ月だよ、早いと思わない?」

何を急に言いだすんだこいつは、と思った。
どうしたんだ?と問いかけたとき、浩仁が止めていた言葉を再び切り出した。

「…でもさ、」
「…」
「でも、まだお互いのこと全然知らないよね」

いつもの俺なら そりゃそうだろう、と返しただろう。だが、今の俺にはそれが言えなかった。
だって何も知らないのだ。浩仁があの時苦しんだ理由も、何も。

「…ごめん、何か俺最近疲れてるのかも、悪いけど今日はもう……」
「待てよ!!」

自分でも浩仁を呼び止めたのに驚いた。しかし、口から惜しみもなく出たその言葉に後悔は無い。

「……心配だったんだよ」
「たつ…」
「心配だったんだよ!でも、お前のこと何も知らない俺には何も出来なかった」
「そんなこと……」
「良ければ、知りたいんだ…、お前のこと、昔…何があったのか」

浩仁をまともに見ることが出来ない。下を向いて、それでも今言える精一杯を全て言った。

「一人で抱え込むなよ…」




浩仁の、軽くどもったような声が、小さく

「うん」

と返事をした。

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